110:ババアじゃない
俺がオリヴァーの後を追えたのは、エッタさんたちが共和傭兵団の3つの隊を足止めしてくれているからだ。もちろんエッタさんとイローナちゃんだけではなく、フローレンの冒険者チームも足止めに力を貸してくれている。
「あのガキは死ぬよなぁ? オリヴァー様との一騎打ちを望むなんて、頭のイかれた野郎だ!!」
「ミナト様を馬鹿にしましたね? ミナト様に変わって、私が馬鹿な人間たちに鉄槌を下します!!」
「エッタさん、男らしい………私も手伝う」
俺の事を頭のおかしい奴だと第1師団長の《カルロ=デ=プレスティア》は小馬鹿にしていた。そんなレベルの低い悪口なら俺が、その場にいても怒りはしないだろうが、エッタさんが完全にプチンッと来たみたいだ。エッタさんと、カルロの対戦が決まるとイローナちゃんも参戦した。
その少し左側ではフローレンたちの前に、力を警戒して第2師団と第3師団の2つが現れた。完全に数の力で十二聖王のフローレンたちを押さえ込もうとしている。フローレンは他の冒険者たちとは異なり、攻撃の魔法を対して持っておらず、回復魔法で十二聖王まで上り詰めている。
「コイツは戦闘になったら、ほとんど役に立たないみたいだぞ」
「手柄を挙げた人間には、報償金を渡してやるぞ!! その代わり身包み剥がした後は俺たちがもらうぞ!!」
高らかにフローレンの事を貶しているのは、第1師団長《アンドレア=フォリエ》と第2師団長《ジーノ=ロッカ》である。
そんな事を間近で聞いている仲間のアラグは、完全に堪忍袋の尾が切れて怒号を上げる。
「黙って聞いてればよぉ!! うちのヒーラーの事を、自由に言いやがって………タダで済むと思うなよ?」
アラグは完全にブチギレて剣を抜くと、フローレンの事を悪く言ったアンドレアとジーノに向かって走り出す。それに続くようにカールハインとモニカも走り出した。
それを横目でいていたエッタさんたちも、こっちで戦闘を始める為に前衛をイローナちゃんに任せる。
カルロは前世でいうところの角刈りに、男っぽく角張った顔をしているガタイの良い男だ。イローナちゃんがカルロに向かって走り出した瞬間に、女だからと舐めずファイティングポーズを取るのである。
「おいおい。そんなに張り切るなよ、最初から飛ばしてると直ぐに息が上がっちゃうぞ?」
「直ぐに終わらせれば息は上がらない………」
イローナちゃんのパンチを、カルロは真っ向から受け止めると中々に強気な発言をする。しかしイローナちゃんは、直ぐに決着をつけると言って地面に倒れ込む。
するとカルロとエッタさんの線上に、何も障壁が無くなってカルロはハッとした顔をする。それはイローナちゃんが意識を集めているうちに、エッタさんが魔法を発動させる準備をしていたからである。
「貴方と、そんなに遊ぶ気は無いわ」
・風魔法Level4《台風の訪れ》
「嘘だろ……ゔっ!!」
エッタさんはハリケーンのような強い風を、矢のようにしてカルロに向かって放った。目の前がクリアになった瞬間に、エッタさんが風魔法を放っているのを見たら絶望だろうな。
それを全身にマシンガンを受けたかのように、ドドドドッとカルロの体が左右に揺れて吹き飛びながら地面に倒れる。明らかに即死してもおかしくはない威力だ。俺が受けたと考えたら、ゾッとするような攻撃だった。
「やっぱり直ぐに決着がつきましたね。ミナト様の悪口を言うから、こんな事になるんですよ」
「エッタさん。怖いよ………」
「痛いなチキショーっ!! 俺じゃなかったら、全身に穴ポコ空いて死んじまうところだったわぁ」
完全にエッタさんとイローナちゃんは勝利を確信したが、ムクッとカルロは上半身を上げて生き返った。カルロの体には無数の火傷の跡があったが、魔法の威力ほどの傷になっていない。
どうなっているのかと疑問が浮かびながら、カルロが立ち上がるのを見ている。カルロはボロボロになった上着を脱いで、首をコキコキッと左右に骨を鳴らす。
「たくっ、マッサージにしては四肢がもげるかと思った。確かに俺じゃなかったら瞬殺だったろうな」
「どういう原理で立ってられるんだろう………」
「原理は分からないけど、これは厄介そうよ………」
「原理は簡単さ。綱体とオリジナルスキルの合わせ技だ」
思ったよりも元気そうなカルロは、鼻高々に綱体とオリジナルスキルの合わせ技だと説明する。このカルロのオリジナルスキルとは《鉄の体》という、体を鉄に変化させる能力である。
「自由に俺の体を、撃ち抜こうとしてくれたんだ。今度は、こっちの番って事で良いよな」
「こっちに来るみたい………」
「イローナちゃん、距離を取って!!」
カルロは全身を鉄に変えると、地面が抉れるくらいに強く踏み込むと、一瞬にしてイローナちゃんの目の前に現れた。そして円滑にガードしているイローナちゃんを殴り飛ばした。
エッタさんの真横を凄まじい勢いで、イローナちゃんが飛んでいき、少しイローナちゃんを目で追った瞬間、背後から嫌な予感がして振り返る。するとエッタさんもイローナちゃん同様に、カルロの拳をもらって吹っ飛んでいく。
「どうだい? 俺の拳は、そこそこに効くって話なんだけど?」
吹き飛んでいったエッタさんたちは、王都の建物に突っ込んでいき建物が半壊した。その被害を受けて王都の市民たちは、悲鳴を上げながら避難するのである。
瓦礫を退かしてエッタさんたちは、地上に出ると自分のパンチは効くだろうと自慢げな顔をしている。それにムカついて、エッタさんは風で瓦礫を浮かせて、カルロに向けて投げつけた。
「おっと、気の強い女は嫌いじゃないが………俺は、残念ながら歳が離れ過ぎているのは好みじゃないんだよ」
「エッタさんを、おばさん扱いするな」
・雷魔法Level4《雷獣の鉤爪》
「うぉっと!? 雷魔法なんて使えるのか………これは珍しい人材だな。俺の目で雷魔法使いを見たのは初めてだ」
エッタさんがエルフで歳が3桁なところを、カルロはババアだと指摘してきた。そんなのを聞いて、その場に俺がいたならばゴメンと言っても殴りつけるくらいの事はするだろう。
その代わりにイローナちゃんが、雷魔法で腕に雷の鉤爪を作ってカルロに襲いかかる。普通の人間ならば受け止めるだけで、感電と共に腕が落とされるところだ。しかしイローナちゃんの鉤爪を、カルロは腕を鉄に変えて受け止めた。
意外と武闘派のイローナちゃんの攻撃を受け止められるのは、冒険者や傭兵団の中でも多くはないだろう。その中でカルロは、余裕でイローナちゃんよりも遥かな戦闘経験があり、圧倒する予想が簡単にできてしまう。
「エッタさんは、全然若くて可愛い………」
「そうだねぇ。確かに見た目は、俺の性癖にドストライクなのは変わりないだろうな」
「それなら黙って、私たちにやられれば良い………そうすれば気持ちよくねんねする事ができる」
「それは名案だなぁ。でも、俺は女との駆け引きには、自分から手を出したい生き物なんでね」
イローナちゃんはカルロに、エッタさんへの失礼な発言を撤回するように迫っている。距離を取りたいところだが、後ろに飛んだ隙に距離を潰されるのが怖く距離を空けられない。
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