表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
121/127

どんな窮地でも、前を向け

 晴明の剣によって傷を負い、血を吐きながらその場にあおむけに倒れた皐月が、足のベルトにしまった本へ手を触れた。


「もういい・・・もう・・・!」


 本が開き、ページが捲れていく。


「ごほっ・・・禁忌と言われたが、これを使う!第十六頁だいじゅうろくのちぎり ソウル・リリース!」

「させるか!!」


 晴明が剣を構え、再び皐月の身体へと刃を突き立てようとするが、本が発したドーム状の結界のようなものがそれを防ぐ。


「くっ・・・届、け・・・!」


 力を目いっぱい込めるが、それでも結界はひび一つ入らない。


「クソッ、俺も!」


 相手が何をしようとしているのかは、わからない。

 でも、身体が動くなら、力になれる瞬間があるなら、今しかないだろ!

 晴明の持つ剣に両手をかけ、力を加える。


「助かる!」

「うぉおおおお!!」


 気合を込めて、叫びながら力を目いっぱい込める。

 パキ、という音とともに、結界に少しひびが入った。

 いける・・・!このまま押し込むんだ!!


「頼む、壊してくれ!この結界を!」


 しかし、着々と相手の術は進行しているのだろう。

 本が傷だらけの皐月の中へと、みるみるうちに入っていく。


「本が、皐月の中に・・・!」

「天使の力を全て、身体に取り込む気だ!」

「は、はは。これほどの力を身に宿せば、貴様らなど・・・貴様らなど!!」


 人は器。

 純たちから聞いた、京都への侵入者、日下部息吹の話を思い出す。

 ここまでの天使の力を、一人の人間の身体が取り込んだら・・・!


「そんなことをしたら、お前の身体が崩壊するぞ!!」

「わかっている・・・それでも、たった一秒でもこの力を振るうことができれば、お前たちを・・・兄さんの仇を、取れる・・・!」


 気づくと、皐月の瞳には涙が浮かんでいた。


「私にできることはもう、それしかないんだ!!」

「ばっかやろうが・・・!」


 本が、もう完全に入ってしまう・・・。

 だめだ、間に合わない!!

 結界が破裂し、俺たちは大きく吹き飛ばされてしまった。


「仁くん!防御を!」

「わかってる!!」


 だが、皐月の発する光のせいで、まともに目を開けられない・・・!

 槍も結局手元にない。心もとないが・・・!

 せめてもの策として、腕を顔と心臓の前にクロスさせ、急所を守る。

 本を完全に取り込んだ皐月の攻撃を警戒する。


 ・・・?何も起きない・・・?

 いや、違う・・・この光は!


 この光は、皐月の持つ剣が発するものだ!!


 本と同化した皐月は、宙に浮き、光り輝く大きな刃を頭上に振り上げていた。

 剣は天へと延びており、塔の天井をも穿っていた。

 がれきが崩れ落ちる中、わずかに見えた光の剣に、仁は圧倒される。


「はぁああああ!!!」


 皐月の力か、重力に従ったのか。

 その剣が仁と晴明へと振り下ろされる。

 塔の天井を壊しながら、こちらへと落ちてくる。


 ここまで・・・か。


 絶望の中、静かに視線を落とした。


 その瞬間。


「あきらめるな!」


 うつむいた視線の先で、晴明が、手に携えた剣で光刃を受け止めていた。


「くっ、うう。なんていう力だ・・・!」

「晴明!!」


 あきらめるな。

 気持ちはわかる・・・俺だってあきらめたくはない。

 だが、あの力をすべて身に宿したんだぞ。そんな相手に、もう策なんて・・・。


「どんなに不利でも、相手から視線をそらしちゃだめだ!どんなに窮地に立っていたとしても、前を向け!足元に策は転がってはいない!!」


 前を向く・・・。


 晴明の言葉に、視線を上げる。

 そこには、大きな晴明の背中があった。


 俺を守るため、とっさに動いたのだろう。

 力の込めにくそうな姿勢で、剣を構え、刃を押さえてくれている。


「帰るんだ。咲也くんたちの待っている、京都に!!」

「!!」


 北条へ言った言葉が、脳裏をよぎった。


『さっさと倒して、一緒に京都に帰ろう、な』


 そうだ、俺が言った言葉だろう・・・。

 その俺が、あきらめてどうする!!


「帰るんだ、みんなのもとに。そして、皐月を助けるんだ!」


 前を向け、策を練ろ!

 命が消えるその時まで、頭を働かせろ!

 何かないか・・・状況を打破する何かが!!


 その瞬間、光の刃の先に、わずかに皐月の姿が見えた。


 胸元が、光っている。本の影響か?

 いや、そうか!

 ある・・・一つだけ方法が!!


「風雅!!」


 風を起こし、がれきの中にあるはずの槍を探す。

 どうしても、槍は自分の身を守ること主体で考えてしまっていた。

 だから、こんな戦い方は思いつきもしなかった。


 槍を風に乗せ、空中を舞わせる、防御を全て捨てた構え。


「くっ、もう力が・・・!」

「晴明!耐えてくれ!!」

「っ!わかった!!」


 先ほどまでのうつむいた姿と打って変わって、歯を食いしばって気を操る仁の姿に、晴明がうなずく。



 何かを思いついたのだな。

 ならば無理をしてでも、彼を、彼の策を信じ、守る!!



「見つけた!」


 吹かせた風が何かにぶつかる感覚を頼りに、がれきの中に落ちた槍を見つけた。

 がれきを吹き飛ばしながら、風に乗せ槍を宙へと飛ばす。


「うおおおお!!」


 風雅によって、空を舞った槍が、皐月のもとへと一直線に飛ぶ。


 狙う先は、皐月の光る胸元!

 本があいつの力の源なら、それを外に出せばいい!


「いっけぇえええええ!!!」


 掛け声とともに、槍が皐月の背中を貫いた。

 正確に言うなら、皐月の中にあった本を。

 ピンポイントで貫かれた本が、皐月の中から、槍に突き刺さって身体から飛び出る。


「かはっ!!」


 胸を貫かれ、刃を振り下ろしていた皐月が背を反って、口から空気の抜けたような音を発する。

 それと同時に、手が刃から離れた。


 それと同時に、力の供給を失った光刃が形を保てなくなり、静かに消えていく。


「やった・・・!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