廃村の散策
うっそうと生い茂る草木をかき分け、あたりを散策する。
民家らしきものが多く建ってはいるが、廃墟なのだろうか。人がいないことがかえって不気味さを増す。
そのおかげで、隠れながらあいつらと戦えたのだが(戦ったのは怜衣だけだが)、いざ静かになった場所を歩き回るとなると、なかなか肝の冷える雰囲気だ。
「こんなとこに人なんかいるかね」
「まあ、おおよそ人が暮らしていける環境とは言えないよね」
木造の民家だったのだろうが、無残にも崩れ去ってしまっている。
原型が残っている民家は、ほとんどない。
もう何年も放置されてしまっているかのような雰囲気で、人を見つけるのは困難であった。。
二人の間にも半ば諦めムードが漂っていた。
その時、草木ががさがさと動いたかと思うと、影から突然、人影が現れた。
「動くな!金目の物をおいてここから消えろ!」
始めはびっくりしたが、見ると子供のようだ。ボロボロの着物を着て、先のとがった石をこちらへ向けて、脅しをかけてくる。
人が現れてくれて、あいつだけしかいない世界ではないとわかったから少し安心した。まあ強盗まがいのことをされているが・・・。
石を持つ手は土に汚れ、真っ赤に擦り切れている。素手でいろんな作業をしてきたのだろう。
脅されているというのに、怜衣がやさしく語り掛ける。
「ひどい恰好だ・・・キミ、ここに住んでいるのかい?」
「うるさい!そんな変な格好をしているんだ、お金持ちなんだろ!」
なんだと、こっちはブランドやら色味やら考えてコーディネートしているというのに!
変な格好と言われカチンとくるが、どうやらセンスのない格好という意味で言っているのではないようだ。ボロボロではあるが、来ているのは和服のようだし、もしかしたら洋服そのものが珍しいのか?
「そんな石一つで何ができるってんだ、それ」
大股で近づき、石を取り上げる。
「おい!返せ!」
抵抗はしてきたが、十分に食事をとれていないのだろう。その子どもは簡単に武器を手放し、その反動で地面へへたり込んでしまった。
すると、大きくおなかの鳴る音がする。
「うぅ・・・」
「ずいぶんボロボロみたいだけど、おうちの人とかは?」
優しく声をかけるが、返事はない。
かなり警戒しているようだ。
何度か答えの返ってこない質問をしていると、遠くから声が聞こえたと同時に、その方向から石が飛んでくる。
「兄ちゃんをはなせ!」
目の前の少年よりも、更に一回り小さい女の子が走ってきて、大声を張る。
少年よりはきれいな服ではあったが、それでもずいぶんとみすぼらしい。
「薫!こっちへ来るな!」
「なんだか悪党みたいだな、オレ達」
「のんきなこと言ってないで、なだめるの手伝って!」
ひとまず、このままだと石を投げられ続けるので、少年に肩を貸し、女の子の方へ歩かせる。
そういえばポケットに美容院でもらった飴があったな。
怜衣になだめるよう言われたし、これでもあげるか・・・。
「まったく、ほれ飴ちゃんだぞ。喉ひっかけんなよ」
「・・・なんだこれ、こんなのいらない」
「おい、人の好意をなんだと思ってやがる!」
気を遣ってやっているというのに、なんと失礼なガキだ。
「・・・もう龍牙は静かにしてて。これは飴っていう食べ物なんだ。金目のものは今ないから、とりあえずこれをあげるね、甘くておいしいよ」
「飴って、昔父さんが持ってきてくれたやつだ・・・。ほら薫、食べな」
「う、うん・・・。わぁ、甘くておいしいよ!」
「ふふ、よかった。ねえ、二人はここに住んでるの?」
さすが怜衣。先生を目指しているだけあって子どもの扱いには慣れているな。まあ、飴を渡したのはオレだし、半分は役に立っただろ。
部外者にされたさみしさを自己肯定で緩和する。
「そうだよ、別に珍しいことじゃない。こんな世界だ。天使に襲われて家族を失った子どもなんていっぱいいる。俺たちはたまたま、川の方へ洗濯をしに行ってたから生き残ったんだ」
天使。
おそらくオレ達を襲ったあれのことだろう。
それから、蓮と名乗る少年から、そんな時代がもう何百と続いていること、他に行く当てもないため廃墟のようになったこの故郷で、まれに通る動物を捕まえたりしながら、妹と二人で暮らしていることを聞いた。
「そっか、大変だったね」
「食料がもう少し集まれば、薫を連れて山を下った先の大きい町へ行けるんだろうけど・・・それでも道中天使に襲われるかもしれないって考えると、隠れられる場所があるここから、なかなか出ていけないんだ」
そう話すと、このままここで話していると危ないからと、今生活している家へ案内される。
家に入ると、他と比べると住めなくもない環境だった。まわりの崩れてしまった家屋から廃材を持ってきて、修繕したのだろう。後から付け加えられたような木材がいくつか見受けられた。子どもの力だし、建材もないから心もとないが。
「食料はほんの少ししかないけど、飴の代わりにこれをあげる」
そういって、残り少ない動物の肉を調理しようとする蓮を止める。
「気にしないで大丈夫だから。それより事情を教えてくれてありがとう。ここは天使に襲われるのが当然な場所で、中央の方には対抗できる人たちがいるってことだよね?」
「うん、ただ俺も母さんから聞いた話だから、詳しいことはわからないけど」
「そっか、ちなみに中央っていうのはどこかな?」
「ここの山を下りてずっと北へいった方だよ。さっき言った町が、その方角にあるんだ。中央からそれなりに近いから、天使からの侵攻を受けにくいらしくて、今も多分あると思う」
大きい町なら、より情報をつかめるかもしれない。
「そしたら、一緒に行こうぜ!この兄ちゃん強いから、天使と遭遇しても戦えるぜ!」
「そうだね、このままここにいるのもよくないだろうし、体力が尽きちゃっても、このお兄さんが背負ってくれるだろうしね!図体だけはでかいから」
「怜衣が小さいだけだろー?」
「なんだと!」
「あは、あはは」
俺たちの様子を見て、二人が笑う。そんな風景をみて、少し安心する。
子どもなら、無邪気に笑っているべきだろう。こんな環境で、頼りもなしで生きている方が異常なんてこと、オレにだってわかる。
「助けてくれるんだって、それじゃ、行こうか、薫」
「うん!行こう!」
その後、早速出発しようとしたオレ達だが、少し準備があるから出発はもう少し待ってほしい、という蓮の願いから、出発は明日にすることにした。