020:VS魔人・中編①
俺は魔人化したアランに力負けして、反対側の壁まで吹き飛ばされてしまった。
その衝撃で腹の傷が開き、再び傷口からダラダラと血が流れて来て少し冷や汗をかく。
「ミナトさんっ!! 大丈夫ですかわん?」
「血が出ていますにゃ!?」
「カエデちゃんと、シュナちゃんか………何の問題もないよ。ただの擦り傷だから………2人は避難民の誘導を頼めるかい?」
「私たちも戦えますわん!!」
正直なところ戦うと言ってくれるのは嬉しい限りだが、あの魔人の前に2人を出して守り切れる気がしない。
「2人とも俺たちは大丈夫だから、戦えない人たちの為に全力を出すんだ………じゃなきゃ力を持ってる意味がないからさ」
「分かりましたわん!!」
「1人でも死なせないにゃ」
2人が聞き分けの良い子たちで良かった。
これで少しでも気兼ねなく戦えるってもんだよ。
俺は血まみれになった防具と上着を脱ぎ捨てて、アラン同様に上半身裸になって対峙する。
「おい、クソ野郎。何があったかは知ったこっちゃないが………ちょっと俺のムカムカの発散に付き合ってくれや」
「良いぜ。最高に気持ち良いところに連れてってやる………あの世っていう極楽になっ!!」
「そりゃあトンチが効いた返しだな………だが、残念だよ。全くもって笑えねぇ」
・氷魔法Level4《氷の時代》
気合いを込めてアランに挑発を入れると、直ぐに俺に向かって直線的に突っ込んで来る。
シュナちゃんからコピーさせてもらった氷魔法のLevel4を使って地面一体が凍りついて。
近くに来たアランも凍りついた。
「おらっ!! こんなもんじゃあ、お前は寝ないだろ? そろそろ疲れたろ………そんな呪縛から解放されろよ」
「あぁん? 少し意表を突いたからって、もう俺に勝ったつもりなのか?」
凍ったアランを蹴り飛ばすと、少し転がったが直ぐに立ち上がって起こりついた箇所を火魔法で溶かす。
この攻撃でアランのフラストレーションは、さらに溜まっていき俺は単調な攻撃になるかと期待している。
「これが魔人化の力かっ!! こんなに力が溢れてくるなんて、人間の時には味わえないぞ………これで、俺は本当の神になったんだ!! もうあの頃とは違うぞ!!」
「おいおい。偽りの力を持って、それで神になったところで、そんなの悪魔と同じだぜ………ショットっ!!」
アランが高笑いしているのを、俺は本気で哀れに思ってしまって様子を伺っていると、援護のケヴィンが矢を放った。
やはり神器の力なのか、胸・足・頭と全てにクリーンヒットしてアランは地面に蹲る。
「何やってんだ。相手は魔人だ、アランだった奴に気を遣ってると周りの人間が死ぬぞ」
「分かってるとも!!」
ケヴィンは俺に対して、さっさとアランを仕留めろと催促する様に打って来たみたいだ。
そんなの事を知らない奴に言われなくても理解しているつもりだったが、まだ俺の中には甘えがあったみたいだな。
この心は大切ではあるだろうが、何かを守る時に守る人間以外を捨てられなければ、俺の目の前に守りたい人の首が転がるだろう。
* * *
エッタさんは大怪我を負っている、妹のカミラちゃんの手当てや心のケアを全身全霊でおこなっている。
やはり少し離れていた間に辛い事があって、悪夢にうなされたりとしているのを見ていて、エッタさんは涙を流している。
「ごめんね……もっと早く助けられたら…………」
エッタさんは心の中で、絶対に手と足を回復させられる人間を見つけ出してやると決めている。
そんな時に外から大きな爆発音や人の悲鳴などが、聞こえてきて外の異変に気がついた。
何があったのかを確認する為に、廊下に出るとメイドたちがアタフタと何やら荷物を詰めている様子だった。
「な 何かあったんですか? 外が、とても騒がしいみたいなんですけど………」
