052:絶望の足音
カエデちゃんたちが3人で中に入るかを話し合っていると、さっきまで爆発音が聞こえていたが、スッと嫌な静けさになる。
「あの爆発音は何だったんだろうわん………」
「分からないけど、何か嫌な予感がするにゃ………」
「それは俺だが? このバラドンカンパニーに、何か用があるのかな………お嬢ちゃんたち」
カエデちゃんたちは隠れていたはずなのに、不気味な笑顔でエルマーが覗き込んでいた。
3人は焦って後ろに飛んで距離を取るが、目の前にいる男がバラドンカンパニーの社長で、戦争仕掛け人のエルマーだとオーラを見て直ぐに理解する。
「君たちも、あの男の仲間なんだろう? さっき俺との勝負に負けてエルフの嬢ちゃんと逃げて行ったよ」
「ミナトさんが負けたのかわん………」
「そういう嘘かもしれないにゃ………」
「嘘だと思うかい? そんな嘘をついて俺に何のメリットがあるってんだ………君たちの要件は分かっている。獣人の奴隷を解放して欲しいんだろ?」
エルマーは俺を倒したんだと、カエデちゃんたちに話したところ信用しないと言われたが、嘘を言うメリットが無いと返されて本当に負けたのだと3人は察した。
そしてエルマーは俺から話を聞いている為に、カエデちゃんたちが何で本社の前にいるかは分かっている。
「あのガキにも言ったが、獣人を助けたいなら獣人1人につき大金貨1000枚を出してもらう」
「そんな大金持ってるわけないわん!!」
「それじゃあ、君たちの仲間は助けられないねぇ。この世は所詮は金なんだ………金を持ってねぇなら助けられる命も、君たちじゃあ助けられない」
「誰が、そんな事を決めたのにゃ」
「そんなの世界の摂理だ。そして俺は、国家以上の金を持っている………つまりは、俺は世界の神に等しい存在ってわけだ」
エルマーは金が支配するのは世界の摂理で、エルマーマネーと言われるくらいの金を持っている。
その為、自分は世界の神に等しいと、カエデちゃんたちの前で両手を広げて大笑いする。
「アンタが神だろうが関係ないわん!! 絶対にお父さんと、お母さんを助けますわん!!」
「そうか。君の御両親だったのか………それはそれは君たちも、あの男のように無惨に散るんだな!!」
「カエデ、離れてにゃっ!!」
・氷魔法Level2《アイスフィールド》
「氷魔法かっ!! 洒落臭いマネをしやがって!!」
エルマーがカエデちゃんに襲おうとした瞬間に、シュナちゃんが氷魔法を使って2人の間に氷で攻撃を止める。
その氷をエルマーは爆発で壊すと、面倒になりそうな遠距離のシュナちゃんに狙いを定めた。
「まずは遠距離系からってのは鉄則だよなっ!!」
・オリジナルスキル『爆発人間』
・高速移動魔法Level4
――――突進爆破――――
「習慣は移り変わる………」
・雷魔法Level3《龍神の髭》
「雷魔法だと!? ちっ。稀な魔法を使いやがるな………氷魔法よりも厄介だぞ」
爆発人間の能力を使って、後衛のシュナちゃんから倒してやろうと襲いかかるのである。
そんな事をされたら前衛のみが残されてしまうと、イローナちゃんが割って入ると雷魔法でエルマーの動きを止めた。
雷魔法なんて珍しい魔法を使うもんで、エルマーは面倒な魔法を使いやがると冷や汗を少し垂らす。
「雷魔法を使う人間のガキに、氷魔法を使う獣人のガキ、そして完璧な前衛の獣人のガキ………意外にもバランスが良いのか?」
カエデちゃんたちのスリーマンセルを見て、エルマーは意外にもバランスの良いチームなのかもしれないと感じた。
イローナちゃんに助けられた事で、シュナちゃんはエルマーへの警戒度を跳ね上げさせて3人で倒そうと考える。
* * *
眠り玉にやられた俺に変わって、エッタさんが酒場でバラドンカンパニーの聞き込みを行なっている。
するとバラドンカンパニーの情報を持っている男がおり、その男から話を聞こうとするが、バラドンカンパニーの人間がいるかもしれないと静かな声で話し始めた。
「まずは俺から聞いたって事は、絶対に誰にも話すんじゃねぞ」
「分かってます。それでバラドンカンパニーについての話って、どんな話を知っているんですか?」
「俺が知ってるのは、バラドンカンパニーのエルマーって社長が国王と繋がっているって事だな………」
「この国の王と、バラドンカンパニーの社長が繋がっている!? そんな どうして犯罪者と国王が………あっ。だから、バラドンカンパニーは王都で好き勝手できるってわけか」
最初に聞かされた話が衝撃的すぎた。
この国の王である《デリーアン12世》と、バラドンカンパニーのエルマーが繋がっているらしい。
どうして国王と犯罪者が繋がっているのかと、エッタさんの頭の中がゴチャゴチャしてしまう。
「それがよぉ。前国王までは、獣人との共存したいと政策をしてたんだが………現国王は、獣人を危険視していて撲滅したいと考えてたみたいだな」
「それって現国王が、エルマーに頼んでゴブリンと獣人の間に戦争を起こしたってわけか………」
この男の情報によって、どうしてカエデちゃんたちの村がゴブリンによって攻め込まれたのかを理解した。
その話を聞いたところで、奥のテーブルに座っていた男がテーブルをひっくり返して立ち上がった。
「おい。それは俺たちに対する侮辱かなぁ? そんな根も葉もない噂をするなんてなぁ………死にてぇみたいだな」
「あ アンタは、カロニ村にいたバラドンカンパニーの社員!!」
「正解だ。俺はシャドー課長………俺たちへの侮辱罪で、死刑に処する」
そこにいたバラドンカンパニーの社員はシャドーだった。
そして話を聞いていたらしく、シャドーはエッタさんと情報を話した男を殺すと影縫いを使ってエッタさんの動きを止める。
「女をやるなんて簡単な殺しだな!!」
「女だからって舐めないでっ!!」
・オリジナルスキル『神風』
「なんだ、この突風はっ!? ちっ。影縫いが解けちまっ………まだ喋ってるだろうが!!」
エッタさんのオリジナルスキルが発動して、シャドーが突風に吹かれて影縫いが解けてしまった。
そしてまだ体勢が整っていないところで、エッタさんは追撃の風の針を飛ばして攻撃する。
ここからエッタさんと、バラドンカンパニーの幹部シャドーとの戦闘が激化していくのである。
* * *
俺たちが王都の中で暴れ回っている為に、王宮にも騒ぎが伝えられており、もちろん国王の耳にも伝えられているのである。
「国王様。バラドンカンパニーの奴らが、外から来た人間と戦闘を行っており被害が出ております」
「そうか。バラドンカンパニーが戦っているんだな? それなら黙っているんだ………悔しいが奴らの力を借りなければ、余の目的である獣人撲滅は不可能だ」
「しかし、このままではクロスロード連盟軍やインターオールも黙っては居ないのでは………」
デリーアン12世のところに左大臣が、国民にも被害が出ていると話すが、デリーアン国王はバラドンカンパニーなら仕方ないと目を瞑るように話す。
しかし度が過ぎてしまったら、クロスロード連盟軍やISO通称〈インターオール〉にバレると左大臣は心配する。
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