影との交戦
玄花の水符による爪が、純の盾にぶつかる音が響く。
瓜二つの仲間が牙を向けてくる状況に、余裕を失う一同。
「瓜二つすぎて、どれが偽物かわからん・・・!」
見た目で違いが判らないという状況が一同を困らせていた。
様々な攻撃が入り組んでいる状況で、視界外からの攻撃を避けることがかなり難しい中、相手が倒すべき相手かどうかわからないのが、本気で攻撃できない要因となっていた。
「君たちのことは、いろんな場所で学ばせてもらったよ。その不思議な武器についてもね。すごい完成度だろう?」
「うるせぇ!」
槍を大きく振り回し、矢をはじきながら近くにいた自分の偽物を吹き飛ばす。
「はあああ!」
「うわ!」
吹き飛ばされた仁の偽物が、今度はその近くにいた咲也に襲い掛かる。
まったく同じ声で気合の一声を上げる偽物。
「声まで・・・」
「だから言っただろう、学ばせてもらったと。僕の能力は相手のことを知れば知るほど、幻影の完成度が上がっていく」
まったくしゃらくさい能力だ!
「仁くん、危ない!」
「うぉ!」
超高圧で押し出された水の斬撃が、顔めがけ飛んできていた。
声のおかげで間一髪避けられた斬撃は、そのまま飛んでいき、塔の外壁を一部切断した。
「なんて威力だよ・・・」
「ほとんどワタシの技と同じ威力だから、気を付けて!」
純の盾や、咲也の遠距離攻撃は厄介であったが、それ以上に、陰陽頭である玄花の偽物が猛威を振るっていた。
爪による攻撃はまともに受ければ致命傷になる上、水による盾も作り出すことができるため、玄花の偽物には隙がなかった。
「とはいえ、そっちの攻撃にまで気を使えないぞ!」
ただでさえ、周りのやつが敵かどうかわからないんだ。
遠くの戦況なんか気にしていたら、足をすくわれる。
現に今だって、純の盾を槍ではじきながら、攻撃をどう通すか考えることで手いっぱいだ。
「仁、治療するから僕の近くに!」
「わかった」
不意に受けた矢が、地味に痛みを生じさせている。
回復してもらえるならそれに越したことはない。
「待って!それは偽物の僕だよ!」
「は!?」
続いた言葉で、咲也のもとへと進めていた足を止める。
「こっちが本物だよ、早く!」
「違うよ!僕が本物だ!そっちにいちゃダメだ!」
「くっそ、なんだこれ!」
声の主である咲也を見比べる。
だめだ、わからない・・・。
見た目も声も同じなら、何で判断すればいいっていうんだ。
「仁、回復はあきらめろ!いいか、全員自分自身と戦うんだ!とにかく自分の偽物を倒すことだけ考えろ!」
純の声にハッとする。
確かに、目の前にいる自分が偽物だということは、自分自身が一番わかっている。
敵だと確信できる相手とだけ戦えば、本気でやれる。
「わかった!」
目標を自分へと変更し、そちらの方向へと駆け抜ける。
それを阻止するかのように、矢が飛んでくるが、それをはじき風で反撃する。
「風雅!」
「ちっ!」
「作戦通り動く俺を攻撃してくる時点で、敵だってわかんだよ、バカが!」
鏡写しのような自分のもとへとたどり着き、槍を振り下ろす。
力強く地を叩いた槍は、がれきを舞い上げた。
ほかのやつらも、自分自身とタイマンができる状況になれた様子だ。
その様子に、先ほどまで余裕そうだった青年は不愉快そうに表情をゆがめた。
「いやな作戦を思い浮かぶね。でも、君たちにその影を倒せるかな?」
「偽物に負けるわけないだろうが!」
槍を構え、突き出す。
同じ構えの相手がそれを槍先ではじき、返すようにこちらへ刃を突き付ける。
返された攻撃に対し、体重移動で態勢を変えて上半身でそれを避け、切っ先を柄で押し返す。その勢いのまま円を描くように槍を回すと、相手を槍で薙ぎ払った。
しかし、相手もそれは織り込み済みなのか、槍で受け止めると、受け流すように槍を回転させ、こちらを切り伏せようとする。
見たことのある動きに、簡単に攻撃をかわす仁だったが、変わらない戦況に歯がゆさを覚えていた。
「くっそ!」
あいつの言っていた通り、この幻影、完成度が高い。ほとんど俺と同じ太刀筋で攻撃を返してくる。
躱すことはたやすいが、それは相手も同じだ。
このままだと、決着がつかない!
影にスタミナって概念がないなら、不利なのはこちらだ。
どう突破すればいい・・・?