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社畜から卒業したんだから異世界で自由を謳歌します  作者: 灰谷 An
第3章・残念なドラゴンニュートの女の子
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095:伝えるべき言葉

 クロスロード連盟軍の本部は、むさ苦しい男が多く仕事に追われていて、あまり可愛くない女兵士でも可愛く見えてくる。

 そんな汗まみれな本部の中で、最も豪華絢爛な家具が置かれている部屋がある。

 それは このクロスロード連盟軍の本部において最高地位に存在する元帥の部屋だ。



「ここ最近は、凶悪犯の動きが活発だな………」



 元帥は部下からの報告書に目を通しているが、ここ最近になって各地で凶悪犯の急増に嘆いていた。

 今年70歳とは思えないくらいにビンッと伸びた毛に、若い時は絶対にヤクザ面だろうと分かる目元をしている。

 そんな元帥は近くに置いてあったビタミン剤の瓶を開けると、適当に掌に出すとパッと口の中に入れて水で流し込む。



「うーっ。酒を辞めなきゃダメか?」



 どうやら元帥は酒の飲み過ぎが祟って、このようなビタミン剤などで栄養を補ってるみたいだ。

 それくらいに元帥の職は大変なんだろうと分かったところで、元帥の部屋がノックされて中に通す。



「失礼いたします」


「おぉ良くぞ来てくれた、ユウトよ」



 元帥の部屋に呼ばれたのは、ルイちゃんの父親だった。

 意外にもスラッとした体型に、顔には無数の切り傷の痕がついており立派な翼に尻尾が生えている。

 目元がキリッとしているところとか、ルイちゃんの面影があり父親なんだという事が分かる。

 そんなユウトが来たところで、元帥は立ち上がって大笑いしながらユウトを大歓迎している。



「ユウトよ。最近、お主が活躍しているのを良く耳にするぞ」


「それは光栄な事でござる。トラスト中将の下で、軍人のイロハを学んで成長したでござる」


「うんうん、そうかそうか」



 やはりルイちゃんの父親なだけはあって、語尾は侍のござる語で少し笑えてくる。

 そしてユウトはトラスト中将の下で働きながら、軍人としての基礎を叩き込まれたみたいだ。



「お主が中将に昇進してから、随分になるが役職には慣れたのかな?」


「はい。恥ずかしながら部下を持って、それなりの緊張感で仕事をさせてもらっているでござる」


「そうかそうか。そんなユウト中将に、新しい指令を出したいと思っている」



 ユウトはクロスロード連盟軍の本部で中将に昇進していて、かなり有望株として出世街道を歩んでいた。

 そんなユウト中将に、元帥はある指令を出すという。



「指令ですか? 元帥直接の指令とはですらしいでござるな」


「まぁこれは大将を通しても良いが………これは俺からの頼みでもあるからな」


「それなら了解したでござる。何なりと言ってください」


「そうか。さすがは有望株だな………今回の指令は、フロマージュ王国に行って共和傭兵団の拿捕してくるんだ」



 ユウト中将への指令とは、フロマージュ王国に行ってオリヴァーたちを拿捕する事だった。



「ん? オリヴァーたちの拿捕は、トラスト中将たちが向かったのではござらぬか?」


「確かにそうだが、信頼できる筋からISOも拿捕に向かったと情報が入った。サイファーオールよりも先に、オリヴァーを拿捕したい………そこで君を派遣したいというわけだ」


