純の作戦
「ふん、作戦会議は終わったか?」
純との話し合いを終え、再び天使長へと向かい合う。
「ああ、わざわざ待っていてくれて助かった」
「ふん、お前たちの力量は完全にわかった。なにをされようがもう負けることはない」
互いに武器を構え合う。
とにかく、作戦通りに動く。それだけを考えよう。
純から合図を受ける。
「それはどうかな、行くぞ月影、フォーメーションSだ!」
「え!?」
「さっき話したやつだ、はやく!」
さっきの作戦会議で、そんな名前聞いてないけど・・・。
合図がきたはいいものの、聞き覚えのない作戦名に戸惑う。
だが、とにかく、先ほど言われた通り純の後ろへいく。
そして純は、姿勢を低くして、俺を隠すように盾を両手で掲げた。
「なんだ・・・それだけか?」
「それだけ、か。そう思うなら、かかってこい!」
安い挑発を仕掛ける。
こんな挑発に乗ってくるだろうか・・・。
「なら行かせてもらうぞ!」
不安とは裏腹にあっけなく、相手は挑発に乗ってきた。
侮られているのか、ただ単細胞なだけなのかはわからないが、思惑通りこちらへ大剣を振りかぶりながら近づいてきてくれる。
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「だから・・・俺が大剣を受け止める。豪はその隙を見て、力を込めた一撃をやつに叩きこむんだ」
「受け止めるって・・・そんなことできるのか?」
さっきかばってもらったときだって、一緒に後ろへ飛ばされたが・・・。
「ああ、それについては考えがある。純は俺のすぐ後ろで、盾に隠れて機会をうかがってくれ」
「でもそれは相手が攻撃をしてくる前提じゃないか?こっちが攻めてこないことをいいことに、あいつがもし住民を先に襲うようなことになったら」
「いや心配ない。あいつにそんな知能はない。思い出してみてくれ、対峙したときのことや、俺の質問に一瞬魔が開いていたことを。力量を測るという作戦で手を貸していないのだったら、こちらの質問にすぐ、そうだと返答しているはずだ。作戦でもなんでもなかったから、返答が遅れたのだろう」
確かに、あいつに知性を感じられる言動はここまでそんなにない。
というかまったくない。
「それに、ただ受け止めるだけだと、さすがに吹き飛ばされてしまう。だからそれだけじゃない」
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目の前まで飛ぶように接近してきた天使長はその勢いを利用し、今まで以上に力強く、大剣を右から振り抜く。
盾を構える純は、一切臆さず、それを真正面から受け止める。
金属がぶつかり合う轟音と、火花が飛び散り、大剣と盾が強く衝突する。
それと同時に、大剣が盾の表面を滑るように進む。
「ただ受け止めるんじゃない、受け流すんだ!」
純は、受け止めた剣を、盾の表面と身体全体を使って左へ受け流す。
盾で止められると思っていた天使長は、遠心力と剣自体の重さに耐えきれず勢いよく左へ体勢を崩してしまう。
「なにぃ!!」
「いけ、月影!」
「うおおおおおお!!!」
そして、純の後ろにくっついて、身体をつかんでいた豪は、右から左へ受け流した勢いを推進力に、そのまま大地を踏みしめる。
こぶしを強く握り、狙いを定める。
一撃で決めるにはここしかない!
手甲を鋭く突き出す。
先ほどの攻撃でひびが入り、もろくなった場所へクリーンヒットした拳は、鎧を貫通し、天使長へ直接打ち込まれる。
力強い衝突音と、腹から空気が出る音が鳴り響く。
極限まで力を込めてはなった一撃は、体勢を崩した天使長に耐えきれる威力ではなかった。
膝から崩れ落ち、大きな砂煙を起こしながらその場に倒れる。
やがて、そのまま光輝く粒となって、天へと昇って行った。
「やった・・・!勝ったんだ、俺たち!」
純と喜びを分かち合う。
「よくあの攻撃を受け流せたな、純!おかげで倒せた!」
「いや、あのタフな天使をたった2撃で沈める攻撃力があったおかげだ、助かった」
そうしていると、喜ぶ声に気付いたのか、おずおずと住宅から住民が顔を出す。
脅威を追い払ったことを笑顔とガッツポーズで伝えると、住民たちはみんな外へ飛び出し、思い思いの方法で喜びを分かち合っていた。
「ありがとう!やっぱりあんたたちは救世主だ!」
駆け寄ってきて、感謝してくれる住民を横目に、気になっていたことを純へ尋ねた。
「あの時言っていたフォーメーションSって結局なんだったんだ?」
「ん?ああ、整列するように戦う戦法だったからな、整列の頭文字をとってフォーメーションSだ」
「・・・。」
そういえば、純は高校の時から、ネーミングセンスだけは壊滅的だった・・・。