経験の応用
一か八か、やってみるしかないか。
千東との修行と、皐月のやっていたことを思い出すんだ!
目の前に迫ってきていた脚を、まっすぐと見据えながら、タイミングを見計らう。
今だ!
「風雅 暴!」
「なに!」
左手を地面へと向け、風を放つ。
風圧によって自らの身を上空へと打ち上げ、回し蹴りを回避することに成功した。
「お前がやってた技だよ!まぁそっちと違って、やけどはしないけどな」
「貴様ぁ・・・!」
「よそ見は厳禁だよ」
一閃。
頭に血が上り、わずかに視野が狭まった皐月の身体を、晴明の剣が切り裂いた。
「ちぃ・・・!」
「真っ二つにするつもりだったんだけどね」
傷から血を吹き出しながら、晴明、仁の両者から距離を取った皐月が、恨めしそうに二人をにらむ。
「・・・その姿で、私を傷つけるなぁ!!」
鬼の形相を浮かべた皐月が、そう吠えるとともに、晴明へと猛進する。
フェイントも混ぜながら、拳を晴明へとたたきつける。
その言葉に、苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべる晴明。
「まだ、そういう感情は残っているんだね」
剣で皐月の攻撃を受け止めると、晴明がそうささやいた。
「・・・かわいそうに」
「貴、様・・・!!」
神経を逆なでられ、怒り狂う皐月が、攻撃を激化させる。
晴明は一瞬、本当に悲しそうな表情をしたが、そんな表情を悟らせないよう、すぐに勇ましい表情に戻ると、皐月の攻撃に集中する。
そんな激戦を、目で必死に追いながら、あっけにとられていた。
一瞬、こちらへと目線を向けた晴明が、ウインクで合図をする。
『よく対処した、あとは任せて』
そういわれたような気がした。
力強くうなずき、晴明が相手をしてくれている間に北条を安全な場所へと運ぶ。
部屋の扉を蹴り開け、急いで北条をベッドへと寝かせる。
咲也がいれば、ここで応急処置くらいはできたんだろうが、薬もまともにないここじゃ、安静にしておくことぐらいしかできない。
北条・・・頑張ってくれ・・・!
「さっさと倒して、一緒に京都に帰ろう、な」
北条には、待ってくれてる人がいる。
ここで終わっていいやつじゃないんだ。
「・・・よし!」
仁は気合を入れなおすと、扉を開け、再び戦場へと足を踏み入れた。
どちらも一歩も引かず、攻撃を交える皐月と晴明。
拮抗しているように見えたが、よく観察すると、わずかに晴明が押しているようにも見えた。
「先ほどまでの威勢はどうした?」
「っ黙れ!」
明らかに冷静さを欠いている皐月は、攻撃が単調になっており、簡単にいなされるようになっていた。
見ていなかったこの短時間で、すでに晴明は皐月の猛攻に対応できるようになっている・・・。
晴明の実力を目の当たりにして、面食らってしまう。
皐月の振り回す腕を、脚を、晴明が姿勢でよけ、剣の腹で受け流す。
何度も何度も、攻守が交代しながら、戦況が目まぐるしく変化していく。
しかし、徐々に、だが着実に、剣の軌跡が皐月の身へと近づいていた。
そして、とうとう晴明の剣が皐月の腹をとらえた。
「くっ!」
当たった!!
血しぶきの舞う中で、晴明は冷静に相手を視界にとらえ続けていた。
傷を負いよろける皐月へ、構えた剣が突き刺さった。
「がはっ」
容赦のない追撃に、言葉にならない苦痛の嗚咽が皐月の口から洩れる。
そんな相手の様子を意にも介さず、晴明は力いっぱいに剣を引き抜く。
「がぁあああああ!!」
晴明は、引き抜いた刃から血を滴らせながら、断末魔を聞く。
むごい光景を、仁が固唾をのんで見守る中、勝負が決した。
・・・かのように思われた。