163:聖龍陣
ルイちゃんはアングリーの前で、成すすべなく死を覚悟した。しかし死を覚悟したところで、自分の頭の中に死にたくないという声が響いた。その声によって、ここが自分の死場所では無いと理解した。
するとルイちゃんの体がピカッと光った。アングリーもルイちゃんが光った事で、眩しくなって目を瞑ってしまうくらいの光だった。
「どうなってるんだ!! いきなり光りやがって!!」
「こ これは一体何でござる………力が湧き上がって来るでござる!!」
光が収まってルイちゃんの体が見えるようになると、ルイちゃんのドラゴンニュートとして生えていたツノと翼と尻尾が、今までとは異なる形になっていた。
ツノはグッと上を向いて立派になっていて、羽はさっきまでの2回りは大きくなっていて、尻尾は大きく鱗が目立つ立派な尻尾になっている。これはカエデちゃんの獣神化が進化したように、ルイちゃんも種族として進化を遂げたと言っても良い。
さながらドラゴンニュートから《聖龍人》と進化したと言えるだろう。ホーリー・ニュートに進化した事で魔力量も増えている。
「この力があれば、貴殿程度の人間ならば文句なく倒せるでござる!! しかしまだ進化しなばかり………そこで貴殿には、拙者の生贄になってもらう!!」
「生贄だと? 少し風貌が変わった程度で、調子に乗るんじゃねぇよ!!」
アングリーはルイちゃんが進化した事には、とても驚いてはいたが、その後のセリフにカチンと来たらしい。直ぐに棍棒を構えて、ルイちゃんに向かっていく。
完全に死ぬと覚悟したところから復帰した事で、ルイちゃんのメンタルは1段階レベルアップしている。そのメンタルの強さで、刀を鞘に戻すと左足を後ろに引いて目を瞑りアングリーが間合に入るのを待つ。
「この一撃で、ぺちゃんこにしてやる!!」
「井の中の蛙でござる………」
――居合の極意――
「ゔぅ!?」
アングリーが間合いに入った瞬間、ルイちゃんは一瞬にして刀を抜いてアングリーの背後に回った。アングリーの視界にも入らなかった為、どうなっているのかと後ろを向いた時に胸が一文字に斬れていた。
その切り傷からダラダラッと血が流れてきて、アングリーは地面に仰向けでバタンッと倒れる。立ち上がろうとするが、傷口が深く立ち上がろうにも力が入らない。
「拙者の成長に協力してくれて感謝するでござる。また1つ父上に近づけた………という事で、ギルド・ボガードに関する情報を吐いてもらうでござる」
「俺が仲間を裏切ると思っているのか? どんなに辱めを受けようが、仲間を売るわけが無い!!」
アングリーは立ち上がれずに、ルイちゃんの事を地面に這いずりながら見上げている。斬り伏せたルイちゃんは刀を鞘に戻して、自分を進化させてくれたのは確実にアングリーだと言って感謝した。
そしてルイちゃんは倒れているアングリーに、ギルド・ボガードに関する話を聞き出そうとする。しかしさすがの悪党とはいえどもアングリーは、仲間のメンバーについて詳しい話をしようとしない。
「仲間を裏切るよりも酷い事を、貴殿らはやっているという自覚はないでござるか!! 多くの関係ない人たちを巻き込んで、どれだけの凶悪犯罪を行なってきたのかを理解していないでござるか!!」
「そんなもの知るか!! 我々は、この世界から見捨てられた存在………俺たちに残されているのは、ギルド・ボガードのメンバーたちだけなんだよ!! それなら世界なんかよりも仲間を大切にする!!」
ルイちゃんはギルド・ボガードがやっている事は、世界の関係ない人たちを巻き込んだ酷い事だという。今すぐに情報を吐く事で、その行為も少しは償う事になるだろうと言いながら悪事である事を強調する。
それに対してアングリーは、自分たちが世界から見捨てられた存在で、それを救ってくれたのが現在のメンバーであると話す。そんなメンバーの為ならば、世界でも敵に回しても良いという覚悟を持っているみたいだ。
ルイちゃんのオーラも中々ではあるが、アングリーの負けじとオーラを出して脅しには屈しないという姿勢を全身で表していく。このままでは、ルイちゃんは時間の無駄ではないだろうかと思い始める。
「おい、女っ!! お前は経験した事があるか? 自分の存在が、本当に意味があるのかという気持ちに苛まれた事は!! あるのか? 死ぬ事すらも選ばせてくれない世界を生きた事がっ!!」
「なんでござるか?」
「アレは俺が6歳の時だった………」
アングリーはルイちゃんに、自分たちのような苦しんで生きてきた人間の気持ちが分かるのかと聞く。ルイちゃんは、突然に声を荒げ始めたので困惑して質問に答える事ができなかったのである。
そしてアングリーは自分で言っていて、忘れたくても忘れられない過去の人生が頭を過ぎる。それはアングリーが6歳の時に遡る。アングリーは、ノースカリクッパ王国の隣国である《トゥンシム王国》の付近に、国で最大級のスラム街《八竜村》の出身だ。
「このガキがっ!! お前みたいな奴隷落ちが、王都に入って来るんじゃねぇよ!!」
「少しくらい良いじゃねぇか!!」
「黙れ!! 次来たら、八つ裂きにして殺すぞ!!」
ヤンリュウマウルには、色々な地域からやってきた移民で成り立っているスラム街だ。その為、人権としては奴隷以下の価値しかない為、周りから酷い扱いを受けている。それは両親を亡くして泥棒として生きている《ペーター》俗にアングリーも同じ事だった。
ペーターは王都に侵入すると盗みを行なったり、ヤンリュウマウルでは図体が大きかった方なので、6歳の頃から喧嘩屋として生計を立てていた。しかしあまりにも生きていくには幼い為、食い扶持も無くなってきて餓死寸前まで行ってしまうのである。
「君が、ここら辺で有名なペーター君かな? これはこれは餓死寸前じゃあ無いか………これは話を聞く前に、直ぐに食事をさせた方が良さそうだな」
スラム街の一角でガリガリになって肋の骨が浮き出ていたり、頬も骸骨なんじゃ無いかと思うくらいに痩けてしまっている。そこに高そうな服を着た長髪に、髭を生やした紳士みたいな人がやって来る。
その男はペーターに用事があったみたいだが、この姿では話を聞く以前に餓死してしまうと思った。そこで男は部下の人間に、ペーターを自分の屋敷に連れていけと言って馬車に乗せる。
この男の屋敷はスラム街の中にあって、他のボロボロの建物とは比較できないくらいに大きな屋敷だ。あまりにもスラム街とマッチしていないので、男の屋敷は周辺で1番浮いてしまっている。だが男は気にする素振りもしないで屋敷の中に入ると、ペーターにシェフに頼んだ料理をテーブルいっぱいに並べた。
「こ これは?」
「これは君が食べるものだよ。ただ、それを食べたなら私の依頼を受けてもらえるかな?」
「もちろん………」
テーブルの上に並べられた食べ物を前にして、ペーターはタジタジして困っていたが、全て食べて良いと分かったところで爆食を始めるのである。その食いっぷりに男も笑いが出る程だった。
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