「そ それがコロッセオで、魔人が出たみたいで!! 王都中が、パニック状態見たいです!!」
「魔人ですって!? どうして、こんなところに魔人が出てくるなんて………コロッセオ? まさかミナト様のところに、魔人が来たんですか!?」
メイドから魔人が現れた事を伝えられて、エルフ族で それなりに長生きしているエッタさんでも魔人に遭うのは初めてである。
そして現れたところがコロッセオだと聞いて、俺が危ないと思って少し待っててとカミラちゃんに伝えてコロッセオに向かう。
「あっこれではコロッセオまで行けない………裏道を行くし無いか」
コロッセオまでの道が避難してきた市民たちで、ごった返しており波に逆らって進む事は難しそうだ。
それならばとエッタさんは、路地裏を通ってコロッセオまで向かおうと近くの路地裏に入って走る。
「エッタさん? どうして、ここにいるわん?」
「カエデちゃん? カエデちゃんこそ、どうして?」
「ミナトさんに頼まれて避難誘導をしてるわん!!」
「ミナト様に………ミナト様は無事ですか?」
「今は魔人と戦闘してるわん。でも、かなりヤバいかもしれないわん………まさかアランさんが、魔人化するなんてビックリしたわん!!」
エッタさんが路地裏を走っている時に、避難誘導をしていたカエデちゃんと会って俺の安否を確認するが、やはり魔人相手にはヤバいかもしれないと伝えた。
するとエッタさんは走り出して、カエデちゃんの危ないからという制止も聞こえずにコロッセオまで走る。
「あの男が魔人化? 魔人化なんて、あのスペリアル魔石を所持した人間にしか起こり得ない………さすがのミナト様でも、あのランクの男が魔人化したら手に負えないかもしれない」
さすがの俺でもと考えてくれているのは嬉しい。
エルフのエッタさんは魔力の流れや質に詳しく、魔人化した人間の危険性は、この国の誰よりも知っている。
人生で1番走ったのでは無いかと思うくらい走って、コロッセオに着くと観客席から中を見る。
「ミナト様……と誰かが一緒に戦っている?」
エッタさんが来た時には俺とアランが、真っ向から殴り合っており2人の事を遠くから様子を見ながら援護している男がいた。
現在のエッタさんは奴隷の首輪を付けている為に、援護をしたいが魔法が使えずに地面にペタンとヘタレ込んだ。
「今の私は無力なんだ………仲間を助けられず、戦っているミナト様に手を貸す事もできない………私は無力だ」
エッタさんは地面を殴って自分の無力さを感じている。
俺を信じてくれてはいるが、またも自分は何も出来ずに大切な人を亡くすのでは無いかと不安に体を小刻みに震えさせる。
『ジェ……エッタ…………ジェルエッタ』
「だ 誰ですか!? 私の名前を呼ぶのは………」
エッタさんの名前を誰かが呼んだ。
周りキョロキョロして名前を呼んだ人を探しているが、どこにもエッタさんを呼んだ人の姿が無い。
自分の聞き間違いかと思っていると、天から温かい光がエッタさんの全身を包み込んだ。
「ど どうなっているの!? この光は、神様の光?」
『迷える子羊〈ジェルエッタ=マーラオ〉。貴方の願いは、この女神に届きました………貴方の清らかな心で、あの魔人と戦う勇者に力を貸してあげるのです』
「あっ!? えっ!? 女神様………あっ首輪が取れた」
なんとエッタさんの目の前に現れたのは、《フェルーナ》という女神で、エッタさんに俺を助けてあげなさいと奴隷の首輪を女神の力を使って首から取り除いた。
ご愛読ありがとうございます!!
宜しければ、感想や御意見をいただければ幸いです!!
こちらのTwitterの、フォローもよろしくお願いします。
↓
https://mobile.twitter.com/yusaki_noa




