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社畜から卒業したんだから異世界で自由を謳歌します  作者: 灰谷 An
第1章・綺麗なエルフ族の女の子
17/202

016:命を賭けること

 俺の目の前にいるのは覚悟を履き違えた、ただの金の亡者だ。

 俺からしたらエルフ族を売った金で、自分の妻と子供を養うなんて正気の沙汰じゃないと思える。



「別に奴隷全体が悪いなんて言わないさ。それこそ奴隷にだってメリットがあるからな………でもな。アンタが今回、手引きした事はウィンウィンじゃねぇんだよ」


「そんなの分かっている!! そんなもので飯が食えるのなら、この世界に餓死など存在しないのだ!!」


「はぁ? アンタは本当に何を言ってんだよ………アンタは宰相なんだろ? 豪遊しようが対して金は減らないだろ」


「宰相や貴族ってのは金がかかるんだよ!! 金が無いなんてバレでもしたら支持を失う………そんな事は、お前の様な庶民には分からないだろうな!!」



 やっと本音を出しやがった。

 貴族や王国の宰相たちが、見栄や地位の為に金がかかるのは俺にだって理解する事はできる。

 だが、金の稼ぎ方があまりにも違いすぎた。



「あぁ金がかかる事は理解してやるよ。だが手段を大いに違えたんだよ………その代償が、今ってわけだろ? だが、罪のないエルフ族の女の子が6人も死んだんだぞ!!」


「…………」


「そうか。ここで黙りこくるって事は、今置かれている状態を理解しているんだな………それなら、アンタを殺した後に妻と子供も同じところに送ってやるよ」


「頼む!! 俺の命だけで許してくれ………家族は本気で、この事を知らないんだ!! 頼む慈悲をくれ………」



 ここに来て宰相の男の目から涙が垂れた。

 前世の俺ならば感動して、俺も涙を流し許してやる様に交渉していただろう。

 しかし今の俺に鬼の目にも涙など存在しない………あり得なんだ、他人の大切な人間を殺しておいて自分は泣き叫び命乞いをすれば、その罪を全てチャラにする雰囲気が。



「仕方ねぇな。そこまで言うなら………」


「本当か!? 家族を助けてくれるのか!!」


「なぁーんて言うと思ったか? そもそも俺に処刑を止める権限もやる権限もねぇよ」


「騙しやがったな!!」


「騙しただって? アンタはエルフ族の子が、どうやって殺されたか知ってんのか? ここから出られると思った途端に、命乞いも無視して殺されたんだぞ?」



 俺の悪気心が勝ってしまって、男に対してエルフ族が受けた方法を全く同じく行ってみた。

 すると宰相は希望を見た途端に、パァッと俺が処刑の権限を持っているわけないのに喜び絶望した。



「まぁアンタの家族が関係ないのは事実だ。国王様、俺から提案させてもらっても良いでしょうか」


「もちろんだ。今回の事件での功労者は、お主じゃからな」


「それでは僭越ながら提案させていただきます………この男を処刑、そして妻と子供は別々に島流しというのは、どうでしょう」


「ほぉ別々に島流しとな。確かに、そうすれば妻と子供が手を組んで反乱の危険性も減るのぉ」



 俺が提案するのは宰相は処刑として、妻子に関しては将来の危険分子になり得る為に、子供と親を別々での島流しである。



「い 命は助けてくれるんだな!! それは約束だろうな!!」


「あぁ妻子の()()()は、この俺の名に置いて約束してやるよ………だから、後悔しながら逝け」



 宰相に妻子の命だけでは助けると約束した。

 しかし島流しは例外なく、生きている方が辛いと思うくらいに酷い刑だ、じゃなきゃ島流しなんて刑は存在しないんだからな。

 国王の命令によって俺が提案した事が受け入れられ、明日の夏の祭り終わり次第、宰相の公開処刑を執り行う事が決まった。

 俺は清々しい気持ち………になんてなれちゃいない。

