123:本部中将の力
俺に完全敗北を喫したオリヴァーは、俺が王城を後にしたタイミングでかろうじて意識を取り戻す。しかし少しの拍子で、また気を失ってもおかしくはない。
「ここまで来たら、もう後戻りできないんだよ………あんなガキに、俺の計画を阻まれるわけにはいかない」
俺に負けはしたが、何らかの計画を実行してやると足腰がフラフラになりながら立ち上がる。そして壁伝いに歩き始めると、あの神殿がある地下に降りていく。
手足には蟻地獄で喰らった攻撃の怪我で、ぽっかりと穴が空いておりポタッポタッと血が垂れている。オリヴァーが歩いてきた道は、完全に殺人現場があるのではないかというくらいに悲惨なものだ。
「はっはっはっ!! 俺の計画が、遂に完遂される時が来た………」
オリヴァーは木彫りの女神像の前に立った。どうやらオリヴァーの計画を完成させるには、この木彫りの女神像が必要不可欠らしい。
そのままオリヴァーは自分の血を指に付けて、木彫りの女神像の腹の部分に五芒星を描いた。そして地面に座り頭を下げて何と言っているのか、分からない言語で祈りを捧げ始めたのである。
すると木彫りの女神像が光出して、オリヴァーは感動と共に眩しくて目を瞑る。光が収まったところで、パッと顔を上げると、そこにはスミカと同じ顔をした全裸の女性が立っていた。
「つ 遂に成功したんだ………やっとスミカが復活したんだ!!」
「お前か? 我を呼んだのは?」
「そ そうだ!! スミカだろ? 俺の事を忘れて………まぁ歳もとったし当たり前か」
オリヴァーは、この目でスミカを見られて嬉しいあまりに涙が出ている。しかしオリヴァーには違和感があった、それはスミカの口調がおかしかったからだ。オリヴァーとしては自分が歳をとったからじゃ無いかと思う。
「スミカ、どうかしたのか? オリヴァーだぞ。忘れたわけじゃな………あっ!?」
「下等な種族の お前なんて知らん。この我を、この世に受肉した事を後悔させてやる」
オリヴァーが自分の事を思い出させようと、近寄った瞬間にスミカの腕がオリヴァーの腹を突き破った。何が起きたのかとオリヴァーは困惑しながら、口から血を吐いて地面に両膝を着く。
そのままオリヴァーの首をスミカが刎ねた。スミカの体に受肉したのは、スミカの魂ではなく完全なる悪魔そのものだったのである。
これが俺たちの前に現れた、スミカの体をした悪魔の正体だった。話は現代に戻って、トラスト中将たちの前にスミカが仁王立ちしている。
「悪魔となったら話が変わってくるな。隊員たちを、直ぐに引かせろ………コイツらは、悪魔とやるには荷が重たすぎる」
「了解しました……直ぐに隊列を組んで、市民の避難を優先させろ!!」
トラスト中将は自分たちの部下では、悪魔と戦うにしては荷が重たすぎると言って引かせる。
「いててて。悪魔が出るなんて聞いちゃいねぇよ………オリヴァーとの戦闘で魔力が底をついたぞ」
「君に頼ろうとは思ってはいない。久しぶりの現場で、俺が人肌脱ぐとするか」
俺は瓦礫を退かして立ち上がると、悪魔と戦うには魔力がない事をトラスト中将にいう。それを言われたトラスト中将は、俺に頼る気は無いと言って上着を脱ぐ。
「トラスト中将。拙者も手伝うでござる」
「ユウト中将。君もフロマージュ王国に、やってきていたのか………」
「ござるって事は、アレがルイちゃんの父親か………似てるなぁ」
トラスト中将たちの前に現れたのは、ルイちゃんの父親であり本部中将の《ユウト=サザンザール》だった。
あまりにもルイちゃんと似ていたので、俺は直ぐにルイちゃんの父親であると分かった。凛々しい顔に、立派な翼と尻尾という特徴がある。
この場に本部中将が2人いるというのは、かなり強力な事で悪魔とも渡り合えるのでは無いかと、俺は勝手に思っているのである。
「たかだか下等な人間と、ヤモリが束になったところで最強の悪魔である、我に勝つ事はできないぞ!!」
「そうか? それなら中将として、ほんの少しの本気を見せてやるとしようか!!」
――愛の拳骨――
「拙者も微力ながら手を貸させていただくでござる」
――純粋必殺――
「天和って親で麻雀が好きなのか………」
トラスト中将が飛び出して、その隙にユウト中将は刀を握ってグッと力を込めている。飛び出したトラスト中将は、拳骨とは思えない程の威力で悪魔の顔面を殴り飛ばしたのである。
そして悪魔が吹き飛んだところに狙いを定めて、ユウト中将は刀を抜いて一撃で悪魔の首を刎ねた。悪魔は強敵だと聞いていたのに、2人の中将によって2撃で倒してしまった。
「なっ!? 下等な人間とヤモリ如きに首を刎ねられただと!?」
「悪魔だと思って気張ってみれば大した事がない」
「きっと下位悪魔でござるよ」
「ふざけるな!! この我が下位悪魔なんかじゃない!! 次に受肉したら、お前たちを真っ先にころしてやる!!」
首を刎ねられたというのに、悪魔は灰になるまで口を動かして喋っていた。あまりにも弱いと感じた為に、トラスト中将とユウト中将は落胆していた。それに対して怒りを露わにしながら悪魔は消えていった。
俺は2人の手際の良さに言葉を失ってしまうくらいだった。本部中将の強さとは、まだ俺が勝てる領域では無いのだと実感するくらいである。
* * *
俺たちが悪魔退治をしている様子を、銀翼の夜明け団の末端団員が見ている。そして見ていた事を電話で幹部のグルオンに報告した。
「なんだと? あのオリヴァーが、悪魔の召喚に成功していただと………それは本当なのか? 強さは、どれくらいのもんだ?」
『オリヴァーが召喚したのは、事実でありますが………クロスロード連盟軍の中将に、早くやられてしまった為にデータは取れませんでした………』
「トラスト中将が来ていたのは知っていたが、まさかユウト中将まで来ているとは………だが、オリヴァーが悪魔を召喚したという事実は十分な収穫だ」
部下からのオリヴァーが悪魔を召喚したという報告を受けて、グルオンは驚くと共に報告した事を褒める。この情報は銀翼の夜明け団としては、素晴らしい収穫と言ってもおかしくはない。
そのまま報告してくれた部下に良くやったと褒めてから、グルオンは電話を切るのである。そして今の報告を自分の上司であるラストに伝えるべく電話を繋ぐ。
『どうしたんだい? この私に電話をしてくるなんて、よっぽどの収穫があったのかぁ?』
「もちろんです。オリヴァーが、悪魔の詳細はありませんが召喚に成功した模様です………」
『なんだって? それは本当かい?』
「えぇ!! 私の部下が、自分の目で確かに悪魔を目にしたと言っています………この事を直ぐに、ラスト様に伝えたく電話をさせていただきました」
悪魔を召喚する事ができたという事実は、あのラストすらも驚かせる事実だという事だ。
『さすがは出世有望株のグルオンね。このペースなら大幹部になるのも近いんじゃ無いかしら』
「そんな自分は、まだまだですよ………」
ラストはグルオンを珍しく褒めるのである。
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