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社畜から卒業したんだから異世界で自由を謳歌します  作者: 灰谷 An
第4章・ロリっ子な吸血鬼の女の子
170/202

165:誰かの為に

 ルイちゃんとアングリーの意見は乖離していて、どちらも正義を持って動いている為、分かり合える日は来ないだろうとルイちゃんは感じた。

 自分の正義を持ってしてアングリーに勝ったとて、アングリーは死ぬ瞬間まで己の正義を言い続ける。仲間を裏切りたくないという言葉を使って、自分の悪事を正当化するアングリーにルイちゃんは嫌悪感を抱く。



「貴殿らの意見を理解しようとしたが無理でござる。何よりも貴殿らは、仲間という言葉を都合よく解釈していて全く持って話にならんでござる!!」


「なんだと!! お前のような人間たちに、俺たちの絆の何がわか………」


「分からんっ!! 貴殿らが我々を理解できないように拙者たちだって理解はできない!!」



 ルイちゃんは自分たちの事を都合よく解釈して、自分たち以外の考えを弾圧するアングリーたちを許せない。あまりにも自己都合しか考えていないギルド・ボガードに対して憤りを感じてしかたない。



「どうであろうと俺は喋らない」


「その傷で立ち上がれるでござるか………しかしドラゴンニュートとして進化した、拙者に深傷を負った貴殿が勝てると思っているのか?」



 ルイちゃんの言った事にも少しは理解したのだろうかと、アングリーは話を止める。

 そして何と立ち上がれるはずのないアングリーが、プルプルッと震えながら立ち上がった。深傷を負いながら立ち上がったのには、敵であるルイちゃんも良く立ち上がったと心の中で称賛を送る。

 しかし深傷が深傷すぎるので、もう立ち上がるだけで精一杯だろうと戦闘には発展しないと考えている。だがさっきまでの速度に比べたら、遥かに遅くはなっているがルイちゃんに向かっていく。



「立ち上がったのは素晴らしい事でござるが、もうフラフラで戦う事はできなかろう?」


「あぁ勝つ事はできなくとも、五分五分には持っていけるんだよ!!」


「なにっ!? じ 自爆でござるか!?」



 アングリーは勝てない事を前提に立ち上がった。そしてルイちゃんに向かって歩き始めると、アングリーが間合いに入った途端に、アングリーの胸が光り始める。

 どうなっているのかと思っていたら、アングリーの胸には謎の魔石があるのに気がつく。ルイちゃんは、この瞬間に魔石が自爆するんだと分かった。しかし気がついた時には既に遅く避けられ無かったのである。

 そのまま魔石は爆発してルイちゃん側のエリアが、ほぼ倒壊するという惨事になってしまう。こんな大爆発に巻き込まれたら、さすがのルイちゃんでも生き残ってはいないだろうと思われる。しかし瓦礫の一部が動いて、そこからルイちゃんが這い上がってきた。



「さすがの爆発でござるな。ホーリー・ニュートに進化してなかったら無傷じゃ済まなかったでござる」



 進化を果たしていた事で、魔石の爆発に巻き込まれても無傷で済んだらしい。逆に進化していなければ、どうなっていたのかとゾッとするくらいの出来事だった。




* * *




 意外と武闘派なイローナちゃんは、手足が長く生理的に合わないファンと戦闘になっている。しかし性格が合わないからなのか、ファンとの戦闘では苦戦を強いられてしまっている。



「ふっふっふっ………こんなに楽しい戦いは久しぶりだから、つい遊んじゃったなぁ。体がピリピリするくらいの楽しさときたもんだ」


「まだ本気じゃないって? そんな風に言われたら、私でもイラッとする………」



 ファンはイローナちゃんから受けた攻撃を、遊んでたせいで受けた大した事のない傷だと言った。その発言を受けてイローナちゃんの眉毛が、少しピクッと動いていわれた事にイラッとするのである。

 イローナちゃんは言われてばかりではいけないと、ファンに向かって突進する。それに対してファンは、腕をムチのようにさせて剣を振っている。こんなところに飛び込んでいくのは、まさしく自殺行為に等しく無謀であると誰でも理解する事ができる。



「バカみたいに突っ込まない………」


――稲光の経路ライトニング・アクセル――


「なっ!? ゔふぉ!?」



 イローナちゃんはファンの剣の間合いに入る瞬間、雷が光ったかのように真横に移動してファンの攻撃を避ける。そして一気に懐に飛び込むと、ファンの腹をグーパンで何メートルも後ろに殴り飛ばした。



「どう? これでも、まだ本気を出さないなんて言えるのかしら?」


「はははは………こんなに強いのかよ。子供だって侮る奴は、バカみたいに死ぬかもしれないな。だけだ、僕は君の事を侮らないよ? なんせ、こんなに楽しませてくれる子を、ガッカリさせるなんて紳士じゃないからね」


「元からアンタは紳士じゃない………それに紳士なら悪事をしないと思う。それよりも早く本気を出してくれるかしら………じゃないと、こっちが眠くなるから」



 殴り飛ばされたファンは仰向けで倒れたところから、足を上に上げて勢いよく立ち上がる。口から出た血を手で拭うと、ペロッと舌で舐め取るのである。そんな行動の1つ1つが、イローナちゃんの気持ち悪いセンサーに引っかかって吐き気を催す。

 ファンは少し本気を出したところイローナちゃんに、殴り飛ばされて少しは焦ったかと思われたが、全くもってファンは焦る事なく逆に笑っている。しかしイローナちゃんの方が、弱い人間を相手にしている方が眠くなるから本気を出してと煽りを入れながら問いかける。



「そこまで言うなら本気を見せてあげるよぉ。僕の事を楽しませてくれた、お礼をしないとねぇ………ガンガンに行くよぉ!!」



 ファンは気味の悪い笑みを浮かべながら、イローナちゃんに向かって襲いかかっていく。イローナちゃんは、遠距離の雷魔法を使うのであるが、それをファンは剣を振り回して攻撃を自分まで通さない。

 それを見たイローナちゃんは、自分の間合いに入れるのは危険だと本能が語る。しかし目の前まで、ファンが接近している。このままではイローナちゃんが、ファンの剣の前に細切れにされてしまう。



「これで終わ………な 何の音だ!?」


「今だっ!!」



 ファンが剣をイローナちゃんに向けて振るった時に、砦全体が謎に揺れてファンの剣がズレてしまった。そこをイローナちゃんは見逃す事なく、腹を蹴って自分から距離を離したところで、高電圧の雷を打ち込んだ。

 電気の玉をファンは剣で斬り裂こうとするが、防ぎきれずに全身にクリーンヒットして痺れる。さすがのファンでもクリーンヒットした事で、動きが止まってしまうのである。その瞬間を狙わないわけがなく、イローナちゃんはトドメと言わんばかりに、ファンの顔に対して鬼のような連打を打ち込んでいく。



「確かに少しは危なかったけど………それでも私を殺せなかったわね。こんな時に、あれだけの音に気が取られるなんて集中力が足りないんじゃない?」


「確かに君が言うように、運が無かったのは認めざるは得ないでしょうねぇ………でも、まだ100%を出したって僕が言ったかなぁ?」


「そんなのただの言い訳じゃない………これだけ実力の差があるって分かるのに、向かい合って戦うなんて非効率にも程があるわ」



 イローナちゃんの雷攻撃と共に、鬼のような連打を受けてもファンは立っていた。そしてまだ本気を出していないと負け惜しみのような発言もする。

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