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塔 下層

「服が土だらけなんだが・・・」

「仕方ないだろう」

「あとで洗えば大丈夫だよ」

「あはは・・・」


 土まみれになった服に文句を垂れる仁と、それをなだめる他三名。

 純の作った穴を抜けた先には、復興の進まないまま、塔と壁の影となり日の光が差さなくなってしまった村があった。


「真っ暗だね」

「こんな壁に囲まれてしまえば、昼でもこうなるだろうな」


 かろうじて照明のようなものが家屋で照らされているのが分かったが、街灯はないため道はずいぶんと暗かった。


「あんたたち、何者だい!」


 そんな中、わずかに灯された明かりでこちらへと近づいてくる老婆の姿があった。

 

 いきなりエンカウントしてしまったぞ、おい。


「やはり下層にも人がいたか」

「すみません、僕たちは瓜生さんに用があってきました」

「おい!」


 正直に言うやつがあるか!

 咲也の横っ腹をしばく。

 予想通り、咲也の言葉を聞き、相手の表情がさらに曇ったことが見て取れた。


「・・・あんたたち、陰陽師だろう。なら、黙って帰った方がいい。気付かれたらどうなるか」


 小声でそう話す老婆。

 こんな状況になっても陰陽師嫌いは健在のようだ。


「前にこの村に来たあの子に免じて、だまっていてやるから」

「前に来た子?」

「あぁ。茶色がかった髪をした男の子が数日前に来て、家の修復を手伝ってくれたのさ。その子は陰陽師に関係のある者だと言っていた」


 茶色がかった髪と、この村に数日前に来た青年。

 そして、陰陽師ではなく陰陽師と関係のある者という自称。


 ・・・豪のことかもしれない。


「悪いがそういうわけにもいかない。俺たちも仲間を傷つけられているからな」

「そもそも、ここから出る方法はあるんですか?」


 目の前の老婆が、咲也の言葉に目を伏せる。


「そんなものはないよ。必要なものは言えば外から持ってくるとだけ告げて、うり坊は上に行っちゃったからね」

「そんな・・・」


 老婆の言葉に悲しみや怒りなど、様々な感情を抱く一行だったが、仁は驚きを隠せないでいた。


 よぎったのは、最初に村へ来た時の瓜生の姿。

 天秤で嘘を見抜かれたあの時確かに、いるかもわからない村人のために、俺を逃がしてまで、安全を確保しようとしていたはず。

 一体、瓜生に何があったんだ・・・?

 まるで別人のような行動に、違和感がぬぐえなかった。


「それでも、村の人たちは瓜生のことを信じているんですか?」

「そりゃあねぇ。あんなことがあっても、皐月ちゃんは曲がったことをしない、いい子だったから」

「あんなこと?」

「とにかくあんたたちはさっさと、さっきみたいに外へ出ていきな。どちらにせよ今の皐月ちゃんは人間離れした力を持っている。変に立ち向かって命を無駄にする必要はないよ」


 瓜生がこんなことをしているのにも、何か理由がありそうな素振りだったが、こちらも、はいそうですか、と引き下がるわけにはいかない。


「悪いが、俺らにも退けない理由がある」


 強くそう主張し、老婆の目を真正面から見つめる。

 そんな仁の視線に、あきれたように首を振る老婆。


「・・・はぁ、わかった」

「え?」

「止めても無駄なのは目を見ればわかるよ。だが、この村は皐月ちゃんに心酔しているといっても過言じゃない。ほかの村人に出くわせば、必ず何かしらされるだろう」

「承知の上だ」


 そう伝え、塔へと向かうため、村をまわろうとしたところで、老婆から呼び止められた。


「まぁ待ちな。この上にいくには、あっちの方角にある門を通る必要がある。闇雲に歩くと、余計な騒ぎが起きかねないよ」


 その言葉に、驚きながら目を見合わせる一同。


「いいのか?そんな情報」

「いいのさ。陰陽師ってのの中にも良い人がいるってのは、あの茶髪の子から学んだしね。それに天使像を作ったあたりから、皐月ちゃんの様子がおかしくなったことは私も感じてはいたからね・・・」


 昔を懐かしむかのように、老婆が目を細める。

 そこに見たのは、過去の無邪気な瓜生皐月の姿だろうか。


「・・・ありがとうございます」

「村の連中が従っているのも、もはや崇拝からなのか、恐怖からなのかもわからない。もし、皐月ちゃんが別の何かになってしまっているなら、その時は・・・」

「・・・わかりました」


 いわんとすることを汲み、そっとうなずく。


「・・・上への通路はあっちだよ。ほら、さっさと行きな!」


 背を押される形で、通路の方へと押し出される。

 勢いのまま、薄暗い中示された方向へと突き進んでいく。

 後ろを振り向くことは、なかった。


「さて、と。若いのも頑張ってくれてるし。こっちも頑張んないとね」


 一人残った老婆は、誰に言うわけでもない独り言をつぶやくと、自分の家へと近づいていった。


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