061:ござる語のドラゴンニュート
俺たちは新たな国である《ツァリーヌ王国》を目指している最中に、何かに巻き込まれた馬車を発見する。
エッタさんたちを危険に晒すわけにもいかず、俺が馬車を確認すると屋根の上から刃物の様なモノで脅されてしまう。
「これは、お前が1人でやったのか?」
「そうでござる」
「お前は山賊なのか? それと、そのござるってのは何なんだ」
「山賊では無いでござる。このござるってのは、侍に憧れているからでござる!!」
そういう事ね。
今の問答で分かった事は声からして女の子である。
そして変な子であるのは確実だが、これだけの男を皆殺しにできるのは、ただの可愛い女の子ってわけじゃ無いだろう。
「どうして、この男たちを殺したんだ? あと悲鳴を上げたであろう女の子たちが見当たらないが?」
「この男たちは人攫いでござる。だから、拙者の刀の錆になって貰ったでござる………それと女子たちならば、既に解放して故郷に帰したでござる」
「そうか。それなら良いが………そろそろ刀を下げてもらっても大丈夫だろうか?」
「それは失敬した」
この男たちは旅人を装った人攫いらしく、さっきの悲鳴を上げていたのは攫われた女の子らしい。
それならば、この女の子は別に山賊でも悪い奴でも無さそうなので、こちらから刀を下げてもらう事を頼んだ。
するとスッと刀が下ろされて、鞘に収める音が聞こえて少しは安心して振り返り驚く。
「ど ドラゴンニュートっ!?」
「そうでござる。拙者は、ドラゴンニュートの《ルイ=サザンザール》でござる!!」
「さが多いな……」
振り返ると目の前には袴を履いて、腰には刀を収めている黒髪ロングの美人、頭には角と背中に翼を生やしたドラゴンニュートの女の子だった。
ドラゴンニュートは平たく言えば、まぁ龍人族ではあるが普通の獣人族とはレベルが違う。
それは魔法やらスキルの話だと思っていたが、まさか顔までレベルが飛び抜けているなんて驚きで言葉にならない。
しかしドラゴンニュートの女の子が、どうして侍に憧れてござるなんて言っているのだろうか。
「お主たちは、悪い奴らでは無さそうだな?」
「多分だけど悪い奴では無いよ。一応は、冒険者はやっているけどね………」
「何と!? その若さで冒険者をやっているでござるか!!」
「まぁ……はい」
普通のテンションで喋りかけているが、このルイちゃんは常にテンションが高く周りを困らせるタイプの女の子だろう。
しかし俺からすれば話は別だ。
こんな可愛い子に困らせるのならば、どれだけ困らされても引き受けてやっても良いくらい。
そんな事を考えていると、心配になったエッタさんが呼びに来てくれてドラゴンニュートのルイちゃんと出会う。
「ドラゴンニュートですか!? どうして、こんなところにいるんです………そ それよりも馬車の運転手さんが、このままではツァリーヌ王国に入るのが夜中になると」
「そうか。それなら急いだ方が良いな………それじゃあ、俺たちは先に進むんで」
「お主たちは、ツァリーヌ王国に行くでござるか? それなら拙者も連れてってもらえないだろうか?」
ルイちゃんを見たエッタさんは驚いたが、馬車の運転手さんが急いで欲しいと言っていた事を俺に伝えた。
それならばとルイちゃんに別れを言って馬車に向かおうとした時に、ルイちゃんは自分も《ツァリーヌ王国》に行くから乗せていって欲しいと頼んだ。
「えっ? まぁ……どうだろうか?」
「人数で料金は変わらないので、ミナト様が良ければ良いんじゃ無いですか?」
「じゃあ、一緒にツァリーヌ王国に行く?」
「かたじけない!! この恩は一生忘れないでござる」
俺だけでは決められないので、ミナトファミリーのブレーンであるエッタさんに意見を求める。
