姿の見えない狙撃手
「さて・・・」
一人、部屋に残された純は、扉が閉じたのを音で確認すると、つぶやいた。
ここで敵を倒さなければ、咲也たちが挟み撃ちを受ける形になるだろう。
つまり、少なくとも、足止めくらいはする必要がある。
しかし、相手がどういった者なのか、それがわからなければ対策は難しい。
まず間違いなく、先ほど弾丸を撃ってきた相手は、仁が道中に遭遇した相手で間違いないだろう。
超長距離射程の狙撃手だと、仁は言っていた。
もしもそれが本当なら、正直こちらができることは少ない。というか少ないどころか、まったくないだろう。
なぜなら、この塔内に遠くから狙える場所がない以上、塔外から狙撃をしているということになる。
仁が確認していた通り、この付近にこちらを狙えそうなものは、あの遠くの山くらいのもの。
あそこから狙ってきているなら、どうにかできるのは、こちらの陣営だと遠くを狙える魔装を持つ咲也か怜衣くらいだ。
そう考える純だったが、咲也をこの場所に残さなかったのには、単純に咲也を一人で残すことに不安があったこと以外にも、理由があった。
「後ろを向いていたせいで、撃たれた方角は意識していなかったからな・・・」
そう声に出しながら、あたりを見渡す純。
先ほど仁が調べていた方向とは逆の方の窓へと近づいたのち、部屋の中央あたりで地面を触りながら、何かを調べる素振りを見せる。
首をかしげながら調査を続けるが、何も見つからなかったのか、今度は窓の外を調べ始めた。
枠に両手をかけて、下を覗き込むように身を乗り出す。
その時、純の隙を見計らったかのように、後ろから発砲音とともに弾丸が発射された。
再び、まっすぐと純を狙って飛んでくる弾丸。
しかし弾は、地面から突然隆起した岩の塊によって防がれ、カランという音を立て、地に落ちた。
「残念だったな」
まるで、撃たれることがわかっていたかのようにそう吐き捨てると、窓から離れ振り返る純。
地面を調べる素振りは、本当は時間差で地面が隆起する術式を仕込んでおくためのものだった。
術式の効果時間が終わり、隆起した岩が砕けて消える。
その先には、先ほどとは何も変わらない景色が映っていたが、純は確かに、そこにいる何かに気付いていた。
なるほど、ならば・・・。
「はぁ!」
地に剣を突き立て、気を込める。
すると、刺さった場所を中心に、地面がひび割れていく。
やがてそのフロアの地面すべてがひび割れると、純はようやく剣を引き抜いた。
これで、狙撃手の正体を暴く!
瞬間、地を強く踏みしめ扉の方へと駆け出した。
勢いのまま、扉へと手をかけ開こうとしたその時。
じゃり。
「!」
わずかな音とともに、銃声が響き渡る。
しかし、銃声とは違う音が確かに鳴ったことを、純は聞き逃さなかった。
飛んできた銃弾を盾で防ぎ、強く一歩を踏み出し、音のもとへと跳躍する。
「はぁ!」
その勢いで剣を振り下ろす。
何かが横飛びでよけたような雰囲気とともに、剣が地を砕いた。
砂煙が舞うとともに、純はにやりと笑った。
「やはり、遠距離狙撃ではなかったか」
そう虚空へと言葉を吐いたかと思うと、そばの何もない空間から、すうっと人影が現れた。
「・・・俺の動きに早く気付くため、地面を崩したのか」
突如現れた男は、この世界には似つかわしくない、大きなライフルを両手に抱え、純と対峙した。
男の言葉に、純がうなずきを返す。
純が地面を割ったのは、岩でできたフロアが割れることでできる砂利によって、動いた時に鳴る足音を大きくするためであった。
「あぁ。この部屋に敵がいるということは確信していたからな。ここから急いで出ようとすれば、お前は焦って攻撃してくるだろう。そうすれば、必ず足音を拾えると思った」
純は、狙撃手が塔の外にいるということは初めから考えてはいなかった。
それは、他の階で狙撃を受けなかったため。
もし遠くから狙っているのであれば、影を操る男と戦っていた時点で狙撃をする方が効率がいいはずなのに、そうしなかったことに引っかかっていた。
そして自分が身を乗り出したとき、隙を見せたその瞬間を、寸分狂わず即座に狙えるほど、タイムラグのない射撃。
透明能力。
それが、この二つの事実から純が導き出した、狙撃手の正体だった。
「タネは割れた、観念しろ」
「それだけで、諦めるわけないだろ」
再び照準を純へと合わせる。
しかし、そんな悠長なことが許されるわけもなく、純は即座に近づくと、ライフルごと剣でたたき斬るため、強く振り下ろす。
銃の砲身で身体をカバーしながら後ろへ跳び、刀身を回避するが、衝撃を一身に受けたライフルはすっかりゆがんでしまい、弾を射出できる構造を失ってしまった。
「どうする?このままだと、戦えないが」
「・・・ふん、なめるなよ」