139:エティーニャの指輪
俺たちは遺跡の奥に辿り着いた。
あまりにも大きな女神像に呆然としていると、俺の目の前の景色がグラッと歪んだのである。何が起きているのかと思っているうちに、俺の意識は完全に途絶えた。
「うわぁ!! な 何だったんだ………ん? ここって何処だ? 何か来た事があるような気がするんだけど」
俺が次に目を覚ましたのは、真っ白な空間の中だったのである。その空間は何処まで続いているのか、真っ白過ぎて分からないくらいに白い部屋だ。
俺は訳も分からず、何かのトラップだったのかと周りをキョロキョロしながら状況を判断しようとする。しかしあまりにも情報がなく頭を掻きむしる。
「イライラしちゃダメだ。こういう状況で、怖いのはパニックと怒りに飲み込まれる事だ………」
こんな訳も分からない状況になった場合、大切な事を俺は身につけているつもりだ。パニックに陥るのと、怒りで我を忘れる事だけはやってはいけない。
そんなわけで深く深呼吸をしてから、状況整理をする為に座って腕を組み目を瞑る。どうして、この光景を見た事があるのかを思い出そうと頑張る。
「あっ。思い出した、あれはララトゥーナに初めて会った時の部屋だ………」
『おぉ良く分かったのぉ。まさかバレるとは思わなかったぞ。さすがはララトゥーナが見つけただけはある』
「やっぱり!! ここって神の領域か………にしても、どうしても俺が神の領域に? まさか死んだ!?」
『そういうわけではない。まぁ少しは落ち着け』
ララトゥーナとの思い出が頭の中に浮かんで、ここが神の領域だと気がついたのである。すると世界だと言わんばかりに、紫色ロングヘアの美人が現れた。
それにしても神の領域にいるという事は、俺は死んでしまったのかと、さすがにアタフタしてしまう。そんな俺で見て、女神的な美人が落ち着くように促す。
「あなた様は、どなたなのでしょうか? 見る限り女神さまと、お見受けしますが………」
『おぉ中々に良い目をしておるな。私はララトゥーナと同格の女神である!!』
「エティーニャ様ですか!! それはそれは俺なんかに神々しい姿を見せていただきありがとうございます」
『其方は分かっておるじゃないか!! この私の眷属にしてやっても良いのだが………それはさすがの私でもララトゥーナに悪いからな』
ここで失礼な態度をとって殺されても面倒なので、とりあえずは尊敬する方向で行ってみた。すると俺の作戦が成功して、エティーニャ様はご機嫌みたいだ。
それにしても気に入ってくれたみたいで、俺の事をエティーニャ様の眷属にしてやっても良いという提案もあったが、ララトゥーナ様との関係もある為に無しだ。
「それで俺が呼ばれた理由というのは、どんな理由なのでしょうか? 死んでいないというのなら、どんな理由なのか気になってしまって………」
『こっちからしたら、其方が勝手に来たんだぞ?』
「ん? それって、どういう意味で………」
『どういう意味って、そのままの意味だが? 私がくつろいでいるところに、其方が突然に現れたんじゃ』
どういう事なのだろうか。俺は自分の意思で、この神域に来たつもりはない。だが、女神であるエティーニャ様が嘘をつくような人にも見えない。
ならば俺が神域にした理由というのは一体、どんな理由なのだろうか。俺とエティーニャ様は、互いに見つめ合ってからキョトンッと首を傾けるのである。
『もしかして、何処かの教会で礼拝してたんじゃない? それだったら、もしかしたら神域と其方が繋がった可能性はあると思うぞ』
「いやぁ。礼拝はしてないんですけど………ノースカリクッパ王国っていう国にある遺跡に居たんですけど」
『ノースカリクッパ王国………あっ!! そういえば昔になるが、ノースカリクッパ王国の何処かに私の像を作ったという話があったな!!』
話はようやく繋がった。
どうやら俺がいた遺跡の像は、エティーニャ様らしく前にも神域にいた俺と、ここの空間が繋がったから来れたのだという結論が出た。
「なんとか謎が解けましたね」
『そうじゃな。まぁここで出会えたのも、なんかの縁じゃし………其方に、コレをやろう』
なんとか謎が解けたところで、俺たちは安心してホッと胸を撫で下ろす。エティーニャ様は、ここで出会えたのは何らかの縁だと言って、目を瞑って願うと指輪が現れたのである。
「この指輪は………」
『この指輪は、私の名前を付けたモノ………誰か、大切な人にあげると良い』
「それでは感謝いたします………」
俺はエティーニャからの貰った指輪を手に取ると、また意識が遠くなっていくのである。そして気がつくと俺は地面に横たわってイローナちゃんたちに囲まれる。
「目を覚ました」
「良かったでござる!! 突然倒れた時は、何があったのかと心配したでござるよ」
「たく。妾を心配させるんじゃないわ!!」
目を覚ました事に3人とも安堵した。
俺はルイちゃんの手を借りて立ち上がると、ズボンのポケットの中に、エティーニャ様から貰った指輪が入っていて夢じゃない事を実感する。
そして探索を終えた俺たちは、広間を出ようとするのであるが、俺はとりあえずエティーニャ様の像に頭を下げてから広間を出た。そしてグールとの遭遇なんかもありながら、俺たちは無事に遺跡の外に出られた。
「ん? 何かおかしくないか?」
「確かにおかしいでござる………」
「街が消えてる」
「消えておるな」
俺の目線の先に異変があった。その異変は俺だけじゃなく、イローナちゃんたちも感じているモノだった。
その異変とは、さっきまでは目線の先にあった街が消えてしまっている。いや、正確にいうのならば全ての建物が倒壊しているのである。
あまりにも突然であり、そうなる兆候と分からなかった為、俺たちは困惑して立ち尽くしている。しかし少しの間を置いてから、俺はエッタさんたちを思い出して街に向かって馬を走らせる。
* * *
クロスロード連盟軍・本部では、トラスト中将によるネルマ元帥への抗議が行なわれている。ブギーマンを捕まえに行きたいというトラスト中将の頼みを、ネルマ元帥は真っ向から拒否するのである。
「何回来ても同じだ!! お前たちを非加盟国に送るような事はしない!!」
「どうしてだっ!! ブギーマンが、女神の雫を売り捌いているという情報を手に入れたんだぞ!!」
「だから、どうしたんだ? 俺たちの上が、非加盟国に手を出すなと言っているのが分からないのか?」
トラスト中将はネルマ元帥の意向に、全くもって納得する事ができず、食い下がって口論になっている。
ネルマ元帥としても正義の為にというのは理解できるが、自分たちの上が非加盟国に向かう事を許可しないのである。それもそのはず、クロスロード連盟軍の上層部は面倒ごとを起こしてほしくないからだ。
「お前は、いつから正義よりも上司の顔色を窺うような人間になったんだ………」
「これも正義のためだ。世界連盟がなければ、世界の秩序もクソもないだろ」
「ちっ。大人ぶりやがって………」
確かにネルマ元帥の言いたい事も理解できる。
今回は引き下がるしかないと、トラスト中将は元帥の部屋を不貞腐れながら出ていくのである。
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