070:あの日の記憶
俺たちは遅めの昼食を取る為に、近くにある料理屋に入って奥の席に座った。
ここは冒険者が御用達らしく、イカつい男たちが多くいて俺の事を睨みまくっている。
美人を多く連れている俺を妬んでの視線だろうが、俺は胸を張って男たちを無視する。
「さてと商人に会う前に、下拵えをしてから勝負と行きますかねぇ」
「勝負でござるか?」
「それくらいの気持ちで、この古い剣を高く売るって事さ」
「それくらいの価値はあると思う………」
「イローナちゃんがいうと、結構な説得力あるだろ?」
俺はハイウルフの巣穴から手に入れた、古びた剣を高く売る為に勝負だと思っている。
その裏付けとして銀翼の夜明け団が、この剣を奪いに来たから相当なものだろうと考えた。
高い金額で売り飛ばす事ができれば、これからの旅での資金が増える事になるので、とても優雅な旅となるだろう。
「まぁ金の話は、それくらいにして………この国の後は、どこの国に行った方が良いんだ?」
「ツァリーヌ王国の後なら、隣のフロマージュ王国で良いんじゃないかと思うわん」
「フロマージュ王国だって? 確かにアランの故郷だったか………アイツにも過去があったからなぁ」
俺は次の目的地について意見を求めると、ツァリーヌ王国の隣にあるフロマージュ王国が良いのではと聞いた。
その国の名前を聞いて思い出すのは、俺が初めて倒した十二聖王のアランの事だった。
アランの故郷であり、アランからしたら辛い過去のある国とも言える場所だ。
「彼の記憶が、頭の中に流れて来たんですよね?」
「あぁそうだよ。彼の記憶が、俺の頭の中に流れて来た………その記憶ってのは辛いものだったよ」
「そんなにでしたか………」
「それにしても、彼の記憶の中で《エデン人》というのが出てきたんだ………アランもエデン人というらしく、その人たちは集落から迫害を受けていたんだよ」
アランの記憶の中に度々として出て来ていた《エデン人》という言葉が、俺の中で引っかかっており何なんだろうか。
エッタさんたちもピンッと来ていない様子で、皆んなもウーンッと考えている時にイローナちゃんが話す。
「エデン人っていうのは、銀翼の夜明け団を作った人種の事を、そう呼んでいるみたい………」
「銀翼の夜明け団を作っただって?」
「そう。その昔にエデン人の祖が、黒魔術の研究の為に作ったとされる組織が、あの銀翼の夜明け団………そして銀翼の夜明け団に入れる人は、エデン人だけみたい」
「い イローナちゃん……詳しいね」
イローナちゃんの話の真偽は分からないが、そのイローナちゃんの口から発せられた内容は驚きを隠せない。
その為に俺たちのテーブルは、さっきまでワイワイとしていたが一瞬にして静まり返ってしまった。
そんな俺たちのテーブルに、ローブのフードで顔を隠した人間が近寄って来て声をかけて来た。
「あの……Sランク冒険者の《ミナト=カインザール》さんで、間違いないでしょうか?」
「Sランク? いや、俺はA……あれ? 前のでランクが上がったんだっけか。俺がミナトだけど?」
「そうですか。それなら良かったです………あの話があるのですが、よろしいでしょうか?」
俺たちに話しかけて来た奴は、俺が冒険者である事と名前を知っており、何やら話があるからと言って来た。
この空気を変えられるのならば何で良いと、椅子を用意して座らせると話を聞くのである。
「それで貴方は誰なんだ? それに俺の事をなんで知ってる?」
「自分は《アードルフ=アインバールズ》と申します」
「アインバールズって聞いた事があるなぁ………」
「ミナト様っ!! アインバールズ家は、前国王の苗字と同じですよ!!」
俺のところに相談して来たのは《アードルフ=アインバールズ》という男だった。
このアードルフの苗字は、ツァリーヌ王国の前国王と同じ苗字だとエッタさんが教えてくれた。
「前国王と同じ苗字って事は、前国王とは親戚関係という事で間違いは無いか?」
「いえ、親戚ではありません。前国王の《マリアン=アインバールズ》は、私の父親です」
「息子だって!?」
「その通りです。そしてマリアンの血族で、唯一の生き残りは自分だけです………」
このアードルフは前国王の息子で、前国王の血族としては唯一の生き残りだと説明を受けた。
「それで、そんな生き残りのアードルフさんが、どうして俺のところに来たんだ?」
「ミナトさんに、助けていただきたい事がありまして………」
「その内容というのは何なんだ? 前国王の生き残りが来たって事は、相当な事なんだろうな」
「その通りです。この国を揺るがす様な重要な事です」
アードルフが俺に頼みに来たというのは、まだ内容は聞いていないが重要な事だろうと察せられる。
「私の父は、現女王の《イチカリーナ=エスカトリーナ=アレクサンダール》によって不当に殺されました」
「不当に殺された………確かに反乱を起こして暗殺されたと聞いたが、この乱世の世の中では仕方ないといえば仕方ない」
「そういうだけじゃ無いんです。単刀直入にいえば、現女王のエスカトリーナは存在しません」
「何だって? エスカトリーナ女王が存在しない?」
アードルフは現女王であるエスカトリーナは、この世に存在しないのだと言って来たのである。
俺たちは何を言っているのかと理解できずに、何を言っているのかという顔でアードルフを見つめる。
「まぁ詳しい話をしないと、この話は見えて来ませんよね」
「あ あぁ女王が存在しないなんて理解できない………」
俺たちが理解できていないのを見て、アードルフは詳しい話をすると言って過去に話を遡る。
* * *
時間は遡ってマリアン国王がエスカトリーナ女王に殺された、約16年前の夜に戻る。
この日の夜は静かな夜で、8歳だったアードルフも自室で睡眠をとっていると外が騒がしい事に気がつく。
「こんな夜中に、何を騒いでるんだろう………」
アードルフは部屋の扉から顔を少し出すと、何やら見た事も無い人たちが剣で城内の人たちを殺して回っていた。
「ど どうなってるの!? どうして人が死んでるの………」
急いで顔を部屋の中に戻すと、何が起きているのかと困惑していると、アードルフの部屋にも人が入ってくる。
アードルフは咄嗟に部屋の中の隠し部屋に隠れる事で、この城内での反乱に巻き込まれずに済んだ。
何が起きたのかと困惑しているアードルフは、状況を知る為に隠し部屋から顔を出してみる。
「何かのマーク?」
アードルフの目に入って来たのは、城内で反乱を起こしている人間たちの背中にあるマークが入っていた。
そのマークとは人と人が握手をしている様な手のマークで、この時には何かは理解できなかった。
しかし何とか命懸けでアードルフは、城の中から脱出で今日まで生き残ったという。
* * *
俺たちは反乱が起きた日の出来事を聞いて、当事者からの生々しい話に何も言えずに黙っている。
「そして、そのマークは………共和傭兵団のマークでした」
「な 何だって………」
後に知ったマークの正体とは、現在世界中に散布している共和傭兵団のマークだった。
その事実にも俺は驚愕の色を隠せずに、そんな事があるのかと闇の深さに言葉もない。
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