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社畜から卒業したんだから異世界で自由を謳歌します  作者: 灰谷 An
第4章・ロリっ子な吸血鬼の女の子
182/202

177:深傷の2人

 エッタさんはアイダハルが、カエデちゃんの事をクソ亜人と言った事にピキピキしてしまった。まぁ俺が、その場にいてもボコボコにしてやるのは確実ではあるが。

 完璧にエッタさんはスイッチが入った。この状態のエッタさんは、俺でも怖くて失禁してしまうくらいの圧力というのか、オーラを感じられる。



「カエデちゃんの事を悪く言った事、未来永劫公開させてあげる………絶対に許さない」


「そんなに、あの亜人が大切なのか? あんな雑魚の子守りをしなきゃいけないなんて、エルフ族も大変なんだな!!」


「もう汚い口を閉じて………」



 どうしてエッタさんの事を逆撫でしてしまうのだろうか。どうみたって、これ以上怒らせてしまったら自分の命すら危ういと感じるはずなのだが、その感覚をアイダハルは持ち合わせていないのだろうか。

 やはりエッタさんは、さらに怒り心頭になって目の前に虎がライオンかを相手にしているようだ。神の加護すらもあるエッタさんを目の前にしているアイダハルは、言わば迷える子羊だろう。

 怒りのあまりに黙っていたエッタさんだったが、風魔法を使って自分を加速させる。さっきのようにエッタさんはアイダハルの懐に飛び込む。



「それを持って居たんだっ!! さっきの女のように、俺の毒を喰らえっ!!」


「そんな事だと思ったわ!! 安易な挑発を行なって、私を懐に誘い込もうとしていたようね!!」


「なんだと!? 俺の毒を吹き飛ばした………」



 エッタさんはアイダハルの攻撃を読んでいた。アイダハルはエッタさんを挑発し、懐まで引き寄せたところでサソリの毒で殺そうと考えていたらしい。しかし懐に飛び込んできたエッタさんは、サソリの毒を自分の風魔法で吹き飛ばした。

 まさか瞬間的に自分の毒を飛ばせると思っていなかったので、アイダハルは二手目を考えていなかった。現状は自分の策は通用せず、目の前に攻撃を繰り出そうとしている敵が立っている。これは地頭の良いエッタさんが瞬時に考え行動して、作り出した状況なのである。



「挑発に乗ったのは確かに作戦だけど、さっきのカエデちゃんへの発言は許してないから!!」


・光魔法Level5《聖槍》

・土魔法Level2《土槍》

・火魔法Level2《火槍》

――神槍(グングニル)――


「なっ!? こんな威力はあり得ない!?」



 エッタさんは俺が使った事のある、3つの魔法を合わせた技を出した。この魔法を打つ時だって、それなりに苦労したのだが、エッタさんは才能のままに放った。

 コピーなんてチート級のスキルは貰っているが、やはりそれでも差は生まれるものなのだろう。そんな気持ちを俺と同じく、アイダハルも感じている事だろう。そして綺麗にアイダハルの胴体に穴が空いた。



「クソが、こんな女にやられるなんて………」


「そう思っているうちは、どれだけ人生をやり直そうとも私には勝てないわ。貴方と違って、私はエルフとして長く生きているのだからね」



 そうだった。

 エッタさんはエルフで、俺たちよりも遥かに長く生きているのだった。そのうちに相当な量のトレーニングを積んでいたのだろう。

 そんな人にアイダハルが、余裕を出して勝てるわけがない。これもまた因果応報と言うべきなのだろうか、ちゃんと生きていればエッタさんには出会って居なかったはずなのにな。

 アイダハルが戦死した事によって、ノースカリクッパ王国の兵士たちは後ろ盾を失って混乱する。そのまま市民軍の方が勢いを盛り返して要塞を制圧した。



「(なんとか市民軍が勝ったみたいね………早くカエデちゃんのところに行かないと)無駄な殺生は、私が許さないからね!!」



 エッタさんは市民軍が勝利したところで、なんとか落ち着けるとフーッと息を吐いてから、カエデちゃんの様子を観に行かなければと思い出した。外に待っているので、走って戻るのだが市民軍の兵士たちに無駄な殺生だけはしてはいけないと注意してから戻る。

 要塞の外に出てみると地面に寝かされているカエデちゃんと、そのカエデちゃんを心配そうに見ているシュナちゃんがいた。雰囲気からして亡くなってはいなさそうなので、エッタさんは少し安心する。



「シュナちゃん。カエデちゃんは、どうなったの? まだ目を覚さないのかしら?」


「まだ起きなさそうにゃ。毒については薬屋の市民兵が居たから、その人の持っていた薬で何とかなったにゃ」


「それは良かったは………目を覚さないのは、獣神化していた時間が長かったから?」


「そうだと思うにゃ。それにカエデは、獣神化を進化させてたって皆んな言ってたにゃ………その代償の可能性もありそうにゃ」



 カエデちゃんの毒は、この市民軍に参加していた薬屋の男から薬を貰ったらしい。たまたま薬屋が居たから良かったが、もしも居なかったらと思うと少し怖い。

 毒での影響では無さそうだが、カエデちゃんは獣神化を進化させていた事もあって、その代償で体力を相当持って行かれたのでは無いのかと考えている。その為、いつ目を覚ますのかもエッタさんたちには分からない。

 それでもエッタさんたちが起こした、南の要塞攻略は成功という形で幕を下ろす。




* * *




 北の砦に話が戻るのであるが、ルイちゃんは自分が倒してしまったアングリーの代わりになる、ギルド・ボガードの人間を探している。

 しかしノースカリクッパ王国の兵士は多くいるが、あの人以外のギルド・ボガードの人間がいない。だんだんと自分はやってしまったのでは無いかと、ルイちゃんは焦り始めるのである。



「誰でも良いでござる!! とにかくギルド・ボガードの人間を捕まえなければいけないでござる!!」



 ルイちゃんは砦の中を、ひたすらに走り回って話を聞ける人間を探す。だが、探せば探すほどにギルド・ボガードの人間はいない事が分かってくる。

 そんな時にある場所に、とてつもなく血の水溜りができている場所を見つける。



「ん? こんな量の血があるでござるな………もしかしてローズ殿が、血を飲んでいたでござるかな?」



 ルイちゃんは血の水溜りを作ったのは、ヴァンパイア族のローズちゃんなのでは無いかと考えている。じゃあ血の先にいるかも知れないと、合流する為に走って廊下を進んでいると俺が倒れているのに気がつく。



「アレはミナト殿でござるか………えっ!? さっきの血は、きっとミナト殿のものでござるよ!!」



 ルイちゃんは地面に尻餅を着いて、眠っているように壁にもたれ掛かっているのに気がついた。どうしたのかと近寄ってみると、俺の胸に大きな傷が付いているのに気がついて、さっきの血の水溜まりは俺の血だと察したのである。

 そんな事よりも、あまりにも傷が深く体が冷たくなり始めている事にルイちゃんは焦っている。まさか死んでいるのかと思って、俺の胸に耳をつけてみると若干であるが脈がある事に気が付いた。



「これなら助かるでござる!! 血の事だったら、やはりローズ殿に聞いてみた方が良いでござるな!!」



 ローズちゃんは脈があるのなら助かると、自分の背中に俺を乗せて、血液に関してならばローズちゃんが詳しいと砦の中の捜索を行なう。

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