表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
112/127

見覚えのある姿

 純に促され、先を急ぐ仁と玄花、そして咲也。


「純は大丈夫かな」


 階段を駆け上がりながら、咲也がそうつぶやく。


「・・・信じるしかないだろ」


 咲也を励ます仁だったが、その言葉はどこか自分に言い聞かせているような雰囲気があった。


「ワタシたちも他人ひとのことばかりじゃなくて、自分のことを考えないと。ここから先もっと手ごわい相手がいるだろうし、瓜生だってまだ待ち構えてるんだから」


 険しい表情でまっすぐ前を見ながら、後ろを行く仁たちにそう忠告する玄花。


 そうだ。あいつの手ごわさは、戦った俺が一番わかってるはずだ。

 他人を心配している余裕はないかもしれない。


 それに加え、仁の中には心配と同時に、純なら何とかしてくれるだろうという、確信もないはずの安心感があったことも事実だった。


「次の部屋が見えてきたよ!」

「警戒しましょう!」


 気を引き締め、扉の前に立ち、一気に押し開ける。

 塔の外から見た感じでも、かなり上の方へと昇ってきたはず。

 そろそろ最上階だったとしても、おかしくないとは思う。

 本丸が近いんだ、強敵が立ちふさがってくるだろう。


 しかし、そんな仁の思惑とは裏腹に、そのフロアにも人気はなく、見渡す限り普通の部屋に見えた。


「ここも、空室・・・?」

「いや、さっきのフロアも、一見誰もいない感じだったのに攻撃を受けた。気を緩めちゃだめだ」


 警戒しながら、一歩ずつ進んでいく。

 ふと、部屋に設置された棚の上にあった写真が目に映った。


 ・・・!?


 その瞬間、仁の心に電流が走った。

 写真を見た仁は驚きの表情を浮かべると、二人を呼ぶ。


「咲也、北条!」


 写真の方へと手招きする。


「これ、写真・・・?」

「え・・・!?これって」


 その写真を目の当たりにした二人も声を漏らした。


「あぁ。これ、晴明だよな」


 そこには、五人の男女が笑顔で写っていた。

 ピースをする塔で最初に戦った男とキリっとした目の女性、瓜生皐月とその隣ではしゃぐ小さな少女。

 どれも少し幼いが、面影は残っている。まず間違いないだろう。


 そして何よりも衝撃を受けたのは、そこに晴明の姿が写っていたことだった。


「なんで、晴明さんがここに?」

「知り合いだった、ってことか・・・?」


 疑問符を浮かべる一行だったが、何かを思い出したかのように、玄花が口を開いた。


「もしかして、依代・・・?」

「!そうか・・・」


 晴明が依代によってこの世界に顕現したことは、聞いている。

 なら、晴明の見た目と全く一緒のこの男は、晴明の依代となった元の身体の持ち主ということか。

 写真の中で、瓜生皐月と思われる子どもの頭に手を置き、優しい笑顔で微笑む男。

 よく見れば、二人は雰囲気が似ているような気もする。


「もしかして、瓜生皐月は晴明が依代にした男の・・・」

「兄弟、だったのか・・・?」


 沈黙が続いた。

 あまりにも衝撃すぎる事実に、どう話を切り出したらわからず、一同が口を閉じていたその時。

 突然扉が強く押し開けられ、人影が侵入してきた。


「っ、みんな!」

「あぁ!」


 魔装を強く握り、構える。

 しかし、扉の方を見てみるとそこに立っていたのは、まだ年端もいかぬ少女だった。

 急いで階段を下りてきたのだろう。

 足は擦り切れ赤くなっており、今にも倒れそうなほど息が上がっていた。


 もしかして、人質かなにかか?

 少なくとも脅威には見えないその女の子は、こちらを見つけると、花の咲いたような笑顔で駆け寄ってくる。


「止まって!」


 一瞬気が緩んだその刹那、玄花の張りつめた声が響いた。


「ぇ・・・」

「大きい声を出してごめんね。でも、あなたが敵ではないという保証がない以上、それ以上こっちに近づくことは許容できないの」


 俺も、すっかり気が緩んでしまっていた。

 ここは相手の牙城。危険とは常に隣りあわせだ。

 たとえ相手が小さな女の子だろうが、気を緩めていい瞬間など一瞬だってありはしない。


 大きな声で制止され、瞳が潤んだかと思うと、目元を裾でぬぐった少女は、震えた声で話し出す。


「私は瓜生うりゅう姫芽ひめって言います。十歳です。えっと・・・」

「瓜生ってことは、皐月の身内だね?」

「!そうです。でも、皐月お兄ちゃんは今・・・」


 今にも泣きそうで、言葉を続けられなくなった少女を少しの間見つめていると、それでも涙が溢れないよう歯を食いしばると、大きな声で叫んだ。


「お願いします!皐月お兄ちゃんを助けてください!」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