032:ファミリー完全敗北
エッタさんが放った火と風の槍は、周りの空気を喰らいながらミアに向かって飛んでいく。
普通ならば避けるくらいはするのであるが、ミアは右足を後ろに少し下げ足腰に力を込める。
「こんなにも強大な魔法を見るのは久しぶり………オレの腕くらいなら、これくらいが ちょうどいい!!」
「避けない? パワーは確かにあるみたいだけど、さすがに高威力魔法を間近で受けたら………ひとたまりも無いはず」
「それくらいじゃないと、全くもって面白くない!!」
カットラスを振り上げて向かってくる無遠慮な槍を真っ向から受け止める。
無遠慮な槍とカットラスが触れた瞬間に周囲を巻き込んで爆発が起きた。
さすがに高威力の魔法を真っ正面から受け止めたのと、その後の爆風で立ってはいられないだろうとエッタさんは思った。
「た 倒したよね……あそこまでの威力を受けて立っていられる人なんて、世界を見ても多くはないはず」
「きゃははははっ!! 思ってたよりも威力が弱いか………建物の中でセーブしてたみたいだね」
「あ あの威力を受けて傷1つも付いていない………」
ミアは砂埃をカットラスで切り裂いて、無傷の姿のままエッタさんの前に戻ってきた。
建物の中という事や地下室に兎人族の人質がいるという事で、多少無意識に威力が下がったとしても、この攻撃に無傷でいるのはおかしいとエッタさんは驚く。
「どうして、こんなにも強いのに人の為に使わないの………どうして、人を苦しめる事に何も感じないの!!」
「強いからこそ奪うんだ。オレとクロエは、ある場所で奴隷になっていた………その時に味わったのは、人間の尊厳なんて微塵もない生活。生きてる事が最大の地獄………弱いままの人間が、オレは大嫌いだ!!」
「それだけの力があるのなら、アンタが強い人間を倒せば良いじゃないの!!」
「オレが? 弱い人間を助ける? そんな事はあり得ない………弱いと納得している人間は、この世において人間ではない!!」
エッタさんからすれば不思議な事なんだろう。
強い人間が弱い人間を助けて導くという事は当たり前だと思っているが、ミアは過去に奴隷としての経験があり、その時に感じたのが強くなくては生きてはいけないという事だ。
それならば人を助ける側に回れば良いだろうとエッタさんは言うが、ミアからすれば甘んじで奪われる側に回ってる人間や自分は不幸だと思ってる人間を助けるつもりはないと言う。
己の過去に基づいて意思決定をしているミアに対して、エッタさんは何かをいう事はできずに黙る。
「もういう事は無さそうだな? それじゃあ………次は、こっちの番だっ!!」
・高速移動魔法Level3
・筋肉増強魔法Level3
――――豪筋の太刀――――
「は 速い!? こんなの貰ったら、タダじゃ済まされない………離れてよ!!」
・光魔法Level2《爆発的な光
「なに!? ま 眩しい………くそ」
ミアは言い返せないのならばと、女性のしなやかな体だったのが筋力増強魔法で腕が丸太の様に太くなった。
そして俺よりも上の高速移動魔法で、残像が残るくらいの速さと筋力増強のパワーを合わせて斬りかかってくる。
逃げる場所もなくモロに喰らったら、さすがのエッタさんでもひとたまりも無い。
その為に、どうにかミアを怯ませる必要がある為に、エッタさんは周囲の全てが目を眩ませられるくらいの神々しい光を出し、ミアの視界を奪って攻撃を止めさせた。
「ちょっと離れてもらえるかしら!!」
・オリジナルスキル『神風』
「このエルフがぁああああ!!!!!」
ミアの動きを止めたところでオリジナルスキルの突風で、反対側の壁まで吹き飛ばしたのである。
エッタさんとミアの戦いが白熱している裏で、カエデちゃんとクロエが戦闘を行っている。
バリバリの前衛で戦っていくカエデちゃんは、レイピアを持っているクロエを殴ろうと追いかけ回していく。