「そういう事でござるか。そういう事なら、拙者がトラスト中将殿への援軍として向かいましょう」



 クロスロード連盟軍の元帥としては、サイファーオールよりも先に身柄を抑えたいと思っているみたいだ。

 その理由を知って、確かにサイファーオールよりも先に手柄を上げたいと、ユウト中将も納得して援軍に向かう事を決めた。




* * *




 これは夢なんだろうと直ぐに分かる。なんせ俺が前世の子供の頃の体になっているからだ。

 それでも良いと思ってしまう。

 子供の頃は嫌な思い出が多い。まぁ大人になってからも良い思い出なんて存在していないが。



「ゆうちゃん!! 早く家に帰って、ご飯食べよぉ〜」



 俺が子供の頃から何度も聞きたかった言葉を、この夢の中だけでは何度だって母さんが呼んでくれる。

 そんな幸せな時が多く流れれば良いと思っている。そんな自分が嫌いになれない。

 どれだけの時が流れたかは分からないが、母さんの事が頭の中から抜けた時があった。



「宮島さん。そろそろ私たち………」


「そうだね……」



 前世で彼女ができた事は無い。

 それでも社会人になって、同僚の女の子と何回かのデートを重ね良い感じの雰囲気になった時がある。顔は美人というわけではなく地味目な子だったが、愛嬌があり素敵な子だった。

 幸せな時間というのはあっという間に終わるのが世の常で、その言葉の通りに俺と彼女の幸せな時間は終わりを告げる。



「あれ? 美代子ちゃんは?」


「佐伯さん? そういえば、休むっていう連絡も来ていないなぁ………」



 俺が会社に出社したところ彼女の姿は無かった。別に無断欠勤するような子でも無かったので、倒れているのでは無いかと不安になって上司に許可を貰い家に向かった。

 ピンポーンッと鳴らしても中からの反応がなく、心配になってドアノブを下げてみると、ガチャッと鍵が開いている音がした。



「ん? 鍵が開いてるな。不用心じゃん………美代子ちゃん? 中に入るよぉ」



 部屋は良くあるワンルームの家で、家の扉を開けると直ぐにワンルームの部屋の扉が見える作りだ。その部屋の扉はすりガラスになっていて人影がうっすらと見える。

 そして靴を脱いで家の中に1歩踏み入れたところで、うっと鼻を押さえなくなる腐敗の匂いがしてきた。



「うっ!! こ この匂いは何だろう………」



 この腐敗臭を嗅いだ瞬間に冷や汗がダラダラと出始める。

 頭の中で最悪な事態を考えているが、そんな事を考えたくないので違う違う違うと頭の中でひたすらに唱え続ける。

 そんな事を考えながら扉をドンッと押して開けると、目の前に涙を流しながら苦しそうな顔をしている彼女がいた。彼女の下は糞尿や血液で見るに耐えない状態になっていた。

 そんな光景を見た瞬間に俺は、驚いて後ろに数歩下がった時にダンボール箱に足が引っかかって尻もち着いた。何秒固まっていたのだろうと思うくらい呆然としていた。



「あっけ 警察に伝えなきゃ………」



 ハッと直ぐに震える手でポケットから携帯を取り出し警察に連絡した。その時の事は覚えていないが、きっと支離滅裂な言葉を言っていて警察も困惑していただろう。

 それなら俺は警察が来るまで、玄関で縮こまってプルプルとチワワのように震えていた。そんな俺を警察が発見したのは、俺が通報してから5分後くらいだったと思う。



「貴方が通報してくれた人ですね?」


「はい……会社の同僚です」


「そうですか。それでは中を拝見させてもらいます………これは状況から見て自殺か?」



 警察は俺を部屋の外に出すと、混乱しているのを分かっているので落ち着いた口調で話を聞いてきた。

 それに応えながら俺は部屋の中から聞こえてくる声に耳を立てていると、やっぱり自殺だろうと予想通りの話し声がした。

 しかし彼女が自殺する理由なんて、俺には理解できずに何が理由なんだと、ただただ何かできたのではないかという罪悪感のみが俺の心と体を蝕んでいた。

 それからだった。彼女が自殺した理由が、友達に断りきれず連れて行かれた合コンで、男たちに酔わされた後に裸の動画をネットに晒された事が理由だと………。

ご愛読ありがとうございます!!

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