祭りの金魚はもういない
昔からつるんでる奴がいる。
家が近所で、幼稚園からの所謂幼馴染。高校まで一緒なのだからかれこれ十五年の付き合いだ。
最高の親友だと、あいつは思ってくれている。
だけど、私は違う。
あいつを異性だと意識し始めた頃から、私の思いはただの親友では収まらないところまできている。
よくある話だ。
私はあいつに、宏人に恋をしている。
高校三年の夏。近所の神社でやっている祭りに二人で行くことになった。
誘ったのは私。あいつは二つ返事で了承した。
これまでだって一緒に行っているのだから、当然と言えば当然だ。
毎年あいつを誘うのに勇気を出していることを、あいつは気付いていないだろう。
「咲希、次射的やろうぜ」
「良いぞ。どっちが多く取れるか勝負といこう」
「上等だ。泣いても知らねぇぞ」
「どっちが」
浴衣といういつもと違う服装、それに合わせたいつもと違う髪型。学校ではしない薄い化粧。可愛く見られたくてした格好。
なのに浴衣姿の女子らしからぬ屋台を廻る。
違う。本当は女子だと意識して欲しくて、いつもより気合を入れて準備をしたのに。
宏人を前にするといつもの女子らしくない私が顔を出す。
そんなつもりないのに。
どうしたら良いか分からなくて、動揺を悟られたくなくて。気持ちを隠す方法だけ上達していく。
傍にいられなくなるかもしれない可能性が、怖い。
「次は金魚すくいだ」
「この私に挑むとは無謀な」
金魚屋のおじさんにそれぞれお金を渡し、ポイを受け取る。
「強がんな。お前ん家で金魚みたことねぇぞ」
「夏の終わりには全部死に絶えているだけだ」
「世話下手かよ」
「黙れ」
「あ」
言い合いながら掬っていると、宏人のポイが先に破れた。勝負に勝ったことに油断し、浴衣の袂が水につかってしまう。
掬った分だけ金魚を受け取り、人気の少ない所に避難することにした。ハンカチで対処するが簡単に乾きそうにない。
奇しくも二人っきり。
伝えるなら今しかない。
そう決意し、私が口を開く前に、なぁ、と宏人が切り出した。
「お前には言っとこうと思うんだけど」
「どうした」
「実は、好きな奴がいて」
「だ、だれだ?」
「同じクラスの清水」
同じクラスの清水? あいつは。
「この前告った」
「結果は?」
「受け入れてもらった」
「それは僥倖。よかったな」
「あぁ」
男を好きなんて、初めて知った。
女の私に勝ち目はないじゃないか。
夏休み明け。自分を親友と言う宏人と、いつものように一緒に登校する。
あの日の金魚は、もういない。
お読みいただきありがとうございます。
いつも企画などで参加する際、投稿する作品は一つなのですが、今回は思いついてしまい、ついもう一つ投稿してしまいました。
年末年始のこの忙しい時期に自分は何をしているのか。
いや、忙しいからこそ、現実逃避の為か、ストレス解消の為か。
『作品を書く』という行為は自分にとって大事なことなのかもしれません。
ちなみに、自分は恋愛的に「好き」がいまいち分かっていません。
漫画や小説、ドラマや映画。それらでの恋愛表現に憬れやトキメキを感じても、自分の感情の中にそれを見出すことがどうにもできずにいます。恋愛描写も不得手、現実でも色恋は万年落第生。
そんな自分が恋する咲希の感情を上手く表現できているのか、正直不安です。