見覚えのある姿
純に促され、先を急ぐ仁と玄花、そして咲也。
「純は大丈夫かな」
階段を駆け上がりながら、咲也がそうつぶやく。
「・・・信じるしかないだろ」
咲也を励ます仁だったが、その言葉はどこか自分に言い聞かせているような雰囲気があった。
「ワタシたちも他人のことばかりじゃなくて、自分のことを考えないと。ここから先もっと手ごわい相手がいるだろうし、瓜生だってまだ待ち構えてるんだから」
険しい表情でまっすぐ前を見ながら、後ろを行く仁たちにそう忠告する玄花。
そうだ。あいつの手ごわさは、戦った俺が一番わかってるはずだ。
他人を心配している余裕はないかもしれない。
それに加え、仁の中には心配と同時に、純なら何とかしてくれるだろうという、確信もないはずの安心感があったことも事実だった。
「次の部屋が見えてきたよ!」
「警戒しましょう!」
気を引き締め、扉の前に立ち、一気に押し開ける。
塔の外から見た感じでも、かなり上の方へと昇ってきたはず。
そろそろ最上階だったとしても、おかしくないとは思う。
本丸が近いんだ、強敵が立ちふさがってくるだろう。
しかし、そんな仁の思惑とは裏腹に、そのフロアにも人気はなく、見渡す限り普通の部屋に見えた。
「ここも、空室・・・?」
「いや、さっきのフロアも、一見誰もいない感じだったのに攻撃を受けた。気を緩めちゃだめだ」
警戒しながら、一歩ずつ進んでいく。
ふと、部屋に設置された棚の上にあった写真が目に映った。
・・・!?
その瞬間、仁の心に電流が走った。
写真を見た仁は驚きの表情を浮かべると、二人を呼ぶ。
「咲也、北条!」
写真の方へと手招きする。
「これ、写真・・・?」
「え・・・!?これって」
その写真を目の当たりにした二人も声を漏らした。
「あぁ。これ、晴明だよな」
そこには、五人の男女が笑顔で写っていた。
ピースをする塔で最初に戦った男とキリっとした目の女性、瓜生皐月とその隣ではしゃぐ小さな少女。
どれも少し幼いが、面影は残っている。まず間違いないだろう。
そして何よりも衝撃を受けたのは、そこに晴明の姿が写っていたことだった。
「なんで、晴明さんがここに?」
「知り合いだった、ってことか・・・?」
疑問符を浮かべる一行だったが、何かを思い出したかのように、玄花が口を開いた。
「もしかして、依代・・・?」
「!そうか・・・」
晴明が依代によってこの世界に顕現したことは、聞いている。
なら、晴明の見た目と全く一緒のこの男は、晴明の依代となった元の身体の持ち主ということか。
写真の中で、瓜生皐月と思われる子どもの頭に手を置き、優しい笑顔で微笑む男。
よく見れば、二人は雰囲気が似ているような気もする。
「もしかして、瓜生皐月は晴明が依代にした男の・・・」
「兄弟、だったのか・・・?」
沈黙が続いた。
あまりにも衝撃すぎる事実に、どう話を切り出したらわからず、一同が口を閉じていたその時。
突然扉が強く押し開けられ、人影が侵入してきた。
「っ、みんな!」
「あぁ!」
魔装を強く握り、構える。
しかし、扉の方を見てみるとそこに立っていたのは、まだ年端もいかぬ少女だった。
急いで階段を下りてきたのだろう。
足は擦り切れ赤くなっており、今にも倒れそうなほど息が上がっていた。
もしかして、人質かなにかか?
少なくとも脅威には見えないその女の子は、こちらを見つけると、花の咲いたような笑顔で駆け寄ってくる。
「止まって!」
一瞬気が緩んだその刹那、玄花の張りつめた声が響いた。
「ぇ・・・」
「大きい声を出してごめんね。でも、あなたが敵ではないという保証がない以上、それ以上こっちに近づくことは許容できないの」
俺も、すっかり気が緩んでしまっていた。
ここは相手の牙城。危険とは常に隣りあわせだ。
たとえ相手が小さな女の子だろうが、気を緩めていい瞬間など一瞬だってありはしない。
大きな声で制止され、瞳が潤んだかと思うと、目元を裾でぬぐった少女は、震えた声で話し出す。
「私は瓜生姫芽って言います。十歳です。えっと・・・」
「瓜生ってことは、皐月の身内だね?」
「!そうです。でも、皐月お兄ちゃんは今・・・」
今にも泣きそうで、言葉を続けられなくなった少女を少しの間見つめていると、それでも涙が溢れないよう歯を食いしばると、大きな声で叫んだ。
「お願いします!皐月お兄ちゃんを助けてください!」