015:怪しい魔石、ダメ絶対
俺との決闘が明日に控えたアランは、十二聖王としても冒険者のランクとしても負けるわけにもいかずに落ち着けないでいる。
明日の決闘に向けて調子を整えるどころか、飲み屋街で酒を浴びる様に飲んでフラフラになっている。
「クソがっ!! どうして、俺が こんな思いをしなければいけないんだ………これも全て、あのカスのせいだ!!」
「お気持ち、お察し致します。そこで お話があるのですが、宜しいでしょうか?」
「だ 誰だ!? 俺の話を盗み聞きしてやがったな………お前らから聞く話などない!!」
アランがフラフラになりながら愚痴っていると、路地裏からヌッとローブを着て顔を隠している人間が2人現れる。
そんな男を怪しく思ったアランは、話を無視して立ち去ろうとするが、そんなアランをある言葉を使って呼び止める。
「あの男に負けたいのですか?」
「なんだと………俺が、あんなカスに負けるっていうのか!!」
「少し拝見いたしましたが、あの男には異様なオーラを感じました………正直なところ序列で言えば10位以内に、割り込んでくるだけの実力があると思います」
この男たちはアランの性格をよく理解している。
その為に俺に負けると言っただけで、アランは止まってローブを着た人間たちの話を聞き始める。
そして男たちは俺の実力が、十二聖王の10位以内に割り込んでくるだけの力があり、現在のままではアランは手も足も出ないまま敗北すると助言される。
「テメェらを信じるわけじゃねぇが、どうやれば勝てると思ってんだ? 勝算があるから俺に接触したんだろ?」
「その通りにございます。そして勝利するための秘訣とは、こちらの魔石でございます」
「これは………まさか《スペリアル魔石》じゃないか!? 一般の所持は禁止されていて、日ノ国でしか作れない魔石だろ」
「そうです。普通ならばスペリアル魔石は、所持した時点で禁固刑が決まると言われています………しかし、我々は研究し人間を聖なる生物に押し上げるのです」
このスペリアル魔石とは、魔物から取れる魔石を加工したモノであるが、それだけではなくスペリアル魔石を所持する事で、魔力が無い人間でも溢れる魔力を手に入る。
前世の世界で言うところのドーピングの様なモノで、この国にでは《日ノ国》と言うところでしか加工できない為に、数が出回らず一般で持つ事を世界連盟は禁じた。
そんなモノを持っている怪しい奴らは、またも人間を聖なる生物にするなどと怪しい宗教の匂いがしてくる。
「お前らは何なんだ………」
「我々は《銀翼の夜明け団》です」
「銀翼の夜明け団だと!? どうして、こんなところにいるんだ………まさか!? いや違うか………」
銀翼の夜明け団とは前世でいうところのカルト宗教の様なモノで、禁忌の黒魔術を多くやっており近づかない方が良いと、子供でも知っている団体だ。
そんな銀翼の夜明け団から受け取るスペリアル魔石なんて、信用して良いのかと警戒度が再度上がる事になった。
「もちろん信用なんて出来ないのなら、断って貰っても構いませんとも………それで大負けをして、大衆の面前でGランクに負けたダサい冒険者だと言われても良いのならですが」
「言ってくれるじゃねぇか………スペリアル魔石は、魔力の操作が上手くない人間が使えば、暴走を起こして《魔人化》するんだったよな?」
「そうです。ですが、十二聖王の貴方なら問題なく使いこなし、それどころか最強ランクになるでしょう」
これこそ悪魔の囁きと言っても良いだろう。
前世の学校でも年に1回は、薬物防止教室やステロイドの注意喚起などを聞かされたが、まさしく授業で習ったところが、こんなところで活かされるなんて思ってもいない。
普通の人間ならばスペリアル魔石なんて受け取りはしないが、既に地位を手にして捨てられないアランは、悪魔から差し伸べられた手を掴んでしまったのである。
* * *
俺は自主トレをしようと城の中庭で、上半身裸になって筋トレや木刀を振っていると見慣れた顔が現れる。
「ほっほっほっ。こんなところで修行をしているとは、お主という奴は意外にも用心だのぉ」
「用心に越した事はないですよ。なんせ相手は、この世界で上位12人に数えられている冒険者です………十二聖王と五賢王の中で最弱としても人間の中では、トップレベルで強いですし」
どうして俺は、この人に軽く声をかけられてるんだ?
何の護衛も付けずに、俺の前へ国王を出すなんて側近の奴らは何を考えているんだよ。
いや違うな!? 俺の周りから何十人っていう人間の視線が感じられる………そういう事か。
まぁ王様が1人で来るなんてあり得ないか。
「それで俺に用事があったんじゃ無いんですか? 俺は国王だろうと対等に思ってます………まぁ年長者は敬いますけどね」
「その考え方は嫌いじゃ無いわ。お主に会いに来たのは、エルフ売買に関わっていた宰相を捕まえたって事じゃ………この事は、既にエッタという女子にも伝えておる」
「そうでしたか。その宰相は捕まったんですか………ソイツは何か言っていましたか?」
「覚悟した顔をしていたのぉ。いつ捕まって殺されるのを、覚悟していたって事じゃろうな」
エッタさんたちを苦しめた元凶が捕まったのは、とても素晴らしい事ではある。
しかし昔から思っている事だが、人を苦しめた人間が簡単に処刑で楽にさせるのは疑問だ。
「その男に会えたりしますか? 無理なら諦めますが………どうしますか?」
「お主は断ったら自力で探す気じゃろ。そんな面倒な事はせんでも良い………案内してやるからついて来い」
「感謝します」
話が分かる爺ちゃんで良かった良かった。
どうしてエッタさんを苦しめた人間の1人を見ないで、明日の決闘をやるなんて雑魚の俺には無理だな。
俺は国王の後ろをアヒルの子の様に着いていくと、牢屋ゾーンのさらに地下牢に、鎖でグルグル巻きにされて身動きが取れない宰相が椅子に座らされていた。
「アンタがエルフ族の奴隷化を進めた人間か? アンタが発端で今回の事件が起きたのか?」
「誰だ……お前に話すつもりなんて無い………さっさと俺の前から消え失せろ」
「死を覚悟したんだって? 泣き叫ぶ事せず、命乞いをする事もせず………ただただ唇を噛んで、アンタは牢屋にいるのか?」
「だから、さっさと消えろと言っているだろ!!」
あぁコイツは誰に対しての質問にも答えず、ただただ死刑を待つ事をしているんだ。
こんなダサい奴が国の政治をやっていたのか? それなのに国が綺麗って事は………才能はあったのだろうな。
「じゃあ1つだけ言わせてもらうが、アンタの覚悟ってのは死ぬ覚悟をする事か? それとも家族と共に、一家抹殺を覚悟するという事か?」
「なっ………」
コイツにも家族がいるのは確実。
それならコイツは黙り込んで、自分だけを殺させて家族は見逃してもらおうとしてるんだよな。
家族の為に死を覚悟するなんて、ここまでのストーリーを聞かなければ相当な覚悟だと言えるだろう。
「テメェの覚悟で、エルフ族の人たちは何人死んだ? それと引き換えに、アンタの命だけで足りると本気で思ってんのか?」
「家族は関係ないだろ!! これは俺が独断で動いた事だ!!」
「その稼いだ金で、家族を養っていたと? それは甘い考えなんだよ………良い加減、目を覚ませよ!!」
俺は久しぶりに声を荒げた。
あの奴隷商に関しては、エッタさんが成敗した。
それなら俺も少し発散させてもらうよ。
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