ある雪の日とくまさんのぬいぐるみ
どうわってむずかしい......
雪がしんしんとふる、ある冬の日のことです。一匹のくまのぬいぐるみが、まどのそばにすわっていました。大きくて、体にふわふわのわたがいっぱいつまっていて、首には赤いリボンを巻いていて、胸にはボタンが二つついています。くまの名前はアルモといいます。この家にすむ、女の子がつけてくれた名前です。
まどはあけっぱなしで、先程までパチパチとなっていた暖炉の音は聞こえません。家にはアルモの他には誰もいないのです。
アルモは思いました。誰かが帰ってくるまでぼくがおるすばんをしていよう、と。
おるすばんというのは、とっても難しいのだと女の子のお母さんが、女の子に話していました。
アルモはがんばるぞ、と思いながらまどの外を見つめます。
すると、
ザクザクっと雪がふりつもっった地面を歩く音が聞こえてきました。それは、まどの前に来るとピタリと止まります。
そして、そのまま家の中に入ろうとしーー
「はいっちゃだめ」
アルモはあわてて引き止めました。
そこにいたのは、大きなくまさんでした。アルモよりもずっと大きくて、小さなチョッキを着ています。
アルモに引き止められたくまさんは、こまった顔をしています。
「中に入れてくれないか?さむくて死んでしまいそうだ」
確かに、中はまだ少しだけ温かいです。入れば寒さをしのげるでしょう。
アルモはくまさんを気の毒に思いました。けれど、くまさんを中に入れるわけにはいきません。
「君には、立派な毛皮とそのチョッキがあるじゃないか」
アルモはそう言いましたが、くまさんは浮かない顔です。
「そうだ。でも、チョッキに三つついていたボタンが一つなくなったんだ」
確かに、チョッキには二つしかボタンが付いていません。これでは、くまさんの大きなお腹は丸出しです。
すると、アルモは自分の胸にあるボタンを一つとって、くまさんに渡しました。
「ぼくのボタンをあげる。これで君は、もうさむくなくなる」
くまさんは喜び勇んで、その大きなお腹を揺らします。そして、毛皮におおわれた指で、器用にボタンを付けます。
「このチョッキは僕が編んだんだ。お礼に今度、あんたにもチョッキをプレゼントするよ」
そう言って、嬉しそうに笑って、去っていきました。
アルモは、また、しばらくの間、まどの外を見つめていました。
すると、
パタパタっと雪がふる空を羽ばたく音が聞こえてきました。それは、まどの前に来るとピタリと止まります。
そして、そのまま家の中に入ろうとしーー
「はいっちゃだめ」
アルモはあわてて引き止めました。
そこにいたのは、小さなとりさんでした。アルモよりもずっと小さくて、赤い羽根を持っています。
アルモに引き止められたとりさんは、こまった顔をしています。
「中に入れてよ。疲れて死んでしまいそうなんだ」
確かに、中に入れば休めそうです。でも、先程よりも、少しさむくなっています。
アルモはとりさんを気の毒に思いました。けれど、とりさんを中に入れるわけにはいきません。
「君には、立派なつばさがあるじゃないか。それで、他の休める場所まで飛んでいけば良い」
アルモはそう言いましたが、とりさんは浮かない顔です。
「そう。でも、ボクのつばさは怪我をしてる」
確かに、つばさは大きな怪我で破れかけています。これでは、とりさんの丸々としたからだが長く飛ぶことはできません。
すると、アルモは自分の首にある赤いリボンを一つとって、とりさんのつばさを結んであげました。
「ぼくのリボンをあげる。これで君は、もう飛べるようになる」
とりさんは喜び勇んで、そのきれいな羽を羽ばたかせます。そして、可愛らしい声で少しだけ鳴きました。
「これはボクの自慢の声なんだ。お礼に今度、君に歌を聞かせてあげるよ」
そう言って、嬉しそうに笑って、去っていきました。
アルモは、また、しばらくの間、まどの外を見つめていました。
すると、
サクサクっと雪がふりつもっった地面を走る音が聞こえてきました。それは、まどの前に来るとピタリと止まります。
そして、そのまま家の中に入ろうとしーー
「はいっちゃだめ」
アルモはあわてて引き止めました。
そこにいたのは、中くらいのうさぎさんでした。アルモと同じくらいで、茶色い毛皮をしています。
アルモに引き止められたうさぎさんは、こまった顔をしています。
「中に入れてほしいの。誰かに食べられて、死んでしまいそうなの」
確かに、中に入れば身を守れそうです。でも、先程よりもずっと寒くなっています。
アルモはうさぎさんを気の毒に思いました。けれど、うさぎさんを中に入れるわけにはいきません。
「君には、立派な耳と早い足があるじゃないか」
アルモはそう言いましたが、うさぎさんは浮かない顔です。
「そうよ。でも、私の毛皮は茶色なの」
確かに、毛皮はつやつやとした茶色です。これでは、うさぎさんの茶色いからだはまっしろの雪の中で丸見えです。
すると、アルモは自分の中につまっているわたを取り出すと、ウサギさんの体にぶっかけます。
「ぼくのわたをあげる。これで君は、白いからだになる」
うさぎさんさんは喜び勇んで、その丸い目をキュッと閉じます。そして、きれいな茶色の毛皮を隠します。
「私の毛皮、茶色だけどきれいでしょう。お礼に毛皮が生え変わったら、あなたに渡しに来るわ。わたの代わりに中に入れたらちょうどいいと思うの」
そう言って、嬉しそうに笑って、去っていきました。
アルモは、また、しばらくの間、まどの外を見つめていました。
すると、
部屋の中がすごくさむくなっていることに気が付きました。
ボタンとリボンとわたをなくしたアルモは、さむくて仕方がありません。
すると、
げんかんの扉がガチャリっと開く音がします。
そのまま足音はアルモに駆け寄ってきました。そして、アルモのことをギュウっとだきしめます。
「ただいま、アルモ」
女の子でした。
アルモの冷え切った体に、女の子のぬくもりが、じんわりと伝わります。
「まぁ、アルモ。すこしやせた?ボタンとリボンもとれちゃったみたい」
アルモは、女の子の困っているような、心配するような声に、気の毒になりました。けれど、女の子はニコニコと笑うと言いました。
「お母さんになおしてもらいましょ」
アルモは嬉しくなって、笑います。
女の子がお母さんに駆け寄ります。そして、不思議そうにたずねました。
「どうしたの?お母さん」
お母さんは困り顔です。
「まどがあいていたみたい。とじまりは大事ね」
そう言うと、まどをとじ、カチャリっと鍵をかけました。
「だいじょうぶよ。アルモがおるすばんしてくれるもの」
「そうね」
お母さんは微笑ましげに笑いました。