「どうしたんだい、わんこう。こんなもんで、アタイに当たるとでも思ってんのかい?」
―――女海賊・クロエ=ガルシア―――
「絶対に当ててやるわん!!」
「遅い遅い!! スローモーションで動いてんのかってくらいに遅いよ!!」
カエデちゃんの前衛としての闘いぶりは、それなりにも世界で通用するレベルなはずにも関わらず、クロエに触れる事すらできずにいる。
「うーっ!! ちょこまかと動きますわん!! 高速移動魔法は使えなくても………それは補えるわん!!」
・筋力増強魔法Level3
「へぇ。高速移動魔法は使えなくても、それを筋力増強魔法で補うとはね………発想が脳筋だわ」
カエデちゃんは高速移動魔法は使えない。
使えないとは言えども、このままではクロエを倒すどころか体に触れる事すらも不可能だとカエデちゃんは理解している。
その為にカエデちゃんは筋力増強魔法を使って、足の筋力を上げると足りなかった速度を補う事に成功した。
さっきまでとは比べ物にならない速さで、クロエに近寄ると触れる事すらもできなかったのが、一気に拳が当たる様になった。
「良い……良いぞ!! 獣人という生き物は、こんなにも強いのか………レベルが跳ね上がったもんだ」
「そんな事も言ってられなくなるわん!!」
カエデちゃんの拳が当たる様にはなったが、やはりクロエの方が数枚上手で、カエデちゃんの全ての攻撃を受け流す。
速度が上がって攻撃にも破壊力は増したが、クリーンヒットしなければ何ら怖くは無いのである。
当たらない事に焦りを感じ始めて、カエデちゃんの攻撃意識が防御の事を忘れて前に出始めた。
「そんなに前のめりになり過ぎて良いのかい? アタイの能力も知らないで、前に出るなんて自殺行為だ………」
・波魔法Level2《真空衝撃波》
「なんだわん!?」
攻撃に頭がいっぱいになって防御の事なんて忘れているカエデちゃんに、クロエが攻撃を当てる事は難しい事ではない。
クロエは水魔法から派生させた《波魔法》で、衝撃波を作り出してレイピアの剣先に付与させる。
そのままクロエはレイピアをカエデちゃんの腹に向けて突き刺すと、衝撃波を腹に喰らって数メートル吹き飛ばされる。
「痛いわん!? お腹の中に入り込んで来る感じ………衝撃波だからかわん!?」
「衝撃波は波の様に体に入ってくる………それ故に防ぐ術は無いんだ」
「こ こんなもんで諦められんわん!! もっと速度を上げれば、そうは難しくは無いわん!!」
カエデちゃんは自分の腹を見ると見た目ほどには傷はついていないが内臓を痛めてしまっている。
それでも倒れられないと移動速度を上げて、クロエに向かって突っ込んでいくが、レイピアの猛攻を全身に受けてしまう。
カエデちゃんの体は左右前後に、揺れて抵抗する事もできずに地面にバタンッと倒れて気を失ってしまう。
「意外にも固い女だったな。男を相手しているかの様な強さだった………あれ? ジャック船長?」
「なんだ、やはり終わっていたか」
「終わったのは、今です………少し手こずってしまいました」
「勝ったなら問題は無い。さっさと、この子島を出て親島に移るぞ………ここでやる事は終えた」
俺と戦闘をしているはずのジャックが、エッタさんたちの前に姿を現したのである。
そしてアカシア島と親子関係にある島がある事を話した。
「み ミナト様とシュナちゃんは………どうなったの!!」
「ん? あぁ男の仲間か………アイツなら完膚なきまでに倒してやったさ」
「そ そんな……」
俺とシュナちゃんはジャックとの戦闘において完膚なきまでにやられた事をエッタさんは伝えられて言葉も発せられなくなる。
そのままエッタさんは隙を突かれ、ミアに斬られた事でミナトファミリーは完全敗北した。
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