村からの刺客
「それでは、出発しますか」
「そうだな」
南の村で男から話を聞いた翌日、京都へと戻るため、村を出発しようとしていた仁と青那。
「ここからは、京都にいるみんなと協力して当たった方がよさそうですね」
「あぁ」
こちらの噓を見抜くなんて序の口だった。
相手は、簡単に人間を簡単に焼き殺すことのできる存在。
用心に越したことはない。
「瓜生とその天使は、何が目的なんでしょう?」
「そこまでは、わからないな」
そう返事をした仁だったが、心の中では、瓜生はただ周りの人を守りたいだけなんじゃないかという疑念がぬぐえないでいた。
もしそうなら、俺にはその想いが痛いほどよくわかる。
豪を発見した、あの日よりも前。
晴明と一対一で話をした時、ほかの継承者と同様に天使と戦うか否かという質問を受けた仁は、戦いたいとは思わない、ただ自分が戦わないことでほかのやつらが傷付くことがあるなら、力が欲しいと答えた。
最初は、この世界に無理やり連れてこられたことに、いら立ちを覚えていた仁。
だが、京都の侵攻の時、重傷を負った黄我の姿を見て、ふがいなさを感じたこと、咲也が無理をしてまで戦う力のない自分を逃がしてくれたことが、心境を変化させた。
自分が動かなかったせいで、誰かを失うのではないかという胸騒ぎが、青那とともに行動し、操気を学んでいた理由だった。
その過去から、周りの人のために力を振るう瓜生の姿が、自分と重なって見えていたのだった。
だがそれ以上に、豪の負った傷と少しでも関係があるなら、許すつもりはなかった。
二人は情報を聞かせてくれた男に礼を言い、村を出発した。
「できれば最短で戻りたいが・・・」
そのためには、どうしても瓜生のいるあの村を通らなければならない。
「危険ですから、遠回りしましょうか」
「そうだな」
多少時間がかかっても、あの村付近は避けたいため、二人は大回りして京都へと向かうことにした。
龍に乗って木々を抜け、平原へと出る。
「西の方角へと大回りして、平原を抜けます」
「わかった」
方向を左へと大きくずらし、森の中を飛ぶ。
京都を広く囲う平原へ差し掛かり少ししたところで、仁が青那へと話しかけた。
「・・・千東」
「はい、見られていますね」
「だよな」
平原に出たあたりから、ずっと感じていた視線。
何者かはわからない、どこにいるかもわからないが、監視されているような気がしていた。
そして、その視線は千東も感じていた。
確実に誰かに見られている。
「警戒はしておこ・・・!」
何かが飛んできている、そう感じた時には、身体が勝手に動き魔装を手にしていた。
「日向さん!大丈夫ですか!?」
「大丈夫だ」
式神にあたる間一髪、魔装である槍ではじき返すことができた。
感触的にはなにかの金属だった。
考えられるのは銃だが・・・。
「龍を降りて、対峙しますか?」
「いや、もう少し様子を見よう。千東、こっちの世界に銃はあるのか?」
「あることにはありますが、黒金さんのような精度の高いものはほとんど普及していないはずです」
「そうか」
銃がない中で、的確にこちらを狙って弾を当ててきた。
そんな芸当ができるのは。
「天使か、もしくは瓜生か」
そうつぶやいたとき、二発目の攻撃が飛んできた。
槍で防ごうとしたが、弾は龍の尻尾付近を狙い飛んできたために、防ぎきれず命中してしまった。
速さに力を割き、耐久性に欠ける青那の式神がそれに耐えられるはずもなく、ただの紙に戻った影響で、重さに耐えきれず、仁が地へと放り出される。
慣性で地を転がるが、それでもなんとか体勢を立て直す。
「仁さん!」
「俺は大丈夫だ、千東は京都へ!」
「そういうわけにはいきません!」
青那も仁の落下に気付き、心配そうにUターンして戻ってくる。
「おい、早く京都へ・・・」
そう言った時にはすでに龍から降り、仁のそばに近寄っていた青那。
弓を携え、飛んできた方角から仁をかばうよう、前に立った。
「飛んできている方角はどちらです?」
「・・・瓜生のいる村の方角からだ。それと、かばわなくて大丈夫だ。全然動ける」
頑固なやつだ・・・。
言っても聞かなそうな千東の態度に、仁は諦めて共闘の姿勢をとる。
簡単には、合流させてもらえないらしい。