058:失い得たモノ
エルマーとの戦闘を終えた俺は、カエデちゃんたちがいると言う場所に足を運んだ。
しかし居たのはシュナちゃんだけで、その周りにもカエデちゃんの姿が見えないのである。
「シュナちゃん。カエデちゃんは、どこにいるの?」
「カエデなら1人になりたいって言ってたにゃ………多分だけど首都を見下ろせる場所に居ると思うにゃ」
「そうか………分かった。ありがとう」
シュナちゃんに居場所を聞くと、1人になって心の中を整理したいと言ったらしい。
そしてカエデちゃんが小さい時から、落ち込んだり怒られたりしたら行く場所があったらしく、そこは村全体を見渡せる場所なんだと聞いた。
それならばと俺はシュナちゃんに礼を言ってから、その街の全体が見れる場所に向かう。
今の俺が何を言えるのかは分からないが、俺も大好きだった母親を目の前で殺されている。
ならば少しでもカエデちゃんの為に寄り添えて、ちゃんと立ち上がる手伝いをしてやりたいと思っている。
「やっぱり、ここに居たんだね……さすがは幼馴染の勘って奴だよね」
「ミナトさん……私、お父さんと お母さんを助けられなかったわん」
「うん……」
「シュナちゃんや、イローナちゃんと違って………私には人を助ける力は無かったみたいわん」
元気の無いカエデちゃんの口から、自分の無力さを痛感したと震えながらに聞いた。
それに俺は何かを言うのではなく、ただただ頷いてカエデちゃんの心の中の声を聞こうとした。
「私に力があったら、もっと人を守れるだけの力があったら………どれだけ後悔しても、もう取り戻せないんだわん」
「確かに失ってしまった命を、また取り戻す事なんて神ですらも不可能な事だ………それに今直ぐに立ち直れなんて言わない」
「………?」
「俺も母親を殺されるのを目の前で見ていたんだ………恐怖心に負けて助けられなかった自分の無力さに、とことん打ちのめされて立ち上がれないと思った」
俺は涙を流し震えながら自分の無力さを伝えてくるカエデちゃんに、俺が前世で起こった話を静かに話した。
俺の話をカエデちゃんは、唖然としながらも固唾を飲んで最後まで話を聞くのである。
「だけど、俺は自分と同じ人を出したく無いと思って立ち上がろうと思ったんだ………今になれば、母さんは落ち込んでる俺を見たく無いと思ってるって考えたんだよ」
「ミナトさんも、お母さんを亡くしているのかわん………」
「そうなんだよ。カエデちゃんの両親だって、今のカエデちゃんを見れば悲しむのは確かだ………でも、今直ぐに割り切れなんて出来るはずが無いんだよ」
俺が前世の時には割り切る事なんて出来なかったが、こっちの世界に来て多くの愛情を感じられた。
そのおかげで俺は前世での出来事を割り切る事ができ、この世界では自由に生きるのと、多くの人を救えるだけの人になりたいと思えるようになった。
まだ気持ちの整理が出来るわけもなく、それに忘れる必要もないと言うのも事実だ。
「その気持ちを忘れる必要もない。その気持ちこそが、カエデちゃんを成長させるんだ………ご両親としては無念だろうけど、これが最後の教育なんだと思うよ」
「ミナトさん。慰めてくれてありがとうわん………この世界で私だけじゃないんだって気持ちになって楽になったわん………でも胸を少しだけ貸してもらえないかわん?」
「あぁ俺の胸で良いんだったら、いくらでもいつでも返してあげるさ………」
「う…うわぁあああああん!!!!!」
カエデちゃんは吹っ切れたわけじゃない。
慰めた俺に心配してほしく無いからというカエデちゃんの優しさだろう。
しかし俺の胸で泣く女の子は、立ち直る為に感情を爆発させて居るのだろうなと俺は勝手に思った。
「うん。少し吹っ切れたわん………ミナトさん、気を遣ってくれてありがとうわん」
「良いんだよ。カエデちゃんは、ミナトファミリーの大事な大切な一員なんだからね………よし、シュナちゃんたちのところに戻ろうか」
「はいわん!!」
泣き止んだカエデちゃんの顔は、笑っていたが目の周りが赤くなっているのが、現在の気持ちを全て物語っている。
そんなカエデちゃんを俺は、早くシュナちゃんのところに連れて行ってあげたいと思った。
「カエデっ!! ずっとずっと心配してたにゃ!!」
「シュナちゃん……うぅ。ありがとう………ありがとうわん」
「私は、これからも親友で隣にいるからねにゃ!!」
この2人の友情というのは、何があっても壊れる事は無いのだろうと信じられるモノだ。
そんな風に思っているとエッタさんも合流してあり、俺の肩にソッと頭を乗せて優しい目で、2人を見ているのである。
少し落ち着いたところで、俺が考えていた事をカエデちゃんに提案する。
「俺からカエデちゃんに提案なんだけど、ちょっと良いかな?」
「はい!! なんでしょうかわん?」
「あのエルマーに依頼して、獣人たちを国から排除しようとしたのは現国王がやった政策のせいだ………ならば、悪の根源を絶たなければ、また同じ事が起きると思うんだよ」
「つまり……暗殺をしようという事ですかわん?」
そう俺が提案したのは、現国王の暗殺である。
現国王が崩御しなければ、この国は変わらずに獣人たちを差別や虐殺するだろうと容易に考えられるからだ。
俺からの暗殺の提案に、カエデちゃんは下を見つめながら考えている為、俺は断るだろうなと思っていた。
しかしすうびょう数秒考えた後に、グッと拳を強く握るとバッと顔を上げて俺に言った。
「暗殺しますわん!! こんな思いを他の人たちにもして欲しくないんだわん………負の連鎖を、ここで止めるわん!!」
「そ そうか!! それなら俺も手伝うからやろう!!」
「ミナト様、暗殺と言ってもルクマリネ王国は世界連盟に加盟しているんですよ? 普通にやってしまっては指名手配されてしまいます………どうするんですか?」
「ふっふっふっ。俺が、それを考えていないと思ったかい? その問題は、この仮面で解決するんだよ!!」
カエデちゃんは自分の様な人たちを増やしたく無いからと、国王暗殺の提案に乗ってくれた。
それに少し驚いたが、俺も全力で王様暗殺に手を貸してあげるとカエデちゃんと握手をする。
しかしエッタさんは暗殺するにしても、ルクマリネ王国は世界連盟に加盟している国で、そんなところで暗殺なんてすれば世界から指名手配されて追われてしまうという。
そんな心配を吹き飛ばす様な考えを俺は持っており、懐から俺は狐の仮面を出した。
「んー、顔を隠すのは良いんですけど………もうちょっと良い考えはありませんか?」
「これならバッチリだ!! 顔さえバレてなきゃ、なんとか言い逃れはできるからな!!」
「不安ではありますけど………まぁミナト様なら何とかなるでしょうね」
俺の自信満々な姿を見て、エッタさんも止められないと悟ったのか、応援する側に回ってくれたのである。
本当にミナトファミリーは、温かい子たちが多くて前世とは天と地の差を感じられる。
そんな事を思いながら俺とカエデちゃんは、ルクマリネ国王の暗殺に城へ足を運ぶ。
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