119:やる気スイッチ
俺の発言にオリヴァーは怒り心頭のようだ。それもそのはず、俺はオリヴァーを怒らせるようにしたのだから。
どうして怒らせたのかと言われてしまったら、怒らせる事で思考を単調化させる為の作戦だ。しかし思ったよりも、オリヴァーは怒っているみたいで驚きだ。
「苦しんで死ぬように殺してやる。今になって後悔しても遅いと思えよ!!」
「後悔だって? この人生で、後悔なんてした事ない………つまりは? 今回も後悔なんてしないってわけだ」
「その自信も、へし折って俺と戦った事を後悔させてやる」
オリヴァーは俺に対して宣戦布告をしてから、グッと腰を入れて踏ん張ると俺に向かって走り出す。やはり怒って本気を出した事もあって、さっきまでとは比べ物にならない速度が出てる。
このままなら普通に殴られて吹き飛んでしまうだろう。ただ殴り飛ばされるのだけは納得できない。だからこそ、俺も腰を入れてオリヴァーが向かってくるのを迎え撃つ。
「そんなもんで俺の鉄拳を止められると思うなよ!!」
「そうか? それなら尚更に止めたくなってきたな!!」
・筋力増強魔法Level2
・土魔法Level2《土武装》
――土鎧――
オリヴァーは渾身の鉄拳を使って殴りかかってくる。それに対して俺は土魔法と筋力魔法の合体技で、オリヴァーの鉄拳にタイミングを合わせるのである。その瞬間にバリバリッと空間が、裂けるような音と共に衝撃波が生まれた。
衝撃波によって王の間の窓ガラスは割れて、それどころか中の壁に大きなヒビも入った。それくらいの衝撃なんだと、戦いの素人でも凄まじいのだと理解できるレベルにある。
侍と侍の鍔迫り合いのように、俺とオリヴァーは拳を振り抜く為に全身全霊でぶつかっている。ギリギリのところで均衡を保っていたが、さすがき怒らせ過ぎたかパワーが増していた。
「互角にやってるのは褒めてやるが、まだまだ子供みたいなパワーだな!!」
「くっそ!!」
「どうだっ!! くっはっはっはっ!!」
さすがは伝説の傭兵と言ったところか、俺が押し耐えているところでオリヴァーのパワーが増していた。そのまま俺はオリヴァーに押し切られて、王の間の反対側まで吹き飛ばされた。
さっきまでオリヴァーの事を煽っていた俺を、自分自身で殴り飛ばした為に、気持ち良いのか笑いが止まらないでいる。それにしたって伝説の傭兵が、俺みたいな若造を殴り飛ばしたくらいで大笑いしているのは、どうなんだろうか。
そんな風に思っていながら俺は瓦礫を退かして、痛いと思いながら立ち上がる。思ったよりも遥かに重たいパンチで、さすがは本気を出した伝説の傭兵だと感心している。
「いててて。さすがは伝説の傭兵だな………」
「これは、ただの始まりだ。もっともっと体に、俺には向かった事を後悔させてやる………これじゃあ足りないからな」
どうやらオリヴァーは、俺を殴り足りないみたいだ。まぁあれだけ煽っていれば、まだまだ怒り心頭なのは理解できる。
しかし俺を向こうから叩き潰そうとしている分だけ、オリヴァーの思考は単調になるからありがたい。伝説の傭兵だろうが、動きが単調になれば俺でも対応できる。
「さっさと立てよ。まだまだ始まったばかりなんだからな」
「言われなくても立ちますとも。ん? もしかして、俺の側に居たんじゃ無いのかなぁ? 良いんだ、男にもモテちゃうって有名だからさ」
「まだ、そんな口を聞けるとは驚いたな………恐れ知らずか、ただの馬鹿なガキか」
オリヴァーは俺に早く立てと催促してくる。
そんなオリヴァーに、またも俺は冗談を言う。今度は冗談をいう俺に恐れ知らずか、ただの馬鹿なのかと言ってくる。俺が馬鹿なのは自分自身で理解しているつもりだ。
俺はオリヴァーに催促されながら立ち上がると、全身に付いた汚れを払って、フゥーッと深い溜息を吐いて動いた。意表を突いたつもりでは無いが、攻守交代だと言わんばかりにオリヴァーへ突進して行くのである。
「何回も同じような突進攻撃だけ………そんなに俺をコケにして楽しいのか!!」
「そう見えるか? そう見えるのなら、そう思ってもらっても構わないぞ………ただ、お前が地獄を見るだけだがな」
俺が何度も真っ正面から向かってくる事に対して、馬鹿にしているのかと言ってきた。こんな状況で馬鹿にしていると思っているのだろうか、そんな筈が無いのに。
俺は逆にオリヴァーが、馬鹿正直に俺の拳を狙って鉄拳を放ってきたのを確認する。その瞬間にグッとしゃがむようにして、オリヴァーのパンチを避けるのである。完全に腕が伸び切ってしまった為に、オリヴァーは防ぐ手立てがない。
「ゔっ!?」
「そう何回も馬鹿みたいに真っ向からやるかよ!! でも、まだまだ攻撃は止めないからな!!」
俺はオリヴァーのガラ空きの腹に、どストレートのパンチを打ち込んで頭が前に落ちる。そこへ俺は膝を入れて、次は顔面が打ち上がるので、2度目の腹への攻撃は蹴りを入れた。
完璧な打撃を喰らったオリヴァーは、後ろに蹌踉めくと地面に膝と片手を着ける。そのまま手を腹と顔に持っていき、相当なダメージが入った事が理解できる。
俺としても完璧な打撃が、ここまで入れられるとは思っていなかったので、それには少し驚いている。オリヴァーの様子を見てみると、ダメージ的にも申し分ないんだと分かった。
「どうした? さっき俺に言ってた割には、ほんの少しの打撃で膝を着いちゃって………そんなに浸りたい痛みだったか?」
「ふっ。確かに真っ向からやるだけじゃ無いみたいだな………ただの馬鹿だったら少し残念だったが、これで心置きなく戦えるってわけだな」
「そうか? 俺としては、こんなもんで痛がられたら困っちゃうんだけどな………ただのパンチだぞ?」
「ただのハンデだ。それくらいやらないと、俺が虐めてるように見えちまうからな」
どうやら俺の拳がオリヴァーのやる気スイッチを、さらに入れる形になったみたいだ。これで何度目のスイッチを入れる事になったのだろうか。少なくとも3回はスイッチを入れている。
まぁこんな冗談は良いとして、さっきみたいに本気でやってもらわなきゃリベンジマッチの意味がない。もっともっと良い感じにスイッチが入ったオリヴァーを倒せば、周りの女の子からの評価が上がって行くのは確実だろう。
「さっきよりも難易度を上げようか。今度は楽しんでもらえると思うぞ………いや、楽しめ」
――徒桜の舞――
「また分身かよ。それが俺に通用しないのは、もうアンタだって分かってるんじゃ無いのか?」
「そう思うか? まぁまぁ良いから味わってみろ………それなりに良い感じに味わい深いぞ」
「たくっ。別に良いけど、この分身は怠いんだよ………やってやるしかねぇか!!」
オリヴァーは立ち上がると花びらで分身を作る。花びらの分身は4体で、俺に向かって4体同時に走ってくる。
倒すではあるが、それでも分身を相手にするのは面倒なところが多い。それでもやらなければやられてしまう。
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