もう一組の救世主
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「あげる!」
小さい手から、きれいな花冠を受け取る。
「さすが―――――様。お上手です」
「―――様に教えてもらったんだ!きれいでしょ?」
「ええ、とっても」
無垢な笑顔を見て、自らの使命を、そして力不足の自分自身を恨む。
せめて、このお方だけでも・・・!
悟られないよう、笑顔を作る。
本当に笑えていたのかは、今もわからない。
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「いや、どうすんだこの状況!?」
「無駄口叩かず走るよ!ボクが少しずつ撃退していくから!」
かれこれ数分、羽を生やした意味不明な存在に、見たこともない廃村の中で追われ続けている。
隣には、本来こんな状況で会うはずではなかったかつての同級生、怜衣が小さい体躯に似合わない物騒な拳銃をもって、追跡者を撃ってくれている。
だが、もともと十数体もいたのだ。ちまちま撃っていたって、目に見えて数が減っていったりはしない。
「もう体力的にも限界だが!」
「足止めたら死ぬよ!龍牙にも見えてるでしょ、あの剣!」
そう、あの意味不明な存在たちは、明らかにこちらを仕留めにかかっているのだ。
そうでなければ、あんな物騒なものをもって追い掛け回しては来ない。
なによりすでに一度斬りかかられている。間一髪で怜衣に助けてもらったからよかったものの・・・。
「でも確かに、ボクもキミを守りながら逃げ続けるのは、限界かもしれない・・・。ということで」
「おいちょっと待て、見捨てる気ですか!?待ってくださいよぉ、怜衣様!」
「セリフの小物感すごいな!そういうわけじゃないよ」
そう言うと、オレの腕をつかんで引っ張り、そのまま薄暗い路地へと入っていく。
「この細い通路なら、相手は縦に並んで一直線にしか来れない、一体づつ仕留めるチャンスだ」
そうして、銃を構えると、曲がって路地へと入ってきた天使を次々と撃墜していく。
まさに百発百中、まるで未来が見えているかのような反応速度で、相手に次々、弾を打ち込んでいく。
相手も曲がった瞬間に撃たれるものだから、ガードする隙もないようだった。
こちらを追いかけていたときは十数にも重なっていた羽ばたきの音は徐々に少なくなっていき、やがて最後の一体が地に伏し、静寂が訪れた。
「・・・はぁ、思わず呼吸をするのも忘れちまったぜ」
「そうだね・・・ボクも疲れたよ」
「ホントに助かった。ありがとな。まさか狩人に就職していたとは」
「いや、違うからね?普通にガンシューティングが好きなただの大学生だから」
「趣味が高じて本物にまで手を出しちまったってのかよ・・・!それは立派な犯罪だぜ、相棒」
「それも違うから!」
怜衣はキレの衰えないツッコミを繰り返しながら、オレに会うまでに起きたことを簡潔に説明してくれる。
どうやら、頭の中に直接語り掛けてくるような声を聴いて目を覚ましたら、傍らに銃が落ちていたらしい。そして、空を飛ぶ何十ものアレに気付かれ、襲われたために応戦している間に、状況を一切理解できずふらふらしているオレと合流してしまったそうだ。
「じゃあオレ、とばっちりじゃん!」
「ま、まあそれはそうかもしれないけど、守ってあげたんだからいいでしょ?」
「それもそうか。ってかここはどこなんだ?その謎の声とやらはほかになんか言ってなかったのか?」
「うん、人のこと暴食とかなんとか言うだけいってそのままだよ」
つまり、ここがどこなのかはわからないってことか。
混乱する頭を整理しようとするが、わかっていることがさっきまでいた場所ではないこと、歩き回ると殺されそうになること、という情報だけだった。
「それにしても怜衣、すごい反射神経だったな、なんかスポーツしてんのか?」
「いや何も・・・むしろ今も運動はあんまり好きじゃないよ。なんかこの銃を持ってると力が湧いて来るっていうか。ほかのものの動きが遅く感じるというか」
「よく聞くゾーンってやつかね。ゾーン強制発生装置ってわけだ」
「なんだよそれ・・・変なこと言ってないで、早く行こう」
そういって、怜衣はどこへともなく歩き出す。
「なーんの手がかりもないのにどこ行くんだ?」
「ここで待っててもしょうがないでしょ、今はほかの人を探そう?まあ、他に人間がいたらの話だけど」
確かに、そもそもここはあの生物しか住んでいない世界で、ということも考えられる。
食糧的な役割で連れてこられてしまったのかもしれないと思うと、ぞっとする。
「早いとこほかの人を探して安心したいところだな」
「そうだね、だからひとまず周囲を探索してみよう」