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蓮の葛藤

 蓮たちと会ってから三日後。

 北にある村へ行くと決意をして、そのための準備を進めていた俺たち。

 準備自体は順調に進み、一日で終わった。

 しかし、その後も蓮は、もう少し食糧を、とか寒さや伸びた枝の防御のために衣服を、とか何かと理由をつけては出発しようとはしなかった。

 信頼されていないのだろうか。確かに会って数日の人と町へ降りるのはなかなか勇気がいるとは思うが、普段の会話から不信感を覚えている様子は一切ない。


 「なあ蓮、そろそろ行こうぜ、もうあの日から3日経ってるぞ」

 「うん・・・でも薫が少し体調が悪いみたいで、全快してから出発したい」


 今度は妹まで使って避ける。

 ここまでの態度にはさすがに違和感を持つ。そろそろ問いただしてみるか。

 そこへ、食料を探しに行っていた怜衣と薫が元気に飛び跳ねて家の中へ入ってくる


 「ただいま」

 「ねえねえ、怜衣にぃが動物獲ってくれたよ!お肉食べられるよ!」

 「・・・元気みたいだけどな」


 気まずい雰囲気が流れていることに気付いたのか、怜衣が薫を外へ連れ出してくれる。

 蓮と向き合い、話し合う。


 「なあ、何か心配事があるのか?なら言ってくれたら、力になるぞ」

 「別にそういうわけじゃないよ」

 「信用できないか?」

 「それは違う!」


 そう強く否定してくれた後、口ごもってうつむく。

 ああ、そうか。


 「家族との思い出があるこの家から離れたくないんだな。一度離れてしまったら、もう思い出せなくなってしまいそうで。この家で亡くなった親を見捨てるようで」

 「!・・・」


 図星だったのだろう、連は目を少し見開いたかと思うとうつむいてしまう。


 「わかってる、このままここにいても意味がないって。でも、母さん、父さんをここに残してしまうような気がして、一歩が踏み出せないんだ」


 一丁前に獣なんかさばけるから忘れていたが、蓮はまだ子どもだ。

 親を想って動けなくなったって不思議じゃない。

 思えば、こいつはずっと妹のために行動をしてきていた。飴だってなんの逡巡もなく妹へ与えていた。

 服だって、自分のはひどいくらいボロボロなのに、妹のは比較的きれいだ。

 今までの様子を見ていればわかる、妹が大好きなのだろう。

 そして、きっとなくなってしまった家族のことも。


 だが、薫のことを想えば、ここにいるわけにはいかない。

 オレは思いついた案を蓮に提案する。 


 「・・・両親の墓は作ったか?」

 「え?」

 「墓だよ、死者が安心して眠れるように、ってやつ」

 「いや、外には天使がいるから、ほんとに小さいやつしか・・・」

 「なら、パーっとでっかいのを作ろう。この家の材料を使って!あとはそうだな、蓮と薫の私物を埋めてさ。それだったら父さん母さんだって寂しくないだろ?それでさ、気持ちに一区切りつけて、妹と一緒に、新しい一歩を踏み出したらいいじゃん」


 浮かない表情を浮かべていた蓮の顔が、少し晴れる。


 「うん、作ろう。作りたい」

 「よし、じゃあ怜衣と薫呼んで、みんなで作るぞ!」



 家の木材や石を組み立てて、墓石を作る。

 蓮と薫で、どういうのが作りたいかデザインしてもらって、オレと怜衣で組み立てていく。

 道具がないから、きっちり測って作ることはできなかったが、それでもそれなりに見栄えのいいものができたと我ながら思う。

 二人で仲良く、どんなのがいいかと悩む姿や、パーツが完成して喜ぶ姿を見ると、自然と疲れが吹き飛んだ。


 「よし、そしたらどこに建てる?」

 「そうだな・・・どうしようか」

 「おうちの中がいい!雨に濡れちゃったりしたらお母さんたち寒いもん!」


 確かに、静かに眠る場所なんだ。屋根があったほうがいいかもな。

 当然のように外へ建てようとしていたが、固定観念に縛られていたようだ。


 「運び入れたぞ、そしたら、親御さんたちが寂しくないように、なにか前に置いていくか」

 「わたしはね、これ!」


 そういって薫が取り出したのは、きれいな石だった。


 「それ、近所の川で拾ったやつじゃないか、もっといいのはないのか?」

 「これがいいの!これが、一番思い出が詰まってるんだもん」


 聞けば、家族でお出かけをしたときに、父親と川で遊んだときに拾ったものらしい。当時、父親は行商人として町へ出かけていることが多かったそうで、珍しくお休みの日に、たくさん遊べたことがうれしかったみたいだ。


 「蓮はどうする?」

 「俺は、この本にするよ」


 装飾の凝ったきれいな表紙の本。


 「その本は?」

 「ああ、これは父さんがお客さんからもらってきたものなんだ。まあ中は落書きばっかりだから、本としてっていうよりは、お守りみたいなものだけど」


 そう言い、本を墓の前へそっと置く。


 「ありがとう、父さん、母さん。いってくるよ、薫は任せて」

 「兄ちゃんはまかせて!」

 「どの口が言ってるんだよ」


 二人、笑いあう。

 これで吹っ切れただろうか。

 誰かを想う気持ちは大切だが、それで動けなくなってしまっては世話ない。

 最後に妹を守れるのはお前だけだからな、蓮。


 「・・・村までしっかり守ってやらないとな」

 「そうだね」


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