093:どこまでも
ツァリーヌ王国の港に大きな船が近寄ってくる。
その船にはローブを着て、悪の魔術師の様にフードを被って顔を隠している集団だ。
この人相には見覚えがある気がした。
そうだ、この集団は世界に敵対されている銀翼の夜明け団で間違いは無さそうだ。
「直ぐに準備しろ。グランドマスターからのお達しだ………この国の聖剣を全て、我々がちょうだいするんだからな」
「グルオン様っ!! 大幹部さまからの電話がかかってきましたが、折り返しにいたしましょうか………」
「ふざけてるのか? 大幹部の電話を無視するなんて、俺に死ねって言ってるのと同じ事だぞ」
この船には銀翼の夜明け団・幹部の《グルオン》が乗って指揮をとっているらしい。
大幹部からの電話だと言われた瞬間に、出なければ殺されてもおかしく無いと走って電話のところに行くのである。
「もしもし。こちら《ラヴィヤ号》のグルオンです………」
『妾じゃ。誰か、分かるか?』
「もちろんでございます!! あなた様は銀翼の夜明け団・大幹部様です!!」
『ちゃんと分かってるじゃ無いの』
電話口から聞こえてきたのは、とても甘美で甘い香りがしてきそうな貴婦人の声だった。
その声の正体は銀翼の夜明け団・大幹部である《色欲》である。
あまりにも色っぽいで、その声と姿を見た人間は一瞬にして惚れさせてしまうらしい。
その為に直属の部下であるグルオンでも、ラストに会うのは数少ない機会だ。
「それでご用件というのは、どの様なモノなのでしょうか?」
『お主ら、ツァリーヌ王国に向かっているのじゃろ?』
「はい。もう少しで港に到着いたします」
『ラースの馬鹿が、聖剣を回収しきれなかったってグランドマスターが言っていたんじゃよ』
「ラース様がですか!? まさかラース様が、聖剣を回収し切れないなんて………」
ラストの口から俺と戦闘を行ったラースが、俺の持っていた聖剣を回収できなかったと伝えられる。
ラースといえば銀翼の夜明け団の中でも、相当な実力を持っている人間で、グルオンは驚いて大きな声を出した。
「まさか その聖剣を私たちに回収しろと………そういう事なのでしょうか?」
『誰もそんな事は言っておらんじゃろが………妾から伝えたいのは、我々が成果を上げるチャンスが訪れたってわけじゃ』
「そ そういう事ですか………」
ラースが失敗したという事は、ラースの評価はグランドマスターから大きく下がっていると予想している。
ならば自分たちがグランドマスターの評価を上げるチャンスだと、ラストの声のトーンが数段上がる。
『できる限りの古代の遺物を回収するんじゃ』
「了解いたしました」
『それと共和傭兵団のオリヴァーの身柄を押さえるんじゃ。そいつには大きな貸しがあるからのぉ』
「2つ合わせて了解しました………それでは詳しくは、後の報告にさせていただきます」
どうやら銀翼の夜明け団は、古代の遺物を集めるのを主としているらしい。
ビクビクしていたグルオンだったが、ラストとの電話を切った瞬間に深く溜息を吐くのである。
「グルオン様? 何か無理難題でも言われたんですか?」
「ん? いや、そういうわけじゃない………ラスト様の色っぽい声に、少しムラッと来ちゃってな」
「グルオン様は、ラスト様に会った事があるんですか?」
「当たり前だろ。あの人の顔は、まさしく世界で1番美しいと言ってもおかしくは無いよ………あの人に落とせない男は、この世にはいないってくらいにな」
「そんなにですか………」
生で見た事があるグルオンからしたら、ラストの容姿は世界で1番美しいのだと溜息が出るくらいらしい。
そんなに美しいのならば俺もあってみたいところだが、銀翼の夜明け団で命を狙ってくるだろう。
それもまぁシリアスな女としてみれば、それなりに良い女だとは思えるだろうか。
「ゴホンッ。とにかく、この国にあるオーパーツを全て回収してラスト様に献上する………そうすれば褒めて下さるだろう」
「そうですね。了解いたしました………」
グルオンは咳き込んでから真剣な話に戻る。
このツァリーヌ王国に存在するオーパーツを、全て回収しラストに献上すると指示をした。
* * *
俺はオリヴァーに完膚なきまでにやられた。
腹部に致命傷になってもおかしくない傷を負って、気を失っている俺に変わってエッタさんたちが治療の手段を考える。
「どうしましょう!! この村の人は、もう居ないし………別の村に行くにも時間がかかる!!」
「落ち着いて。混乱したままだったら、正常な判断なんてできずに失敗する………」
「そ そうね……落ち着きましょう。とりあえずは、私のオリジナルスキルで傷の修復を試みましょう!!」
アタフタしているエッタさんを、イローナちゃんが落ち着かせて失敗しないように考えようという。
そこでエッタさんのオリジナルスキル『聖なる太陽』を使って治療する事にした。
このホーリー・サンには自動防御の他に、回復などの能力を持っていて、これならばとエッタさんは使用する。
しかし俺の傷口は塞ぐどころか、ドバッと血が吹き出してエッタさんのオリジナルスキルが効果なかった。
「うぅ……どうしたら良いのよ」
「まだ泣いちゃダメ。とにかく血を止めないと、このままじゃ手遅れになる………」
自分の無力さで涙が溢れてきたエッタさんは、もう既に乱心状態となっていて落ち着きがない。
イローナちゃんはエッタさんの肩を強く掴んで、泣いていないで血を止める手段を考えるように落ち着かせる。
そんな風に宿屋の中は大混乱になっていると、外から数人の男女の話し声が聞こえてきた。
「ここは私が行く。エッタさんは、ミナトの血を止める方法を考えてて………」
「わ 分かったわ」
イローナちゃんが混乱しているエッタさんに変わって、外の様子を見に行く事にした。
扉にピタッと体をつけて外の様子を確認しながら、扉を少し開けて外を見てみると男女のグループがいた。
見るからに冒険者なのだと分かるが、もしもの事がある為にイローナちゃんは、堂々と男女のグループの前に立った。
「貴方たちは? どうして、ここにいるの?」
「ん? 俺たちは冒険者だぞ? お嬢ちゃんに聞きたいんだが、この村は誰も住んでいないのか?」
「さっきから誰の姿も見ていないんです」
赤髪のチャラそうな男が、イローナちゃんに聞いた。
本当に冒険者なんだろうと判断した、イローナちゃんは冒険者たちに事の成り行きを話す。
「なんだって!? それ本当かよ!!」
「本当なら大変じゃないですか!! それなら、うちのファミリーにも手を貸させていただけませんか?」
「本当に? 貴方がたは信用できるの?」
全てを知った冒険者たちは、こんなところで話している場合じゃないだろうと親身になってくれている。
イローナちゃんも、ここまでが演技だとすれば頑張っても見抜けないと覚悟を決める。
話を聞いた時に後ろの方にいた、白い修道衣を着た胸のデカい女性が自分に任せて欲しいと言った。
信用できるかは、いまいち分からないみたいだが、ここで手遅れになったら後悔すると思って俺のところに案内する。
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