176:緊張の糸
ニコはストレガに勝負を挑んだものの手も足も出ないまま片腕と片足を無くすという大敗を喫した。初めての敗北に仰向けで倒れて、綺麗な青空に持っていた謎の家族に対する執着が薄れていく。
「分かるか? お前に必要だったのは家族じゃない金でもない!! お前に必要だったのは………真剣にぶつかってくれる人間だっ!!」
「僕は無理に家族という形に拘っていたんですね。しなも金の力を使って無理矢理に………ストレガさんのおかげです。人生の最後に貴方みたいな人と出会えて、とても良かったです………」
真っ向から自分とぶつかってくれる人と、初めて出会えた事でニコは最高の気持ちで死ねると言った。今までの人生は自分が幸せだと、何度も何度も言い聞かせてきたのだと気がついた。
しかしニコは自分でも分かっていた。両親が自分の事を心の底から愛してなんていなかったと、そして自分自身に嘘もついているという事もだ。それでも今の自分の環境を壊したく無かったから理解しようとしなかった。
「そんなの俺が許すと思っているのか? だから言っただろうが、俺は君をスカウトしに来たってな」
「こんな状態の僕をスカウトですか? もう自分でも分かってますよ。この傷と血の量では、どうも生きるのは不可能だって………」
「俺が、そんなヘマをすると思ってるのか? もちろん回復させてやるさ。そうして新しく生まれ変わったら、スマイリーと名乗って俺の部下になれ!!」
死を覚悟したニコであったが、ストレガはニコをスカウトしに来たのに殺すなんてヘマはしないという。しかしニコ的には傷が深く血液も流しすぎているから、もう直ぐ命を落とすと言ったのである。
それを言われてもストレガは回復させて、1度は死んだ事にし生まれ変わりにスマイリーと名乗って、自分の部下になるように言ってきた。ニコは新しい自分になって、新しい人生を歩めるのならばと言った。
「これを使えば簡単に、手足が生えてくるぞ」
「それは何ですか?」
「これは、あるマッドサイエンティストが作った秘術の薬だ………まぁ飴みたいなモノだ。それなりに痛みは出るが、手足が生えると思えば良いだろう」
「は はい」
倒れているニコにストレガは、飴のようなモノを出して食べれば手足が生えるという。これはどこかのマッドサイエンティストが作ったらしく、激しい痛みに襲われるが確実に手足が出るというモノらしい。
その飴らしきモノをニコの口に放り込んだ。するとニコの体に、想像を絶する痛みが走った。するとあまりの痛みで口から泡を吹き出し、地面を這い回るくらいの痛みだというのが見て分かる。
耐えていたニコだったが、あまりの痛みで遂には失神してしまった。こんなにも辛いのならば手足なんて無くても良いのではないかと思ってしまう程だったが、それでも自分が背負った十字架だと思ったら耐えられた。
「ん? あ あれ? 僕は失神してたのか………」
「3時間は気を失っていたな。だが、その甲斐もあって見事な手と足が生えたじゃないか」
「ほ 本当だっ!? 本当に無くなった手足が、綺麗に生えてきてる………」
「これでお前は新しい存在だっ!! 俺の部下のスマイリーとして生きていけ!!」
そこからニコはスマイリーの名前を手に入れて、新たにギルド・ボガードの人間として活動し始める。元からの強さもあって、ギルド・ボガードで結果を残し始めていたのである。
ニコの意識は現代に戻ってくる。
ニコは真っ向からぶつかってくれた、ストレガの事を思い出しながら意識が消えそうになる。しかし死ぬ寸前から一気に、意識を取り戻して立ちあがろうとするが、何をしても死ぬのが決まってる為に立ち上がれない。
「そんなに無理する必要はねぇよ。テメェの強さと根性は、俺が忘れないで後世に伝えてやる………もう眠れ」
「お前なんかに言われなくても………」
俺は死ぬ寸前の人間にも罵声を飛ばすような事はしない。この強さと根性は後世に伝えるだけの価値があり、無理して辛い時間を増やすのも可哀想だ。
それを聞いた瞬間にスマイリーは、俺も自分に本気でぶつかってくれたのだと理解した。悔しいが自分は、ここでストレガたちを残して死ぬのだと理解している。そのまま名前の通りに、笑顔で息を引き取ったのである。
「な 何とか勝ったか………痛いわぁ。あぁ集中の糸が切れたら意識が遠くなってきた………」
俺は何とか強敵であるスマイリーとの戦闘を終えて、地面にドサッと尻餅を着いて気が抜ける。さっきまでは緊張していたので、痛みや意識が飛びそうなのに耐えられていたのであるが、緊張の糸が切れた瞬間に俺の意識は保たれなくなっていた。
* * *
俺たち同様にエッタさんたちも要塞にて、ノースカリクッパ王国とギルド・ボガードと戦闘中である。獣神化を進化させたカエデちゃんだったが、ギルド・ボガードの幹部であるアイダハルに敗北した。
そしてアイダハルにトドメを刺されようとした時に、エッタさんが助けにやってきた。アイダハルは、エッタさんのオーラに押されている。
「貴方が、私たちのカエデちゃんを痛めつけてくれたみたいね? それなりの痛みは感じてもらうわ………生半可な気持ちだったら、直ぐに首が飛ぶわよ」
「な 何を言いやがる。女がいきがるんじゃねぇよ………首を飛ばしてやるのは、こっちの方だっ!!」
「えぇその気じゃないと、ただの弱い者イジメになって気分が悪かったところだわ。私に弱い者イジメをさせないでよね!!」
エッタさんは足の裏に風魔法を使って、一瞬にしてアイダハルに近寄るのである。あまりにも凄い方法で距離を縮めてきたので、アイダハルは腕を硬質化させて顔の前に構えダメージに備える。
「そんな子供騙しみたいな方法で、私の攻撃が防げると思わないでっ!!」
・風魔法Level4《ウィンド・スピアー》
「なにっ!? 俺の硬質化を簡単に破っただと!?」
エッタさんは簡単に硬質化程度で防げると思うなと言って、風の槍をアイダハルに向かって放った。すると自分の硬さに自信はあったのだが、その自信ごと硬質を破ってアイダハルにクリーンヒットした。
そのままアイダハルの横っ腹を貫いた。エッタさんの事を、ただの女だと侮っていたアイダハルとしては、こんなにダメージが入っている為に痛みと屈辱を感じているのである。
「たかが女が、この俺様に傷をつけやがったな!! 今更、後悔してもブチ殺してやるからな!!」
「最初から本気で来いって言ったわよね? そんな風に言われたとしても、ただの負け犬の遠吠えにしか聞こえないのだけれど、そんなので大丈夫かしら?」
「本当に言ってくれるじゃねぇか。さっきのクソ亜人みたいに、テメェも毒で動けなくしてやるよ!!」
「クソ亜人………もう貴方は、私の手で殺すわ」
自分のプライドを傷つけられたアイダハルは、エッタさんに向けて負け犬の遠吠えのような発言をして、そこをガッツリと指摘されてしまう。それでまたプライドを傷つけられたので、今度はカエデちゃんをクソ亜人と罵ってしまったのである。
それを聞いたエッタさんは、クソ亜人という言葉にピキッとスイッチが入ってしまった。
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