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賭けの大技

「あああああ!!」

「っ、北条!!」


 塔の外のわずかな石の出っ張りに手をかけ、すんでのところで落下を免れる。

 しかし、それと同時に塔の中から北条の絶叫が聞こえた。

 すぐに手に力を込めて、塔をよじ登る。

 槍を突き刺し、支えとして塔の中へとよじ登ると、そこには狂気じみた笑い声を出す皐月と、倒れた北条の姿が見えた。


「北条!!大丈夫か!?」

「・・・」


 かなりの電圧だったのだろう。

 北条は呼びかけに応じるそぶりが一切ない。

 わずかに腹が上下しているようだから、即死したわけじゃないだろうが・・・。

 完全に気を失ってしまったようだ。


「水気を使うことは織り込み済みだ。何の対処もしていないとでも?」

「・・・雷の技、村の男に使った技か!」


 感電死していたあの南の村の男も、これを身に受けたのだろう。

 気力で身を守って戦う陰陽師、それも陰陽頭ですら、一撃で気を失うほどだ。

 一般人が受けたら、どれだけの苦痛だろうか。


「さて、さっさと終わらせるとしようか」

「くそったれが・・・」


 自らの身体に炎を巻いたのも、自分が感電しないため、あたりの水を蒸発させる狙いがあったんだ。

 なにが追い詰められてイカれた、だ。

 ちくしょう・・・。

 北条が倒れ、ただでさえ厳しかった戦況が、極限まで皐月へと傾いている。

 だが、それでも、やるしかない。

 ここで退いたら、純や咲也に顔向けできない!

 それに・・・


「助けるって、約束したからな」

「・・・なんのことだ?」

「お前の妹、北条姫芽と約束したんだよ。おまえをもとの優しいやつに戻すって」


 仁のその言葉に、何かに焦ったような様子を呈した皐月。


「なに?妹が下に行っていたのか!?閉じ込めていたのに・・・」

「・・・閉じ込めていた?」


 何かを確認するためか、瓜生は部屋の隅へと行くと、分厚い壁と扉で分かたれた部屋へと足早に駆け寄った。

 扉を強く開け放つと、そこには鳥を入れるには大きすぎる、大きな鳥かごがあった。

 鳥かごの中には、木や枝ではなく、クローゼットや天蓋のついたベッド、鏡台などが設置され、生活感のある空間が広がっていた。


 あまりにも異様な光景に、仁は息を飲む。

 その鳥かごは、何か強い力で引き裂かれたような跡があり、何かを閉じ込めるには不十分な姿に壊れてしまっていた。


「お前・・・まさか!」

「くそっ。あの力を与えたのはやはり間違いだったか・・・。いや、姫芽が人質になる可能性を考えると、こちらの弱点は補うべきだったはず・・・」

「弱点って・・・大事な家族だろうが!」

「黙れ!!貴様ら、妹をどうした!?」


 怒り狂う皐月に、まるで怒りが伝播するように、仁の心にも火が付いた。


「階下の仲間と合流するよう伝えた」

「ちっ!人質ってわけか、陰陽師どものやりそうなことだ・・・」

「黙れ!!」


 自分でも思っていなかったほど、怒りに任せて出したその声は大きかった。


「てめえは、ここで止める」

「・・・やれるならやってみろ。お前を殺した後、妹を取り戻すだけだ」


 なにが、弱点だ。

 まだ幼いながらに、足を擦切ってまで階段を下りて助けを求めた家族にそう言い放てるヤツに、もう慈悲などない。

 刺し違えてでも、ここで因縁を断つ!


第一頁だいにのちぎり オーバー・ドライブ」


 ページをぺらぺらとめくり、呪文を唱えた。

 皐月の身体が光りだす。


「・・・?何も変わってないように見えるが」

「試してみるか?」


 皐月がにやりと笑い、本を太ももにあったケースへとしまった。

 そう認識したと同時に、腹に激痛が走った。


「かはっ」


 速い・・・!

 おおよそ人間の出せる速度ではなかった。

 皐月はまるでテレポートをしているかのような速度で接近し、仁の腹を殴打すると、すぐさま後ろへ回り、仁を壁へと蹴り飛ばす。

 衝突した勢いで、あたりに煙が舞った。


 威力が・・・桁違いすぎる・・・。

 衝撃で、まともに体が動かせない。

 まだ、終わるわけにはいかない・・・のに。




 皐月は蹴った時に確かな手ごたえを感じ、満足そうにうなずいた。


 骨も相当数折れただろう。

 生きていたとしても、もう立ち上がってはこれまい。


「さて、姫芽を探しに・・・」

「風雅!!」


 がれきが数個、風に押し出されるように皐月へと飛来する。

 それを、難なく回し蹴りと腕で破壊すると、仁が倒れているはずの場所を見る。


「いない・・・!?」

「風雅 暴(あばれ!!)」


 がれきを目隠しに、気づかれないよう後ろへと跳んでいた仁が、左手を構えた。

 これは、まだ完全な技じゃない。

 だが、四の五の言っていられない。


「っ!後ろか!!」


 すぐさま気づき振り向くが、時はすでに遅く、立っていられないほどの突風が皐月を襲った。



 本来、いろんな場所へと拡散して吹く風を圧縮し、一直線に放つことで、威力を極限まで高めるのが、俺が思い描くこの技の完成形だ。

 だが、制御が・・・難しい!

 糸のように細く出来さえすれば、銃弾以上に火力も速度も出るはずだが、今の完成度では、バレーボールくらいの直径が限界だ。

 でも、こいつを吹き飛ばすことぐらいはできるはず!


「この程度の風で、私を殺せるとでも思っているのか!!」

「風だけじゃねえ!」


 俺が吹き飛ばされた場所には、岩で固定した槍がある。

 そこへと吹き飛ばすことができれば、多少の傷は与えられるはずだ。

 当たり所さえよければ、そのまま・・・!


「いけぇえええ!」

「どこまでもくだらない小細工をしやがって!!はああああ!!」


 ふいに風を受け、体勢を崩した皐月だったが、すぐに体勢を整えると、真正面から風へと対抗してくる。

 一歩ずつ、こちらへと近づいてくる皐月。


 くそっ!ダメか・・・!

 ここまで力を込めても、わずかに体勢を崩すことしかできないのか!


「矮小な力だな!継承者!!」

「くそぉおああ!!」


 気力を使い切る勢いで、力を込める。

 だが、それでも皐月の歩みを止めることはできなかった。


 もう、無理だ・・・。

 これ以上、出力できない・・・!


「終わりだ。継承者・・・」

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