025:語尾が気になる種族
俺たちはエルバーグ王国を出港して、エッタさんやカエデちゃん・シュナちゃんの故郷がある中陸に向かう。
こっちの世界でも前世でも船に乗った事が無かったので、それなりにワクワクしながら船旅を楽しんでいる。
「そういえば聞いてなかったんだけどさ。シュナちゃんとカエデちゃんの故郷って、どんなところなの?」
「故郷ですかわん? んーっとですね………」
「私たちの故郷は、日ノ国の影響を受けるにゃ」
「日ノ国っていうと、中陸と大大陸の中間地点にある鎖国してる国だったよね?」
船旅も長いし俺はカエデちゃんとシュナちゃんの故郷について聞いてみると、うーんっとカエデちゃんが腕組みをし唸りながら考えている。
そんなカエデちゃんに代わってシュナちゃんが、獣人の村である《カロニ村》について教えてくれた。
カロニ村を最初に作ったのが、日ノ国の男らしく色々な文化を持ち行ったので、カロニ村は第二の日ノ国と呼ばれている。
「そうですにゃ。日ノ国の思想が強く反映されているので、和風という言葉が浸透してるにゃ」
「和風っ!? その言葉って、こっちにもあるんだ………」
「和風って知ってたんですかわん?」
「まぁ俺は多分だけど、日ノ国にルーツがあるんだよ。だから和風とか日ノ国に少し知識があるのかも………」
日ノ国というところが日本ぽいのならば、全ての旅を終えたら余生として過ごすのも悪くはなさそうだな。
そんな事を考えながら船に揺られ3日が経ったが、中陸に到着する気配が感じられないのである。
「つかぬ事を聞くけども中陸まで、どれくらいかかるのかな?」
「そうですねぇ。大体、1週間半から2週間くらいですかね?」
「それくらいだわん!! だから途中の島に寄って、色々な食料とかを調達するんだわん!!」
「そんなに掛かるのか………」
思っていたよりも遠くにあるんだなぁ。
最初こそ冒険感があってワクワクしていたが、そこまで長い期間も船に乗っていたら退屈で死ぬのでは?
そんな事を思いながらも船に揺られて5日が経つと、最初の食料調達地点の《アカシア島》に到着したのである。
「ここに1日泊まります。なので、島を回ってみませんか?」
「この島って無人島じゃ………ないよな。食料を補給するから人はいるよな」
「この島には古代神殿があったり、ここには獣人の《兎人族》がいるわん!!」
「けっこう観光地としても人気にゃ」
観光地って感覚はあるんだな。
それに兎人族だって!?
ウサ耳を付けた女の子なんて、この世に生まれた全人類の男たちが憧れ好いている存在じゃないか。
それは合わないと俺の人生において最大の汚点になりかねない事だ。
「それじゃあ兎人族に会いに行こうじゃないか!!」
「なんかノリノリで引くにゃ………」
「そ そんなノリノリなんかじゃないさ!! せっかく来たのなら会わないとって………」
「ミナト様は女の人の事になると、ちょっと目がキマるところがあるので怖いです………」
「エッタさんまで!?」
俺がノリノリになっていると女性陣の目が冷ややかで、エッタさんなんて後ろに吹雪が見えてるわ。
カエデちゃんに助けてオーラを出しても、口笛を吹いて俺の方を見なくなって切り捨てられてしまった。
そんなノリをやりながらも森の中に入っていくと、苔が生えて蔓が巻き付いている神秘的な神殿が現れたのである。
「ここが《アカシア島》の古代神殿か………なんて名前の神殿なんだ?」
「ここは《グレイトネス神殿》だわんっ!!」
偉大なる神殿っていう事か。
前世ではパルテノン神殿とか、色々な神殿をテレビで見てたけど、生で見ると感動度が遥かに違うものがあるなぁ。
ここに色々なモノが眠っているのではないかとワクワクしており、中に入ってみたいと冒険者精神に火がついているのである。
「あれ? 観光の人かぴょん?」
「ぴょん!?」
俺が中に入りたくてワクワクしている時に、俺たちの背後から既視感のある語尾を持った女の子の声が聞こえて来た。
さっきにも話をしていたから容易に予想できるが、ワンとかニャとかならギリギリで理解できるが、ピョンッというのは無理があるのではないだろうか。
振り返ると白髪に白く長い耳を持った、女の子がニコッと営業スマイルで立っていた。
「ど どちら様でしょうか?」
「私は、ここら辺の案内をしている兎人族だぴょん!! 私の事は〈セイラ〉と読んでほしいぴょん!!」
「せ セイラちゃんね………それにしても獣人の人たちって、全員が語尾特殊なのか………」
「可愛くて良いんじゃないんですかわん?」
「そうにゃ。私たちの語尾は可愛いにゃ………」
まぁケモ耳に尻尾と可愛いところに、ニャンとかワンとかピョンとか可愛くないわけないだろう。
しかし可愛いは可愛いが、このセイラちゃんのピョンは明らかに無理してつけている感じがするんだよなぁ。
これから兎人族が多くなると考えただけで、ツッコミの覚悟か無心の覚悟をしなければいけないだろう。
「まっ語尾の話は、これくらいにするか。それで神殿には、何か宝でも眠っているの?」
「今はありませんけど《神槍・アルマンティナ》が、神の石像と共に祀られていましたピョン!!」
「へぇ。神槍が祀られてたんだぁ………これって中に入れる?」
「もちろんですピョン!!」
このグレイトネス神殿から神槍が発見されており、その神槍は世界連盟によって保管されているらしい。
とにかくワクワクが抑えられなくなって来たので、グレイトネス神殿の中に皆んなで入っていく。
神殿の中は外とは異なり涼しく、両サイドの壁には何やら解読できない文字が書かれた人の像が何体も並べられている。
「うぉおお。神秘的だな………さすがは本物の神殿って言ったところか」
「あちらが、この神殿に祀られてる神様だピョン!!」
1番奥のところには比較的に若そうな美少年が彫られた石像が神々しく立っているのである。
「この神の名前は?」
「この神様は、炎・戦いの神〈アポローヌ〉様です!!」
「アポローヌ………」
前世でいうところのアポロだろうか。
炎と戦いの神なんて幼い顔をしながら物々しいのを司ってるんだなぁ。
「気のせいだったら良いんだけど、なんか不思議なオーラを感じないか?」
「そうですかね? 神秘的なところなので、特殊な魔力が残ってたりしているんじゃないんですか?」
異世界の神殿だから不思議な事があってもおかしくは無いが、俺の第六感が危険だという風に教えてくれている。
「そういうものかなぁ? でも、ここに来れて良かったわ」
「そうですかピョン? それなら良かったピョン!!」
「唯一引っかかる事といえば、セイラちゃんの語尾だけなんだよなぁ………慣れるかなぁ」
「慣れるピョン!!」
細かい事は無しにして面白かったのだから良しとしよう。
俺たちはグレイトネス神殿を出ると、次は兎人族の集落まで案内してくれる事になった。
そんな俺たちが集落に出発した時に、林の影から3人の無精髭を生やし野蛮そうな顔をした男たちが俺たちを見ている。
「兎人族のところに行くってよ。探す手間が省けたな………」
「さっさと後を追って船長に伝えるぞ!!」
「おぉ!!」
男たちは俺たちの背後にぺたりと尾行を開始した。
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