透明な弾丸
「危ない!」
狙われたのは、扉を開こうと両手がふさがっていた純だった。
間一髪、反応できた玄花が、水の盾によって銃弾をうまく防ぐ。
「みんな、戦闘準備・・・ってあれ?」
北条の口上が、空虚な部屋へと響き渡る。
確かに銃声が聞こえた。
銃弾も、間違いなく北条が止めた。
そのはずなのに・・・。
「誰もいない?」
「どういうことだ・・・?」
部屋の中には、自分たち以外の誰もいなかった。
そこで、思い出す。
あの時と一緒だ。
京都へと戻る最中の平原、超長距離から銃弾で狙われたあの時と。
だとしたら、狙ってきたのは・・・。
部屋を取り囲むように設置された窓へと走る。
どの窓にもガラスがないため、外から狙うなら好都合だ。
「この窓の向こうから、狙われたのか・・・?」
しかし、それなりに塔を上ってきて、この部屋も相当な高さにある。
どこまで見渡しても、こちらを狙えそうな場所はなかった。
現実的な、という観点でフィルターをかければ。
目の前に見えたのは、かなり遠くにある山。
「あの山からなら、こっちを狙える」
「ちょっと待って、現実的じゃなさすぎない?」
咲也の言葉はもっともだ。
あまりにも現実的ではなさすぎる。
「・・・ここは俺が何とかする。お前たちは先に行け」
姿の見えない狙撃手に手をこまねいていると、純が突然、そう提案してきた。
「姿の見えない相手に対して、四人全員が足を止めていたら時間がもったいない」
「でも、全貌の分からない相手を一人でするのは危険すぎるよ」
「それに、相手が一人かどうかだって・・・」
「あぁ。俺もそれには同意だ。時間がないのは確かだが、危険すぎる」
そんな俺たちの意見に、首を振って受け入れようとしない純。
「ここで時間を使って、村が襲われてしまうことが一番避けたい事態、そんなことはお前たちも理解しているはずだ」
「・・・わかったよ」
純の言葉に、しぶしぶといった表情で、北条が首を縦に振る。
「咲也くん、仁くん、行こう」
「わかった」
俺と目を合わせた北条は、少し頷くと扉へと手をかけ、力を込める。
「待ってくれ、まだ僕は・・・」
「咲也!」
決意が固まらず、右往左往する咲也に、純が一喝する。
その目は鋭く、咲也のために心を鬼にして叱る、先生のようだった。
「天照府で稽古をつけてもらっていた時、晴明は、『たとえ犠牲を払ってでも、未来を背負う民を守ること。それが陰陽師の使命だ。だがその犠牲はどんな状況でも、守るべき民であってはいけない』、そう言っていた」
その言葉に、何かを思い出すように北条が静かに視線を落とした。
そして、咲也もその言葉を聞いて、首を振った。
「・・・言ってることはわかる。でも、なら誰がその陰陽師を守るんだ?」
確かに、純の言っていることも正しいし、咲也の疑問も正しい。
力のある者が、力なきものを守るべきという意見と、たとえ力があるといっても、犠牲なんか出すべきではないという意見。
答えなんてない疑問。
だが、純は迷いなくその疑問へと答えた。
「自分だけ、だろうな」
「そんなのってないだろ・・・?」
自分を守れるのは自分だけ。
簡潔すぎる答えに、咲也は納得がいかない様子だ。
そんな咲也へ、純があきれたように言葉を続ける。
「はぁ、俺が何のために、稀代の陰陽師の時間を多大にもらってまで、修行をしてきたと思っている」
「・・・純」
「こっちが一人だろうが何だろうが、俺は負けない」
きっぱりとそう言い切るその顔は、本当に自分が負けることなど微塵も考えてはいない様子だった。
「わかったらさっさと行け」
「・・・約束だよ、必ず戻ってきて」
純が強くうなずく。
咲也もそれにうなずき返すと、その横を通り過ぎこちらへと向かってくる。
「じゃ、先に行っとくぞ」
「あぁ」
「・・・待ってるからね!」
背へとかけられた言葉に、右手を挙げて答える純。
顔をこっちに向けていないため、表情は見えない。
純を一人残し、扉を閉めた。