VS瓜生皐月
二人で、扉を開く。
途中から窓がなくなり暗さに慣れつつあった目に、扉の向こうからあふれてきた光が痛い。
目が慣れてくると、そこには本を片手にたたずむ、皐月の姿が映った。
「騒がしいと思ったが、貴様たちだったか」
村で最初にあった時のような、聡明そうな雰囲気は消え去り、真っ黒に染まったその瞳は、恨みや怒り以外の感情を一切読み取れないほど濁っていた。
「瓜生、皐月・・・!」
「戦闘準備、だよ。仁くん」
玄花の言葉に、魔装を携える仁。
携えた本を片手で開き、皐月も戦闘態勢へと入る。
「行くぞ!瓜生皐月!」
「気やすく名前を呼ぶな!第九頁 フォー・アサルツ!」
呪文とともに本が光り、現れたのは四つの武器。
剣、槍、斧、そして、マスケットのような長銃。
それは皐月の周りを高速で回ると、こちらへと刃と銃口を向けた。
「気を付けて!」
高速で飛んできた剣を槍ではじく。
「こんなのも生み出せるのか・・・!」
空を自由に飛び襲い掛かってくる剣を、槍を回してはじいていく。
時折襲ってくる斧の威力が厄介ではあるが、この程度なら余裕で対処できる。
手を抜いているのか?
そう思った矢先、いつの間にか近づいてきていた皐月が、はじき返した剣をキャッチして、飛び込んできた。
上空から振り下ろされる剣を何とか受け止める。
「っく!!」
「余裕そうな表情だったからな、もう少し手ごわいほうがいいだろう?」
「うっせぇ・・・よ!」
何とか押し返すが、その隙を狙って槍がとびかかってきた。
よけきれない・・・!
しかし、その剣は仁へと届くことなく、水流によって墜落した。
「水撃 玄亀壱爪!」
振り下ろされた水流をまとった爪が、あたりの武器を一掃する。
「好き勝手にはさせないよ!」
「ふん、やはり厄介な能力だな」
押し返され、宙を舞っていた皐月が着地し、そう吐き捨てる。
「瓜生!村を襲う狙いは何だ!」
「・・・口を開いたのは洋人か。本当に信用ならん奴だ」
「幼馴染でしょ、そんな言い方はひどいよ!」
「事実、余計なことをしゃべっているんだ。役立たずならせめて口くらい固くあってほしいものだな」
「てめぇ・・・」
あらためて真正面から対峙して、分かった。
こいつは、もう姫芽や村の人々の知っている瓜生皐月ではない。
天使の力に取りつかれたなにかだ。
「本だ」
「本・・・?」
「昨日、天使様から再び天啓を聞いた。その内容は、未来のことについて書かれた本がこちらの世界にあるから探せ、との命だった」
「未来について書かれた本だと?」
にわかには信じがたいが、そんなものがあるとするなら、相手の手に渡るのはあまりにも危険だ。
「ていうか、そんなこと簡単に話してよかったの?幼馴染に口の軽いやつだって言っておいて」
「かまわん。今の反応から、貴様らがその情報を持っていないことが分かった。それに加え、どのみちここで始末するのだから、どうでもいいことだ」
皐月はそう言い終えると、まるで指揮棒を振るかのように指を動かし、四つの武具を操りだした。
「天使の操り人形のくせに、優雅に戦いやがってよ!」
「来るよ、気を付けて!」
今度は槍と銃弾がこちらを襲う。
「風雅!」
左手にまとった風で軌道をずらしつつ、向かってくる武器を槍で対処する。
「はぁああ!!」
北条の方も、残った武器を爪ではじきながら、水流を皐月へと放って攻撃している。
だが、皐月も軽々とそれをかわし、こちらへ攻撃する隙を、虎視眈々と狙っている。
せめて、俺にも皐月へと攻撃する余裕があれば・・・。
だが、仁は銃弾というスピードの速すぎる攻撃に対処するのにリソースを割いており、その上、舞うように攻撃を繰り出してくる槍にも気を配らなければならなかったため、思うように戦うことができないでいた。
「水撃 双爪乱破!」
両手の爪で、不規則に切り裂きながら水流を放つ技で、あたりに手当たり次第攻撃を放つ北条。
ありがたいことにその水流によって、銃口が揺らぎ、狙いが大きく外れた。
余裕が、できた!
「風雅 引潮!」
風を操り、皐月の足元にあった水たまりを巻き込みながらこちらへと引き寄せる、水がある時しか使えない、ちょっとした応用術。
風だけじゃなく、重量のある水で足を絡めているから、さすがの皐月でもあらがえないはずだ!
「くぅ、体勢が・・・」
思惑通り、皐月が転びそうになりながら、仁の方へと流されていく。
「はあああ!!」
相手へしっかり狙いを定め、槍を突き出す。
しかし、ギリギリのところで、宙を舞っていた皐月の槍が防御に間に合い、槍の軌道がずらされてしまった。
それによって狙いが逸れた槍は、皐月のわき腹をかすめる。
わずかに出血は確認できたが、それでも大した成果を上げられなかった。
「くっそ!」
「またとない機会もものにできないようなら、話にならないな!」
形勢逆転。
接近を許してしまった仁が、今度は槍を手に持った皐月の猛攻を受けてしまう。
切っ先や柄の部分が、激しくぶつかり合う。
相手の槍さばきは力強く、武器がぶつかり合うたびに、振動で仁の手が悲鳴を上げる。
さらにそこへ、照準を再び合わせた長銃が、銃口を向けていた。
「まずい・・・風雅!」
引き金がひかれるタイミングで、風を起こし自分自身を押し出すことで、攻撃を回避する。
それと同時に、皐月から距離をとることにも成功した。
そんな仁の姿に、皐月は鼻を鳴らす。
「ふん。そうやって距離を取っていたら、攻撃なんてできないだろう」
「ちっ!」
痛いところを突いてくる。
確かに、ピンチだからといって後退して距離を取り続けていたら、勝負は決まらない。
多少の無茶は承知で、インファイトを仕掛けるしかないか。
「焦っちゃだめだよ!」
放たれた言葉と同時に、強い衝撃とともに飛んできた斧が、皐月の足元へと突き刺さった。
間一髪でよけた皐月が、忌々しそうに玄花の方へと振り向いた。
「まったく邪魔くさい」
「これでも陰陽頭なの。侮らないでよね」
見ると、足元には折れた剣が転がっていた。
「天使様の剣が・・・!?」
「こんななまくらつかまされて、かわいそうだね」
剣を折られ、ショックを受ける皐月をあおるように、そう言う北条。
まさか、あの剣をへし折るとは・・・。
「お前・・・!!お前だけは許さん・・・北条玄花ぁ!!」