始まり
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いろんな者の想いを背負って、ここまで来た。
希望を託していなくなった者たち、失意の中必死にあらがった者たち、誰かを守るためにその身をささげた者たち、そういった多くの想いに触れてきた。
――と罵られようが、この荷物を誰かに譲るつもりはない。
さあ、行こう。
この地獄を、終わらせるんだ。
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「・・・ここどこだ?」
俺は今日、高校の頃の友人6人と3年ぶりに飲みに来ていた、いや来るはずだった。
親しかった友人の中には、高校を卒業して地元を離れ就職したやつもいたし、大学や就活の方が忙しかったことも影響して、それぞれ会う機会もなかなか無かった。だから俺は、久しぶりに友人と会えることをとても楽しみにしていた。
それなのに・・・。
「待てよ、俺は飲み会の集合場所に行くために電車に乗っていたはず。なのに、なんだここは。なんなんだこの惨状は」
見渡す限りの荒れ野。あたりには、以前誰かを守っていたであろう家屋や家財の残骸が無残に転がっている。なかには燃えてしまって、どのような姿だったのかわからないものもある。
そしてそれ以上に目を引くのは・・・
「人・・・なのか?」
地面に無造作に投げ捨てられた何か。それはぼろぼろの布にまかれ、真っ赤な液体をまとって転がっていた。人型をしたそれは、人と認識するにはあまりにも自身の認識とずれていて、理解しがたいものであった。
目の前にある世界が、あまりにも現実離れをしすぎていて、思考がまとまらない。
「いやいや、待てよ、おかしいだろ。だってさっきまで駅のホームで電車に乗ろうとしてたんだぞ。なのにこんな・・・」
夢なのか?いや電車に乗ってから座席で寝るならまだしも、電車に乗った瞬間に寝るわけがないだろう。
目の前の光景に四肢が震え、まともに立つことができない。ついには尻もちをついてしまう。
おかしいだろう。ただ数週間前から楽しみにしていた飲み会に行きたかっただけなのに。さっきまで普通に街中を歩いていたはずなのに。
異質過ぎる状況に、なぜという言葉だけが頭を駆け巡る。
混乱している最中、後ろから物音が聞こえた。
そうだ、まだ生きている人がいるかもしれない!この状況を聞かなければ。もしかしたら疑問だらけのこの現状を打破できるかもしれない!
一縷の光を必死に手繰り寄せるように振り返ると、そこには、光る羽を背中に生やし、剣を片手に携えた人のような姿をした存在。
「・・・天使か?」
目を疑った。ゲームやアニメの世界でしか目にしないような、現実離れをしたその風貌は目を奪われるほどに美しかった。
しかし、それ以上に俺の意識を向けさせるものがあった。
それは、剣。赤く染まり、液体を滴らせるその刃が、周りに転がっている「人型」とリンクする。
そうだ。死体のある空間にいる生存者が善人であると、なぜ俺は決めつけてしまったのだろうか。「犯人」だって生存者ではないか。
頭に浮かんでしまった想像をかき消すように必死に首を振る。
その瞬間、あたりを見まわしていた天使と目があう。
「まだ生き残りがいたか」
生き残り。
その言葉一つで今から何が起こるのか、否応なく理解できた。いや、できてしまった。
全身がこわばる。逃げろと脳が叫ぶのに、身体が言うことを聞かない。
天使は地を蹴ったかと思うと、羽をはばたかせてこちらへ近づいてくる。
もうだめか。なにがなんだかわからないまま、ここで終わるのか。まだやりたいこともたくさんあるのに。
命の危険への本能とこの上ない恐怖で、とっさに腕を前に出し防御態勢をとる。
刹那。
『強欲を贖う者よ。天使など狩り殺せ。目覚めの時だ』