町への第一歩
「こっちであってるか?」
「うん、あってるはず」
行商人だった父と一度町へ降りたことがある蓮に道案内を任せ、オレは薫が転ばないよう手をつなぎながら、怜衣は周囲を警戒しながら、山の中、歩みを進めた。
「でも、前に通ったときよりもずっと歩きにくくなってる」
「人の往来もほとんどなくなったんだ、そりゃ草木が生えて歩きにくくもなる」
「そっか。そんなに時間が経ってたんだな」
まだ日が上がりきっていない頃に出発したが、すでに沈みつつある。どこかで休める場所を探したいが、険しい山のためなかなか見つからない。
薫も、出発時は冒険のようで楽しいとはしゃいでいたが、今はもう目に見えて元気がなくなっている。
「蓮、あとどれくらいで着きそう?」
「前に来たときも、一回だけ野宿で夜を明かして町へ向かっていたから、まだ着かないと思う」
「そうだったのか・・・それは遠いな」
隣を歩く薫は、ほとんど限界だ。
おぶって歩いてもいいが、どのみち野宿をするなら無理をする前に休んで、体力を取っておきたい。
「そろそろ本格的に暗くなってきそうだね。一度、進むことではなく、休める場所を探すことを目的にしようか」
「そうだな」
何分か歩いていると、群生していた木が少しだけまばらになっている場所を見つけた。
草木をどけて、蓮の持ってきてくれたつぎはぎの大きい布の上へみんなで座る。薫はよほど疲れていたのだろう。何度か水を飲むとすぐ寝息を立てていた。
かといってみんなで仲良く眠るわけにもいかない。天使が襲ってくる可能性も考えて、周囲を警戒するため、当番制で見張りをする。
蓮が、俺も起きて見張りするから、と言っていたが、やはり疲れていたのだろう。睡魔に打ち勝てず、気付けば薫を守るように、そばで眠っていた。
怜衣と二人で、火を囲む。
「怜衣、疲れてないのか?」
「うん、まだ大丈夫だよ」
高校時代には、体育の授業のたびに憂鬱だと話していたのに、これだけ山道を歩いても余裕そうだ。
「高校の時と比べて体力がついたんだな」
「いや、むしろ大学生になってより出不精になったんだけどね」
「そうなのか、別に痩せてると思うけど」
「うん?もしかして出不精をデブ症だと思ってる?・・・まあいいか。身体能力が上がったのは、さっき話した変な声が聞こえた時からなんだ」
「ああ、暴食とかなんとかってやつか。まあその力があれば蓮たちのことも守れるし、ありがたいけどな」
「うん、結局あの声が何なのかはわからないけど。ただ、天使がもし出てきたら、みんなを守るから。頼ってね」
「俺がお前に守られっぱなしでいるかっての!あんなやつらまた出てきても、このパンチで一発よ、おらおら!」
「ちょっと、起きちゃうからシャドーボクシングやめて!」
ああ、楽しいな。
天使に襲われて命の危機を感じていたって、友人とバカやれる今が、すごく楽しい。
高校を卒業してから、笑ったのなんていつぶりだろうか。
「・・・ぅん」
「やべ」
「ほら!起きちゃうでしょうが!」
薫が一瞬身じろぐが、すぐにまた寝息を立てる。
「ふう、危なかったぜ」
「危なかったぜ、じゃないよ。もう龍牙は寝てて」
そういって、手でしっしと追い払われる。
「はいはい。それじゃお言葉に甘えて、先に寝るか。キリのいいタイミングで起こしてくれな」
「うん、任せて。おやすみ」