最悪の相性
「第三頁 フレイム・ピラー!」
呪文とともに本が光る。
すると、武器が光の粒となり消え、今度は足元から炎の渦が天へと延びた。
「仁くん!」
「大丈夫だ!」
炎の柱を横跳びで躱す。
武器を壊されたのが気に食わなかったのか、表情には先ほどまでの余裕はない。
相手も相当とさかにきているらしい。
「とはいえ、邪魔くさいな」
反撃へと出るために接近しようと試みるが、前に炎の柱が続けざまに現れるせいで、なかなか近づくことができない。
相手も、怒りをあらわにはしているものの、頭は冷静なのかもしれない。
こちらの動きを先読みして、攻撃に転じさせないよう、炎を操っているようだ。
ここまで多彩な戦い方を持っているとは・・・。
手強い相手だとわかってはいたが、改めて厳しい戦いだと実感する。
「これは、厄介だぞ」
「大丈夫。火なら私が・・・!」
そう言い放つと、身体の周りに水流をまとわせる。
「流し消してあげる!」
まとった水流を爪とともに振るって、炎へと直撃させる。
龍のように直線を描きあたりの炎を消化すると、そのまま皐月へと攻撃の標的を変え、突進させる。
「直線的すぎるな」
「それはどうだろうねっ!」
水流が、まるで獲物を追う蛇のように、皐月のよけた先を追いかける。
皐月は、部屋中を駆け抜けながら水流を躱し続ける。
「しつこい!」
「そっちにばかり気を取られてんなよ!」
北条の水流に気を取られている間に、次に躱す先を読み、背中側へ回って槍を構える。
「なに!」
「おらあああ!!」
強く足を踏み出し、突き刺す。
今度は、身体をとらえた!
「っ!フレイム・ピラーァア!!」
その瞬間、自らの身を炎の柱によって上へと吹き飛ばした。
そのせいで、槍は空を突く。
「くそっ、またか!」
「炎の柱で自分を・・・」
「お前たち・・・よくも私の身を!!」
「自分でやったんだろうが」
壁付近にあった棚の上へと着地し、大やけどを負いながらも、こちらをにらみつけてくる皐月。
「灼熱よ!立ち昇れ!」
そう叫ぶと、先ほどよりももっと、勢いも数も増した炎の柱が、あたりから生まれ始めた。
「なりふり構わなくなりやがったな」
「手当たり次第に燃やそうとしてる、気を付けて!」
地面から出る火柱を、わずかな予兆を頼りによけていく。
だが、いかんせん数が多すぎる・・・!
よけきれなくなるのも、時間の問題だろう。
「ワタシに任せて!」
玄花が爪へと気を集めながら、余裕のない仁へと声をかける。
まだ対して気を扱えるわけではないが、それでもわかる。
北条の両手には、膨大な気力がたまっていた。
「ごめん、仁くん。少し防御してて」
「っ!わかった!」
両手の気力と、北条のまなざしからわかった。
大技を放つつもりだ。
仁は玄花の声に返事をすると、槍を構えながら風をあたりにまとい、防御に力を割く。
「水撃 六輪水花!!」
大きなヒヤシンスの一花のような形の水の塊が、玄花の手元から、あたりへと散った。
その瞬間、大きな爆発を起こしたその花は、大量の水を放ち、水圧とともにあたりを切り刻む。
すさまじい威力に、吹き飛ばされないよう、切り刻まれないよう槍で体を隠す。
少しの間、膨大な流水の発する轟音が響いていたが、それが止んだころには、あたりの炎は完全に鎮火していた。
部屋中が水浸しの中、同じく水のしたたった皐月が棚の上でうつむいていた。
「残念だったね、その技も破れちゃったみたいだけど」
「どうした、もう打つ手がないんじゃないのか」
なおもうつむき表情が見えない皐月。
いや、よく見ると動いている?
肩が震えているように見えるが・・・。
その瞬間、はじけるように笑い声が響いた。
「はっはっは!!」
「な、なに・・・?」
あまりにも異様な姿に、玄花は少しおびえた表情を見せる。
なおも笑い続ける皐月が、再び呪文を放つ。
「フレイム・ピラー!」
「まだやる気か!」
「その術はもう破ったよ!」
しかし、空へと放った呪文は、皐月自らの身を燃やしだした。
悲鳴とともに、自らの足元へと、炎の柱を生み出し続ける皐月。
「な、なにを・・・」
負けを察して、いかれたのか?
「追い詰められて、おかしくなっちゃったの・・・?」
「ははは!!まさか、そんなわけないだろう?」
巻かれた炎から姿を現した皐月が、再び本を携えた。
何かをするつもりか!
「甘いんだよ・・・。第六頁 サンダーソード!」
皐月が呪文とともに、頭上に雷で生成された剣を生み出す。
待て、電気の剣・・・! まずい!!!
あたりは水浸しだ。
この状況で電気を流されたら、部屋全体が感電する!!
「これでもくらえ!!馬鹿どもが!」
「逃げて、仁くん!」
北条の言葉とともに、仁は身体に強い衝撃を受け、窓から塔の外へと押し出された。