料金としては人数が増えても変わらないからと、ルイちゃんの同行を許可してくれた。
ルイちゃんは侍の様に頭を下げて礼儀正しさを見せるが、確実に変わった子ではあると思う。
「ドラゴンニュートかわん!?」
「なんで、ドラゴンニュートがにゃ………」
「私も初めて見ました………」
「まぁ色々あったもんで」
ルイちゃんを馬車に案内すると、カエデちゃんたちが本物のドラゴンニュートを見て驚きを隠せずにいる。
そんな中でルイちゃんは、馬車の中で正座して頭を下げながら自己紹介をするのである。
「拙者は、ドラゴンニュート族の《ルイ=サザンザール》と申します………少しの間、やっかいになります!!」
「ご 語尾が変わってるわん!!」
「それはカエデちゃんたちは言えないと思うけど………」
3人とも変わってはいるが、悪い人では無さそうだと思ってルイちゃんを受け入れてくれた。
自己紹介も終わったところで、俺はルイちゃんに至極当然な質問を投げかける。
「ルイちゃんは、どうして侍語なの?」
「拙者の父上が、若い時に侍から剣術を習ったらしく、幼い時から拙者も刀での剣術を習っていたからでござる」
「そういう事だったのか……それで腰につけてる刀は、相当なモノじゃない?」
「お目が高いでござるな!! そう……この刀は最上作《妖刀:国慶ノ綱》でござる!!」
ルイちゃんは父親の影響で、このござる言葉になったらしく、腰にある刀も相当なモノだった。
「妖刀って、あの呪われてるっていう奴っ!? そんなのを持ってて大丈夫なのか?」
「この刀は、人の魔力を異様に吸い取る呪いがかかっているんでござる。しかし我々ドラゴンニュートは、他の種族よりも遥かに魔力量が多いんでござる!!」
「そういう事か。つまりはルイちゃんに、うってつけの刀だって事なんだろうな」
ルイちゃんの持っている妖刀は、人の魔力を吸い取ってしまうらしく普通の人間は使えないらしい。
しかしドラゴンニュートは、色々な種族の中で遥かに魔力量が多く向いていると言える。
「それに拙者のオリジナルスキル《補充》のおかげで魔力の心配もないでござる!!」
「そんなにうってつけの人もいないだろうなぁ………」
なんとルイちゃんにはオリジナルスキルがあり、そのスキルの効果は失った魔力量を直ぐに補充するというモノらしい。
その為に魔力量の心配はないが、オリジナルスキルを使用時には体力をたくさん使うみたいだ。
「それで、これからツァリーヌ王国に行って何をするんだ?」
「それなら拙者は、侍になる為に出て行った父上を探して冒険してるでござる!! 何処にいるかも分からない為に、世界各地を回る予定でござる!!」
「そういう冒険をしてるんだ。ルイちゃんも侍になりたいって思ってるの?」
「なりたいでござる!! 侍っていうのは、とてもかっこいいもので武士道というのは尊敬できるでござる!!」
ルイちゃんは父親を探して冒険しているらしく、見つけるまでは世界を回るつもりなんだと話した。
そしてルイちゃんも父親の様に、そして日ノ国の侍たちの様に武士道を極めたいと話してくれる。
俺の前世は日本人であり、武道を行なっていた人間として、武士道を尊んでくれる事は嬉しい事だ。
「俺たちも世界を回るつもりなんだ。君も父親が見つかるまで、一緒に冒険しないかい?」
「ミナト様!?」
「いつもの事だわん」
「良いのでござるか!! 1人旅というのは、中々に寂しいものがあるでござる!!」
俺がルイちゃんに旅を一緒にしないかと聞いたところ、新しい女子が増えるのかとエッタさんは驚いて俺の方を見る。
それに対してルイちゃんは寂しかったから良かったと言って、俺たちの旅に同行する事が決まった。
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