132:気を使う
俺たちは手厚い歓迎をしてくれた街を出発する事になった。そしてノースカリクッパ王国内を探索して、ローズちゃんの心臓を取り返す旅を開始する。
「この国に、どうにかギルド・ボガードの手がかりが見つかれば良いけどな」
「問題ないと思います。この国の王族と関係を持っているのは確実なので、絶対にギルド・ボガードの情報は手に入ると思います!!」
俺としては時間を費やしてもギルド・ボガードの情報が手に入らなかった時が怖い。それを懸念していたが、エッタさんは必ず情報は手に入ると励ましてくれる。
とにかく行動してみなければ分からないと、俺たちは馬車に乗り込んで市長に感謝を伝えてから出発した。
「とりあえず首都に向かおうか」
「ここから首都でしたら、3日あれば到着しますね」
「思ったよりも近くて良かった。それにしても黒戦病に関して詳しく知らないんだけど、俺たちに感染したりとかってしないの?」
出発したところで俺はふと、黒戦病という世界三大疫病に関して疑問に思った。それって普通に俺たちに感染しないのかと言う事を。
「私たちは魔力量が多かったり、魔力操作に長けているので感染しても重症にはなりませんね」
「え? どうして魔力量とか、魔力操作に長けていると重症化したりしないんだ?」
エッタさんが言うには魔力量が多かったり、魔力操作が上手い人間なら重症化しないらしい。それを聞いたところで、全くもって原理が理解できない。キョトンとしている俺に、エッタさんが優しく教えてくれた。
「何と言いますか、魔力が免疫の働きをするという風な言い方が合ってると思います」
「あぁそう言う原理なのね」
やっと理解できた。
魔力は全身を回っているので、体内の細胞と同じように魔力が病原菌を殺すらしい。だから魔法を上手く使える人間と、魔力量が多い人間は黒戦病にはかからないらしいのである。
だから農民とか普通の人の場合は、細菌に負けて黒戦病にかかって重症化してしまうらしい。
「この国の人たちは、まともに食事も取れていないので魔力量も十分じゃありません」
「だから黒戦病が流行ってるのか」
「はい。黒戦病は名前の通りに体が黒くなっていく病気です。体の半分が黒くなってしまったら手遅れです」
前世でいうところのペストと同じなんだろうか。
それにしても体が黒ずんでいって、最後には死んでしまうなんて凄まじい病気だな。昔みたいに手の施しようは無いのだろうか。
「じゃあ黒戦病って治らないの?」
「食事が要因なら十分な食事と休養を摂る事で治りますし、そもそも聖魔法を使えば治せます」
「へぇ聖魔法で治せるんだ。でも、その聖魔法を使ってもらうにも金がかかるってわけか………」
「その通りです。教会や自分でやっている人たちに、聖魔法を使ってもらうと高くついてしまいます」
本当に世の中というのは金が全て何だなと思ってしまうんだよなぁ。俺自身のできる事への限界にも嫌気がさしてくるもんだ。
そんな無意味な事を思いながら俺は立ち上がって、馬車の手綱を握っているカエデちゃんのところに行く。
「昨日から手綱任せちゃってるけど、俺が代わりにやろうか?」
「問題ないわんよ。それに、ここは凄く揺れるからミナトさんは直ぐに酔っちゃうわん」
「そ そうなんだ。それなら止めておいた方が良いかもしれないね………」
手綱引きを変わろうかと思ったが、どうやら乗っているところよりも揺れるというので止めた。俺が酔ったせいで皆んなが怪我するのだけは避けたいからだ。決して俺自身が酔うのが嫌だからではない。
そんな感じでカエデちゃんに断られたところで、俺は座っていたところに戻って静かに座る。イローナちゃんに哀れな感じで肩にポンッと手を置かれた。何とも言えない気持ちになったので、話を変えるべく俺はイローナちゃんに話を振るのである。
「イローナちゃんって、何処の出身なの? 中々にミステリアスな雰囲気を醸し出してるけどさ」
「忘れた……」
「忘れたって、もしかして孤児とか? それなら俺と同じだけど………」
「孤児じゃないよ。両親の顔も覚えてる………でも、私は過去を忘れて生きてるの」
中々にかっこいい返答が来て、さすがはイローナちゃんだと思ってしまった俺ガイル。それと同時に、きっと故郷の話はしたくないのだと思った。
それはクールなイローナちゃんの目が、明らかに寂しそうな目をしたので直ぐに分かった。降った話が、まさか気まずくなってしまうとは俺も、まだまだ女の子の扱いは慣れていないみたいだ。
「私の事は良いの。そのヴァンパイアが、何処から来たとか聞いた方が良いと思う………」
「確かにそうだね。ローズちゃんは、何処から来たんだい?」
「妾の故郷か? そんなに知りたいのなら教えてやっても良いが………聞いて驚くなよ!!」
そんなに聞かされたら驚いてしまうところの出身なのだろうか。俺たちの間に少しの緊張感が走って、俺は固唾を飲んでローズちゃんに聞き入る。
「妾の出身は《サルマーレ公国》じゃ!!」
「ん? サルマーレ公国……って、あの中陸の南に位置する国だよね?」
「そうじゃよ?」
なんという事だろうか。サルマーレ公国は、何とも言いづらいが普通の平凡な国である。
どうして、そんなに勿体ぶって言ったのかと疑問を持ってしまうくらいに普通の国である。変わったところと言えば、夜になるのが早いというところくらいだろう。
「そんなに驚く事じゃなかったにゃ………」
「なっ!? 何を言ってるんじゃ!! あのサルマーレ公国なんじゃぞ!!」
「だから驚く事も無いにゃ」
「シュナちゃん!! 年長者は、ほんの少しだけでも敬ってあげようよ………」
シュナちゃんの辛辣な言葉に、その場にいた俺たちが一瞬にしてピクッとなった。それはもちろん全員が思った事だが、気を遣って言わなかったからである。それを言えてしまうシュナちゃんのメンタルの強さに、俺たちは感服してしまうくらいだ。
しかし当の本人であるローズちゃんは、凄い事だと思っていたのでプルプルッと震えながら、今にも泣きそうになっている。
「ローズちゃん、ローズちゃん!! サルマーレ公国の出身なんて凄いよ!!」
「本当か? 本当じゃろうな?」
「本当本当っ!!」
俺は泣かれては困るので全力で援護する。涙でウルウルしている目を見るのは辛すぎる。俺に続くようにエッタさんたちも、アワアワしながら手を貸してくれる。
「そうじゃろ、そうじゃろ!! 妾の国というのは凄いんじゃよ!!」
「ふー。何とか誤魔化せた………皆んな助けてくれてありがとうね」
「いえいえ。こんな狭いところで、大泣きなんてされた日にはたまったもんじゃ無いですから………」
何とかローズちゃんの機嫌が戻ったところで、俺はエッタさんたちに感謝して横になるのである。酔ったとかではなく、ご機嫌を保つのが大変だと疲れが溜まってしまっている。
それでもローズちゃんが、心臓を取られているのは可哀想だと俺の意思が言っているので、手伝うのはやぶさかでは無いのである。
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