099:面倒な戦い
俺とアラグの模擬戦は白熱していく。
剣と拳という誰が見ても、剣を持っているアラグの方が完全有利だと予想ができる。俺だって、どちらに賭けるかという話にならばアラグに賭けるだろう。
しかし俺の数多くのオリジナルスキルと、魔法を駆使する事で世界でも指折りの一級冒険者と互角に渡り合っている。互角に渡り合っているとは言えども、相手が真剣な為に少しでも油断すれば腕の1本でも飛んでしまう。
「す 凄い。こんなにも白熱するなんて………」
「エッタさんは、ミナトさんが圧勝すると思ってました?」
「えっ!? い いやぁ……」
「別にパーティーメンバーなんで良いんじゃないですか? まぁアラグ君も世界的冒険者なので、ポテンシャル自体はミナトさんよりも強いと思います………でも、この戦いは異常ですね」
「異常ですか?」
目の前の白熱した戦いにエッタさんは言葉を失う。一流冒険者と俺との戦いなんだから金が取れるだろうな。
同じく見ているフローレンは、ウブな感じで見ているエッタさんにニコニコと話しかける。そしてフローレンは別の視点で模擬戦の様子を見ていて、この戦いは異常だとエッタさんに話す。
エッタさんからしたら、何が異常なのかは理解できていない。思いつく事としたら、駆け出しの俺がアラグと互角にやっている事なのかと考えている。
「ミナトさんが、アラグ君と互角にやっているのも異常な事ではありますが、もっと異常な事があります」
「もっと異常な事ですか?」
「はい。それは彼が大怪我明けという事です」
その場で話を聞いている人間たちが、ハッとした顔でフローレンのいう事に納得する。確かに普通ならば大怪我した格下の人間が、一流冒険者と互角にやり合えるわけがない。そこにフローレンは戦いの異常性があると思ったらしい。
確かに冷静になれば気づけるところだったが、こんな白熱した模擬戦の前で冷静ではいられないだろう。しかしフローレン7人の中で最も冷静な人間だった。
「でも、ミナトの動きが普段よりも悪い………」
「それはそうでしょう。昨日まで動くもできないくらいの大怪我をしてるんだからね」
「大怪我をしてもなお、動きが悪い程度だなんて将来が本当に期待できる子ですよ………」
イローナちゃんは俺を動きを見て、中々に辛辣な動きが鈍いという御指摘をくれた。さすがの俺でも言い訳をしたいところだけど、好きな女の前では格好は良くしておかなければ。
そんな事を考えながら俺は、顔のギリギリなところでアラグの剣を避けるのである。俺が避ければ避けるほど、アラグの剣にも熱が入って精度や威力が上がっていく。
全くもって俺が戦いたくない相手の1人である事には違いないが、これで負けでもしたら口が達者になっていく。ならば、絶対に負けるわけにはいかないとアラグの懐に足を踏み込む。
「こっちも年下だからって、好きな女の前でダサいところは見せなくないんでね」
・炎魔法Level1《ファイヤーハンド》
・筋力増強魔法Level2
「懐に入る速度が速いっ!? さすがに防ぎきれない!!」
完全にアラグの懐に足を踏み込んで、アラグの領域内に占有する事ができた。そうなった事によって、アラグにガードをさせない状況を作り出す事に成功するのである。
そのまま俺はアラグの腹を殴るが、触れた瞬間に綱体を使っているのではないかというくらいに固かった。しかし腕を振り切ってアラグを殴り飛ばした。アラグは殴り飛ばされても空中で体を捻って、上手く地面で受け身をとったのである。
「いててて……本当に遠慮なく人の腹を殴り飛ばすんだな」
「クリーンヒットして、少しでもダメージが入ればと思ったけどさ………元気そうで嫌になる」
「そりゃあ元気にもなるさ。お前みたいな力のある若いのとやると、俺の尻にも火がつくからな」
どうやら俺のような実力がある未来有望な若い人間と戦う事によって、アラグは自分も負けていられないと火がつくらしい。こっちからしたら、こんなにも傍迷惑な事は無いだろうな。
痛がりながらもアラグは立ち上がると、剣に付いた砂を払って仕切り直すように構える。きっと性格的に、ここから強くなって面倒になるんだろうと容易に想像ができてしまう。
「そんなに元気そうならレベルアップしても、特に問題はなさそうだな」
「ああわ望むところだ。お前の全力って奴を、26歳のおっさんに見せてくれや」
俺はアラグが最大限に嫌がる方法を思いついた。
その為には、まず俺が少し本気にならなければならない。そこが今回の作戦で、1番面倒なところではある。
そんな事を考えながらも俺は、右足を擦るようにして引くと腰を下げて力を溜める。いわゆる強い正拳突きをする構えだが、そんな大振りがアラグに当たるわけがない。
その固定概念をあえて利用するのが、今回の作戦のミソと言えるだろう。なんせアラグというのは中々にプライドが高く、俺が避けられると分かっていながら攻撃しているという事を察したアラグなら真っ向からくるのは容易に思いつく。
「俺の渾身の一撃を受けてもらえるかなぁ」
「その自信の一撃を、俺が真っ向から斬り伏せてやる!!」
俺は地面が凹むくらい強く踏み込んで、アラグに向かって飛び込んでいく。
それに対してアラグは剣を振り上げて、俺が使ってくるのをグッと強く剣を握って待っている。そんなアラグの特徴は既に把握し切っている。
当たり前だが、ただ真っ向から馬鹿みたいに突っ込んでいけば経験の差からアラグが余裕で勝てるだろう。そうならない為に、秘策というには陳腐だがある考えがある。
「ちょっと目を瞑ってもらうわ………」
足元にたくさん落ちてある砂を微量する。普通ならば戦いにおいては多くの砂を使うのが常識なところを、俺は微量を操作する事で常識外の一手で相手を油断させる。
少しの砂を操作するなんて思っていないアラグは、まんまと俺の操作した砂が目に入ったのである。その瞬間に少し瞬きのタイミングが変わってしまった。
その瞬間に俺はアラグの正面から少しズレて、拳をアラグの顔面に向けて振り抜こうとした。しかしアラグの顔面ギリギリなところで拳を寸止めする。
「う うわぁああああ!!!!!」
「な 何なんだ!?」
寸止めした後に、俺はわざとらしく吹き飛んでやられたフリを行なった。何が起きたのかとアラグが困惑していると、立会人のフローレンが右手を挙げて高々に宣言する。
「模擬戦は《アラグ=アピッツ》の勝利とします!!」
「う 嘘だろ!! ちょっと待ってくれよ!! 俺は何もしていないんだぞ!!」
「それでもミナトさんは戦闘不能です」
そう。これこそが俺が閃いた作戦である。
プライドの高いアラグが、勝たせてもらったなんて最大限の屈辱で泣き出してもおかしくはない。フローレンに異論を唱えたが認められる事なくアラグの勝利は変わらない。
この瞬間において俺は自分自身が、最高に性格が悪いんだなと自覚する時だった。それでもオリヴァーとの戦闘前のストレッチと考えれば最高なのだろうな。
「よっと、さすがはアラグだ。完璧に取ったと思ったんだけどなぁ」
「やってくれたな。こんな屈辱を受けたのは初めてだ………また別の機会にリベンジさせてもらう」
「まぁその時はその時だな」
俺が起き上がるとアラグは、屈辱だと俺にだけ見えるように睨んでくる。その気持ちは分かるが2度とやりたくない。
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