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信頼と鎮静

 涙を流し続ける少女と、槍を振り回し、暴れる騎士を前に、険しい表情の仁。

 そんな表情に気づいた咲也が、意を決した表情で仁へと声をかけた。


「仁」

「大丈夫だ、俺が策を出す」


 明らかに焦っている。

 表情からも声からも、仁に余裕がないことは明らかだった。


「仁!」

「わかってる!!」

「そうじゃなくて!」


 咲也が仁へと声を荒げた。

 そんな咲也の姿にハッとする。


「なにか思いついているんだろ!?」

「・・・思いついてはいるが、実践できる案がない!」

「なら、僕にも教えてくれ!二人で考えれば何か思いつくかもしれない」


 それでも口を閉ざす仁に、咲也が目線を合わせ、うなずいた。


「確かに僕は頼りないかもしれないけど、それでも、みんなの力になりたいって思ってる」


 強い信念を感じる、まっすぐな視線を向けられ、どこかもやのかかっていた仁の心が、晴れたような気がした。


「信じてくれ、僕を!」

「っ!・・・おそらく、この騎士は瓜生姫芽の能力だ」

「あの子の?でもこんなの知らないって・・・」

「あぁ。知らなかったんだろう、本当に。なぜなら、この騎士はこの子由来の能力ではないから」

「どういうこと?」


 不思議そうに首をかしげる咲也に、騎士をまっすぐ見つめ、吐き捨てる。


「本人の知らないところで、皐月が与えた能力ってことだ!」


 影を操る能力の男も、話に聞いた影に潜る能力の女も、我が物のように自在に能力を使っていたから、自分の力に合致した能力をもらったんだと思っていた。

 だが、まだ幼く自分に合った能力などわからない瓜生姫芽には、どんな能力を与えればいいかわからないだろう。


 なら、皐月はどんな能力を渡すだろうか?

 きっと、瓜生姫芽の身を守ることを第一にした能力を与えるはずだ。

 それが、あの騎士。

 思えば、ヤツは姫芽が泣き出したタイミングから現れた。

 なら・・・。


「あの騎士は瓜生姫芽の涙に反応して現れる防衛システムみたいなものなんだろう」

「防衛システム・・・!なるほど、だから姫芽ちゃんに危害を加える様子はないんだね!」

「おそらく、瓜生姫芽を落ち着かせることができれば、騎士も鳴りを潜めるはずだ!だが・・・」


 その術がない。

 そう発しようとしたところで、咲也がそれを遮った。


「・・・わかった。任せて!」


 自信ありげにそう言い放った咲也。

 今度は咲也が、仁へと指示を送る。


「僕が姫芽ちゃんを落ち着かせる。でも、そのためには僕は集中しなきゃいけない。だから仁、僕をあの騎士の攻撃から守ってくれ」

「・・・わかった」


 本当は作戦の詳細を聞きたかった仁だったが、これ以上戦闘を長引かせることが、かえって咲也の負担になることは理解していたし、何より、咲也を信じると決めたため、何も言わずにうなずいた。

 仁の許可を得た咲也が、懐から符を出し、力を込めた。


「姫芽ちゃん・・・大丈夫だよ」


 符に集中する咲也を、槍が襲う。


「っ!させるか、このデカブツが!」


 突き刺してくる槍を、魔装ではじき、軌道をずらす。

 今までは咲也と二手に分散していた攻撃も、すべての攻撃が仁へと集中したことで、今までの二倍の負担がのしかかる。

 必死に咲也の身を守るが、耐えるのに限界が来るのも、時間の問題だった。


「咲也、頼む!もう・・・限界だ!!」

「大丈夫!もう少しで・・・」


 咲也の握った符が紫の光をまとう。

 そのまま腕を振りぬき、符を姫芽へと放った。

 光を放ちながらまっすぐ飛んで行った符は、姫芽へと当たると光り輝く。

 その光は静かに、ゆっくりと姫芽の中へと入っていくと、そのまま消えていった。


「何を・・・?」

「僕の気を姫芽ちゃんに送ったんだ。水気は鎮静の力を持つから、うまくいけば・・・!」

「ぐすっ・・・あったかい」


 姫芽が小さく漏らした言葉は、涙声ながらもしっかりとした口調だった。

 咲也の気に触れて落ち着いたのか、大きな泣き声は止んでいた。

 それに呼応するように、背中にいた騎士の猛攻も、気づけば先ほどよりもずっと弱くなっていた。


 これなら・・・!


 振りの甘い槍を押し返す。

 その隙を縫って、二人は姫芽へと接近した。

 肩をつかみ、落ち着かせる。


「姫芽ちゃん、落ち着いて」

「大丈夫か?」

「二人とも・・・ありがとう」


 ・・・ひとまずは安心か。

 姫芽が落ち着いたことで、騎士も動きを止め、待機モードのようになっている。


「咲也、よくやった」

「仁も、僕を信じて、守ってくれてありがとう」


 気恥ずかしくなり、そっぽを向く仁。

 そんな二人をよそに、姫芽がそわそわしながら、壁の方をしきりに見ていた。


「ねぇ、お姉さんは!?」

「うん、そうだね、様子を見に行こ・・・」

「・・・咲也?」


 途中で言葉を止めた咲也を不思議に思い振りむいた。


 そこには、背中から血を流し、崩れ落ちる咲也の姿があった。

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