変貌した村
姿の見えないスナイパーの襲撃から逃れるため、青那の手持ちの式神はなくなってしまった。
そのため、徒歩で村へと向かう仁たち。
昨日遭遇した襲撃者に注意を怠らないよう、一同は慎重に村へと歩みを進めていた。
だが、身構えていた一行とは裏腹に、想定していたよりもずっと順調に村へと近づくことができていた。
順調に歩けば、村が見えてくるころになると、何かに気付いた玄花が声を上げた。
「ねぇ、あれって・・・」
「うん?」
あれ、と指をさす先を見ると、わずかに見えたのは壁。
近づいていくと徐々に露わになってきたのは、一昨日とはまるで姿を変えてしまった村の姿だった。
「なにこれ・・・塔?」
「たっか!」
「仁、一昨日村に来たんだよな。その時にはすでに?」
「いや、そのときは普通の村だった。復興の進んでいない村だ」
要塞のように高くそびえる壁。
石材と木材で建立され、ところどころ金属も見える。
村を囲うようにたたずむその壁はあまりにも無機質で、不気味さすら覚えるほどだった。
一昨日にはなかった壁。
ということは、この塔をたった二日くらいで生み出したということになる。
そんなことができるのは、やつしかいないだろう。
「瓜生の仕業・・・だよな」
「村を守るためってこと?」
わざわざ村を覆うように作ったんだ。考えられるとしたらそれぐらいだろう。
ただの村から、外敵を想定した根城へと作り替えた、というわけか。
まぁ、京都へ侵入者を送ってきたことを考えると、それを踏まえて、俺たちが接触しにくることもわかっていただろうからな。
「どうやって入ろうか?」
「入口がないか、外周を回ってみるしかないかもな」
咲也の問いにそう答える。
入口がなければ、出口もない。そうなれば、村人も出ることができなくなってしまう。
だから、どこかしらにあるとは思うが・・・。
しかし、時計回りに外周をまわるものの、入口のようなものは一向に見つからなかった。
一応上の方は塔になっており、窓のようなものがあるのが見えるが、登れるような突起がなく、あの高さまで行くのは至難の業だ。
「もう壊すしかないか?」
「でも、この壁って塔の土台みたいなものだよね?もし自重に耐えきれずに塔が落ちちゃったら・・・」
咲也の言うとおりだ。
ここはもともと、普通の村人も住んでいた場所。
「下層に人がいる場合を考えると、避けるべきかもしれないな」
「どうしようか・・・」
「なら、地中から攻めてみるか」
純がそう告げ、魔装を作り出す。
「地中?」
「晴明と修行をしていたからな、土気の基本ぐらいはできる。それで地面の形を変えて通路を作るんだ」
「そんなことができるのか?」
純の言葉に、少しだけ驚く。
俺が千東のもとで木気を学んでいたように、純もまた、晴明のもとで成長したということか。
「でもそれって結局、この壁ごと陥没しちゃわない?」
「一周したとき、下の方の壁には継ぎ目が一つもないことがわかった。つまり村を囲んでいるこれは一つの板だと考えられる。なら、一か所地盤が沈下したとしても、ほかの地盤に支えられることで保てるはずだ」
「なるほどね」
本当に、よく見てるな。
純が剣を地へと突き立てると、力を込める。
地震のような地鳴りとともに、目の前に大きな穴が開いた。
「つながったのか?」
「あぁ。だが、万が一崩れる可能性も考えて、中に入ったあとは地面を元に戻すつもりだ。それを考えると、壁の外に一人くらいは待機しておいたほうがいいかもしれない」
純の言葉に考え込む一同。
「・・・なら、私が残ります」
一人残されるという歯がゆい立場に、青那が名乗りを上げた。
「咲也さんや玄花ちゃんは守りや後方支援に長けていますから、できれば中にいてほしいですし、退路の確保には道祖土さんが必要、唯一瓜生と対峙している日向さんも塔へ向かうべき、それに加え、挟み撃ちにならないよう殿を務めるのであれば、多少自由に動ける私が適任だと思いますから」
不安そうな表情を隠せてはいなかったが、それでも、自分を納得させるかのように、千東は言葉を並べる。
その言葉に、純が少し考え込んだ後、ゆっくりとうなずいた。
「・・・わかった、なら頼む」
「はい、頼まれました。その代わり、約束してください」
青那は、こほんと軽く咳払いをすると、気を引き締めた表情で一同の顔を見つめる。
「必ず、全員無事に戻ってくること!いいですね?」
不安そうな表情を必死に隠すような、真剣な表情の千東へ、各々がうなずく。
「・・・あぁ」
「うん!行ってくるね」
「行ってきます、千東さん」
順番に地に開いた穴へと入っていく。
「どうか、無事で・・・」
塔の外には、皆の後ろ姿を心配そうに見つめる青那の姿があった。