145:不遇の国
トゥンシム王国とカルプ領は長年に渡って、意見の相違から小競り合いを行なっていた。全面戦争にこそなっていなかったが、カルプ領の独立をトゥンシム王国が認める事なく突っぱねている状態だった。
「どうして認めてくれないのですか!!」
「本気で認めると思っておるのか? 其方らの領土は、このトゥンシム王国のモノなのだぞ?」
「それは違うではありませんか!! 元々はフロマージュ王国から独立した後に、トゥンシム王国と併合しただけで、我々の自治権は認められているはず!!」
カルプ領の人間からしたら、トゥンシム王国から独立して世界連盟に加盟したいと思っている。しかし周りに独立国を作られたくなく、カルプ領ではトゥンシム王国の兵士が持つ武器の生産を行なっている。
このカルプ領での武器生産が奪われてしまったら、トゥンシム王国での兵力が下がってしまうのと、周りの国に裏で売っていたので収益が減ってしまう。それらの理由からカルプ領は、絶対に手放したくない領土だった。
「それならば食料を、もっと我々の領地にも分けては貰えないでしょうか!!」
「それはできん相談だな。食料が不足しているのは、どの地域でも同じ事、それをカルプ領だけ増やすというのは認められない」
「我々の自治権も認められない、食糧も増やす事もできない………あなた方は何がしたいのですか!!」
あまりにも話にならない為、カルプ領の領主は怒鳴り散らす形になってしまっている。
そんな風に話し合いが難航している時に、領土拡大を目指すアフェリア王国が、トゥンシム王国に攻め込んできて戦争が始まった。
もちろんカルプ領も戦争に駆り出されるのであるが、その時に領主は側近を集めて話を行なっていた。どうにか、この戦争を機に独立しようと考えている。
「ここからの物資供給を止めれば、トゥンシム王国の戦況が悪くなってくるんじゃないか?」
「その通りですね。まだ突然に供給を止めたら、怪しまれて攻め込まれる可能性があるので、そこは裏で内密に取引するのが良いかと思います」
「そうだな。直ぐにアフェリア王国の陣に、使者を送って話を通して来い」
そこからカルプ領とアフェリア王国は内密に取引を行なって、遂にはトゥンシム王国から無事に独立する事に成功したのである。
しかしそこから始まったのは新たな地獄だった。トゥンシム王国から独立できたのに、次はアフェリア王国に支配される日々が始まってしまったからだ。
「どうなっているんだ。やっと、あの地獄から抜け出せたと思ったら………」
「どうしますか? このままでは、支配する国が変わっただけで状況は何も………」
「どうするべきなんだ!! 独立戦争を仕掛けるにしたって、今の武力では相手にならないぞ」
地獄を変えたいのであるが、どうしたら変わるのかと領主は頭を抱える日々である。独立戦争を仕掛けるにしても、アフェリア王国とカルプ領では戦力が明らかに異なり過ぎているのである。
「トゥンシム王国に交渉するぞ。独立はするが、これからも武器の取引を行なうという条件でな」
「それは、あまりにも都合が良すぎるのでは?」
「それでも支配されるよりかはマシだ………直ぐに会談の準備をしろ!!」
カルプ領は恥を捨ててトゥンシム王国との取引を行なった。その取引の条件はアフェリア王国からカルプ領を独立させる代わりに、現カルプ領の領主を辞めさせて用意した人間に代える事だった。
「領主を代えるなんてあり得ませんよ!! しかもトゥンシム王国側が用意した人間なんて………」
「それしか、カルプ領を助ける術は無いのだ………聞けば私の遠戚に当たる人だと聞く、それならば問題は少ないだろう」
トゥンシム王国が提案してきた条件を、カルプ領の領主は受け入れる事にした。それによってトゥンシム王国はカルプ領内のアフェリア王国兵を一掃し、カルプ領を独立させたのである。
そして新たにノースカリクッパ王国を建国すると、初代国王に《チョン=オーイン》が即位した。そこからノースカリクッパ王国の絶対王政が始まった。武器生産国家であるノースカリクッパ王国は、食料問題を解決する事ができずに建国から直ぐ貧困に襲われる。
これらの何とも言えないような歴史が、ノースカリクッパ王国の全てである。
* * *
エッタさんたちはパクから、ノースカリクッパ王国についての歴史を聞いた。感想としては、あまりにも不遇な歴史を辿ってきたのだと素直に思った。
「という事は、現在の国王もトゥンシム王国が用意した国王の血縁という事ですか?」
「その通りです。現在は3代目となっていて、初代国王の孫となっております」
「孫ですか。辞めさせられた領主は、国外への追放されたんですかね?」
「元領主の方は、暗殺されてしまったと聞いています。つまりはノースカリクッパ王国は、トゥンシム王国の都合の良い国というわけですね」
聞けば聞く程に、どれだけついていない国なのかと思ってしまうくらいだ。これらの話からノースカリクッパ王国が、どうして貧困なのかを理解する事ができた。
それらの理由を聞く限りでは、国民から不満の声が上がって内乱になるのも納得する事ができる。
「本当に本日は、我々に手を貸してもらって感謝のしようがありません………あのままでは、この街が陥落されていてもおかしくはありませんでした」
「良いんですよ。私たちファミリーの鉄則は、困っている人には手を貸すですからね」
エッタさんが俺の考えを尊重して、自分なりに考えている事に嬉しく思える。そしてエッタさんたちの善行によって、この都市は陥落せずに済んだのである。
「それで我々は、明日から北の地にある国王軍の基地を攻め落とそうとしているのだが………あなた方にも手を貸してもらえないだろうか?」
「私たちが要塞陥しに手を貸せと? 確かに困った人を助けるのは、決してやぶさかでは無いですが………ミナト様たちを待ちに残したままでは何とも」
エッタさんたちに街から、手を貸して欲しいという依頼を出されたのである。エッタさんとしては、俺の指示が無ければ何とも言えないと答えを出そうとした。
「南の基地なら街によってからでも遅く無いんじゃないかにゃ?」
「えぇ来て下さるのなら、街によって貰っても遅くはありません」
街によって俺に許可をとってから向かっても良いと言ってきたので、それなら仕方ないと折れる事にした。
エッタさん的には俺たちと先に進みたいところなのだが、人に頼まれて断るのも申し訳ないので俺の許可によって決める事にしたみたいだ。
「それじゃあ私たちは、先に寝させてもらいます」
「えぇ今日はゆっくりと休んでくださいね」
「やっと寝れるわん!!」
「カエデは、ほぼ日中でも寝てるにゃ………」
「なっ!? 余計な事は言わなくて良いわん!!」
エッタさんたちは街の人に休む旨を伝えてから、用意してもらった各自の部屋に戻って休息を取る。そして運命の日がやってくるのである。
昨日まではあったはずの街が、丸々と消えているのをエッタさんたちは目撃する。
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