 人を1人殺す命令を俺が出し、少なくとも2人の人生に大きな影響を与えたのだから、こんな事で精神的に落ち込むのなら俺は裁判官とかにはなれないんだろうなと思う。



「ただいまぁ、エッタさんは? もう寝ちゃった?」


「はい。ついさっき寝ちゃいましたわん!!」


「そりゃあ、そうだろうね。2人も寝ちゃいな………俺も明日に向けて早めに寝るからさ」


「本当に大丈夫ですかにゃ? 相手は序列12位とは言えども、人間の中では最高ランクの十二聖王ですよにゃ」


「心配してくれるのか。いつになっても心配してくれる人がいるのって、とても嬉しい事だな………でも心配はいらないよ。あの男が、いかに井の中の蛙かを教えてやるよ」



 エッタさんは疲れて寝てしまう中で、俺の帰宅をシュナちゃんとカエデちゃんが出迎えてくれた。

 そして明日の模擬試合にも心配をしてくれて、こんなにも心配が身に染みたのは前世の木島以来だ。




* * *




 一夜が明けて夏の祭りの日が訪れる。

 俺はエッタさんたちよりも少し早く目が覚めて、試合までに少し追い込んでおこうと筋トレを始める。

 汗だくでハァハァ言いながら筋トレしている時に、起きてきたエッタさんと目が合い変な空気が俺たちを包んでいる。



「あの………おはようございます」


「言いたい事があるなら言ってよ!!」


「朝っぱらからリビングで、汗だくになっている人を愛してしまったのだと………後悔? している様な気がします」



 まずいな。

 昨日は愛しているとハグまでしてくれたが、またも気持ち悪い男というところまで落ちてしまうのだろうか。



「ふふふ。冗談ですよ………今日の戦いに向けての準備をしているんですよね? 今日は妹の側に居たいので、直接応援には向かえません………ここから祈りを捧げます」


「良かった良かった。エッタさんに嫌われたら、それこそ世界の終わりだよ………祈りを捧げてくれるだけで、俺は無限に動ける気がするよ」



 エッタさんの応援さえあれば俺のオリジナルスキルである《疲労無効》が、さらに拍車がかかり無限に動ける気がするよ。

 それに今日は負けられない戦いがここにあるんです。

 と言ったところで、英雄のくせに奴隷なんて気にした事が無いと勘違い野郎を懲らしめるには良いタイミングだろう。



「祈りは捧げますが、本当に気をつけて下さいね? 十二聖王の中では、1番下ですがオリジナルスキル《砂男(サンド・マン)》というスキルで成り上がった人ですから」


「な 何そのカッコ悪い名前は!? 砂男って、そんなオリジナルスキルってあって良いのか………」



 俺の聞き間違いじゃ無いよな?

 エッタさんは《砂男(サンド・マン)》って言ったよね?

 こんなダサい名前のスキルを持った男に、負けでもしたら俺の中じゃあ黒歴史になっちゃうわ。

 こっちの世界のネーミングセンスって、もしかしたらダサすぎるのでは無いか。

 その点において俺のオリジナルスキルは、模倣(コピー)というシンプルなモノで良かった良かった。



「確かにネーミングセンスは、ちょっと気になるところですが実力はホンモノです………彼が十二聖王まで登り詰めた理由は、彼単体で《人狼》を倒したからです」


「人狼って、もしかして人が狼になるって奴かい?」


「はい。人狼族という種族はありますが、その中でも魔族に近い人狼族である《ハイ・ウルフ》をです」


「確か人狼の中で《ハイ・ウルフ》を討伐する場合は、ドラゴンに匹敵するんだよね?」



 オリジナルスキルの名前と風貌や調子乗りなところは、少しイラッとするが積み重ねてきた功績というのはホンモノみたいだ。

 人狼とは強いのかと思われるかもしれないが、ランクとしてはSSランク冒険者が数人がかりで倒せるモンスター。

 そんなモンスターを倒すだけの力はあるみたい、俺も少しは気を引き締めた方が良いのかもしれない。

ご愛読ありがとうございます!!

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