101:女々しくない
俺たちはアラグとの模擬戦を終えると、早く王都グラスに向かわなければいけないので支度を整える。そんな最中でもアラグは俺に恥を晒されて睨んできている。当たり前だが、俺は知らんぷりして荷物を整える。
俺の気持ちとしてはアラグではなく、粉々になって無くなってしまったエルードの方に向いている。良作と聞いて、俺の手にも馴染んでいたのに直ぐに壊れてしまったからだ。
「はぁ……新しい剣でも買おうかなぁ。でも、俺としては素手の方が戦いやすいんだよなぁ………」
「ミナト様、すみませんでした!! 私が守っていれば、大切にしていたエルードが壊れる事は………」
「えっ!? そんなに気にしなくたって良いよ。物にだって寿命があるんだって、エルードの寿命が今日までだったって事なだけだからさ」
「ミナト様っ!!」
そう、今回の事でエッタさんを責めるのはお門違いだ。エルードを守れなかった俺に全ての責任がある。だからこそエルードが壊れてしまった事に後悔している。
だが落ち込んでもいられない。ここからはオリヴァーという、俺が大敗した人間と第2ラウンドと行くのだから。中途半端な気持ちだったら、今度こそ俺は命を落とすだろう。
俺たちは荷物を馬に乗せると、俺の後ろにエッタさんを乗せて次の街に向けて出発する。それにはフローレンたちも着いてくるらしく、その時もアラグは睨んできている。いつまで根に持っているのだろうか、男として器が小さい奴はモテないぞ。
「それでアンタらも首都のグラスまで着いてくるのか?」
「もちろんです。私たちもオリヴァーを捕まえたいと思っているので、協力させていただきます」
「協力だって? アンタはクロスロード連盟軍と繋がっている奴なんだろ? 俺たちを欺こうとしてんじゃないのか?」
「そんな事あるわけねぇだろ!! フローレンは、確かにクロスロード連盟軍の口利きで冒険者になったが、別に軍隊の使いっ走りなわけじゃねぇよ!!」
俺としては着いて来られるのは問題ないが、クロスロード連盟軍が横取りしようとしているのならば、軍隊と繋がっているフローレンは信用しきれないというわけだ。
さっきの模擬戦の恨みもあってアラグは、俺のフローレンに対する態度が許せなかったのだろうな、馬上から叱責された。そんなに憎たらしいのなら着いて来なくて良いのにさ。
「まぁ邪魔をしないっていうなら良いが、怪しい動きをしたら離脱してもらうからな………それで良いな?」
「あぁん? こっちは お前よりもランクの高い冒険者で、フローレンに関しては十二聖王だぞ!!」
「だから何なんだ? 俺は、もう役職に縛られるのは嫌いなんだよ………それは俺の自由にやりたいポリシーに反する」
そうなんだよ。前世の俺は社畜というものに囚われて、何も楽しめずに死んだんだ。今回の人生では階級なんかに囚われず、自由に生きたいのに、十二聖王だからって敬語を使うのは全力で拒否させてもらう。
そんな俺の態度にアラグは、さらに怒り心頭になって殴りかかってくるのも秒読みなのではないだろうか。今にも喧嘩が始まりそうな雰囲気のまま進んでいくと、日が暮れる前に街に到着したが、俺は信用が無い感じがする。
「むむむー。ここの街は共和傭兵団の根城じゃないだろうな」
「そうですね。あの街みたいに襲われては、いくら休んでもオリヴァーとの闘い前に疲れちゃいますよね………」
「それなら心配ないですよ。共和傭兵団の根城は、東西南北の4ヶ所しかないので、ここは安全だと思います」
俺としては天邪鬼になっていて、ここの街は大丈夫なのかと不安感を募らせている。まさか村全体が共和傭兵団の根城なんて想像がつかないだろうよ。
だがフローレンがいうには、共和傭兵団の根城というのは東西南北の4ヶ所しかなく、ここの街は安全なはずだと説明する。まぁそれなら信用できるだろうと俺たちは街の中に入る。
意外にも街の中は多くの人が行き来しており、砂漠の街とは思えない程に賑わっていた。やはり普通の街とは異なり、フルーツも桃やリンゴなどではなく、バナナやココナッツと言った南国のフルーツが多くなっている。
「エッタさん、あのフルーツを買ってあげようか?」
「あれですか? あのボールみたいな形をした奴ですよね?」
「そうそう。あのフルーツの中に、薄皮ってのがあるんだけど、パックとかに使うと肌に良いらしいよ」
「本当ですかぁ!! それは女子としては気になる事ですねぇ」
俺が異世界に来て読んだ本に、ココナッツのようなフルーツの中にある薄皮をパックに使うと良いというのが載っていた。
まさかいらないだろうと思った知識が、こんなところでエッタさんの喜ぶ顔を観れるとは役得役得。まぁエッタさんなら知ってると思ったんだけど、意外にも知らなかったみたいだ。
そしてココナッツを見ながら美容に良いんだと、好奇心満々の顔で持ち上げたりしている。俺はスッと懐から金を出すと店主に渡して、俺なりのスマートな買い方をした。
「おいおい。男とあろうモノが、そんな女々しい情報を手に女を侍らせてるとは………このアラグ様は、お前にとことん軽蔑しちまってるわぁ」
「なんだと? そんな事も知らないで、フローレンのような美しい女性の側にいるのか?」
「あぁん? 俺は腕っぷしで守ってんだよ!!」
ニコニコッとエッタさんが喜んでいるのを、俺も喜んでいるとアラグが小馬鹿にした笑いをして来た。女の人を気遣うのは男として当たり前だが、アラグの言った女々しい奴という言葉にプッチンと来て胸ぐらの掴み合いになる。
「ちょっとちょっと!! こんな街の中で、胸ぐらを掴み合って喧嘩はやめて下さい!!」
「でも、フローレンよ!! この男が冒険者だってのに、女々しい事をしてるからよぉ」
「アラグ。貴方は、もう少し女性に気を遣って下さい………」
「なっ!?」
「ぶふ!! 言われてやんの!!」
俺たちの喧嘩を見かねた、フローレンが止めに入って無理矢理に剥がされるのである。アラグは俺の事を、またも女々しい奴だとフローレンに言った。
しかしフローレンは俺の事を女々しいという事なく、逆にアラグに対して女子心を勉強しなさいと叱った。あまりにも心地よい状況だったので笑いが堪えられなかった。
「なに笑ってんだよ。俺はテメェに勝ってんだぞ? お前は、俺よりも遥か下なんだよ!!」
「ちょいちょい。俺が皆んなの前で、恥を晒さない為に気を遣ったのを忘れてんのか? あんなのを自分の勝ちだって言えちゃう心は、俺も尊敬しちゃうわぁ」
「テメェ!!」
最高に気持ちが良い。
さっきの模擬戦を伏線にして、いくらでもアラグの事を小馬鹿にして気持ち良い思いができる。他の人が見たら、性格の悪い奴だと思われるが、もう思われたって一向に構わないさ。
そんな喧嘩をしていると、さっき止めてくれたフローレンも頭を抱えて困ってしまった。こんなにも騒いだら周りの注目も引いてしまうと思ってある考えを思いついた。
「あっ!! カールハイン。あの2人を肩に担いで運んでくれないかしら?」
「了解……」
フローレンは高身長のカールハインに頼んで、俺たちを担いで無理矢理にでも喧嘩を止めさせた。俺たちは担ぐなとジタバタするがカールハインはビクともしなかった。
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