再襲来
「避難はひとまず完了したか」
かなり小さくではあるが、天使は、すでにこちらへ飛んできているのが見える距離まで接近していた。
その状態で、村の遠くへ避難させる方が、守る対象が分散してしまって危険だと考えた俺たちは、大きい家屋三軒に村人を分け、避難させた。
村の表には俺ら二人になり、小さかった影は村のすぐ近くまで迫っていた。
「来たぞ」
周りにいた天使をできるだけ集めてきたのだろうか。相手の手勢は、全部合わせて十体もいかない数だったが、何より目を引くのはひときわ大きな一体の天使だった。
周りのとは一線を画す威圧感を漂わせながら、背に携える背丈程の大剣が光に照らされ光る。
そして、村付近まで来ると、地に足をつける。
空で見たよりもずっと大きく感じたそれは、白銀の鎧を着た騎士のような風貌だった。
「・・・ふむ、こいつらが悪魔か」
「隊長、悪魔ではないです。悪魔の力を持つ者たちです」
「どっちでもいい!敗走して助けを求めに来たやつが、たてついて来るんじゃない!まったく情けない連中だ」
隊長と呼ばれる大柄な天使と話している天使は、よく見ると先ほど逃がしたやつだった。
増援を呼ばれてしまった・・・。やはり逃がすべきではなかったか。
「まあ私を呼んできて、ありがたかったがな。悪魔の力を持つ者は、我が主も危惧していた存在だ。ここで始末できれば、さぞお喜びになられるだろう。そうすれば私の地位も・・・」
敵前なのに、ゆるんだ表情を隠すことなく、自分の考えが駄々洩れている天使を見て、ただの単細胞に思えてくる。
さっき空を飛んでいた際に感じた威圧感は何だったのだろうか。
これ以上、あちらの茶番に付き合う気はない。互いに目を合わせ、攻めるタイミングを合わせる。
「行くぞ!」
「はああああ!」
大地を強く蹴り、こちらの攻撃範囲まで飛びこむ。
そして、長を取り巻くように前を守っていた天使たちを薙ぎ払う。
「なに!?」
攻撃に反応した天使たちは、防御態勢を取りながら、後ろへ下がる。
「不意打ちなんて卑怯だぞ!」
「そっちが集中していないのが悪いんだろ」
今度は天使が攻撃を仕掛けてくる。
剣や槍などさまざまな得物で攻撃を加えるが、どれも手甲や盾を突破できるものではなく、次第に二人に追い詰められていく。
「どうした、この程度か」
だが不気味なのは、隊長と呼ばれる天使が一向に戦闘に参加しないことだった。
頭脳労働担当なのか・・・?それにしてはさっきの会話に知性を感じなかったが。
戦闘自体は順調にいっていたため、ひとまず目の前の天使へ集中する。
取り巻きを倒し終わってから、大物を狙った方がこちらも戦いやすい。
「・・・ふむ」
変わらず、傍観するだけの隊長を横目に、攻撃を仕掛けてくる天使たちをいなし、手甲を叩きこむ。
飛んでくる矢をはじき、お返しに投げつける。
そうして前線を押し込んでいくと、ついに拳が隊長へ届くところまで来た。
チャンスだ、周りの天使と一緒に攻撃を当てる!
「はああああ!」
取り巻きの天使を狙っているように見せかけ、隊長へ攻撃が当たるように、仕掛ける。
振るった手甲は取り巻きの天使を吹き飛ばした。
「・・・その程度か」
そして、隊長の持つ身の丈近くもある大剣によって、いとも簡単に止められた。