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ヒューマンドラマ

女装したらミスコンに参加させられました

作者: たこす

「はい、じっとして」


 僕は今、上級生の女子たちから顔中をいじられている。

 粉をつけられたり、クリームを塗りたくられたり、髪の毛を引っ張られたり。


「目は瞑ってて」

と言われ、素直に言う事を聞いて椅子に座ったままじっとしている。


 耳からは「ヤバいヤバい」という恐ろしい声だけが聞こえる。


 何がヤバいのか、教えてほしい。


「ねえ、マジでヤバいよね、これ」

「うっそ、ほんとに? 男子で萌え可愛いって、どんだけ」


 きゃあきゃあ言う声がうるさくてかなわない。

 しかし下級生の身としては上級生には逆らえないので何も言えなかった。


「お疲れ。目、開けて」


 その一言で、僕はうっすらと目を開けた。

 目の前の鏡には、どこの誰ともわからない超絶美少女が映り込んでいる。


 金色の長い髪の毛を垂らした、お姫様のような顔。

 白い肌に、ツヤっとした唇。頬がちょっと赤みがかって、純情そうな目をしている。


 一瞬、ドキリとしてしまった。


「あ、あの、これ、誰ですか……?」


 僕は左右に座る上級生の女子たちに尋ねた。


「誰って……三島くんじゃない」

「あははは。やだ、自分の顔なのに気付かなかったの?」

「か~わいい~!」


 きゃあきゃあ言われながら写メを撮られまくる僕。

 言われなくても、わかってはいた。

 ただ、あまりに劇的に変わりすぎてて信じられなかったのである。

 髪の毛はウィッグだとしても、白い肌は化粧だとしても。

 着ているドレスはまるでおとぎ話に出てくるお姫様のようだ。


 目の前の鏡にうつるその姿は、どこからどう見ても女子だった。


「じゃあ、三島くん。行きましょ」

「え、行くってどこへ?」


 答えのないまま僕は三人の上級生とともに教室から連れ出された。



 今日は、学園祭の真っ最中。

 そこかしこでお店が開かれ、全校生徒全員でこのお祭りを楽しんでいる。


 僕は3人の上級生に囲まれる形で、すごすごとあとをついて行った。


「うわ、誰あれ?」

「あんな子、この学校にいたか?」

「めっちゃ可愛い……」


 そこら中から視線を浴びせられる。僕は余計に恥ずかしくなって顔を伏せた。


「なあなあ八木、そのめちゃくちゃきれいな子、誰!?」


 たたたた、と駆けつけてきたのはエプロン姿の生徒会長だった。

 生徒会長のクラスでは喫茶店をやっているらしい。

 まるでパティシエのような姿に、僕は一瞬見惚れてしまった。

 長身で端正な顔立ちの生徒会長は、何を着ていても絵になる。

 学校一のイケメンというのもうなずける。

 午後に行われるミスター&ミスコンテストにも選ばれているらしい。そして、間違いなく今年のミスターに選ばれるだろう。当然のことながら、僕はノミネートすらされていない。


「ほーっほっほっほっ。生徒会長で学校一の女好きと言われるあなたでも、誰だかわからないのね。いい気味だわ」


 生徒会長の言葉に、八木センパイが高らかに笑った。

 僕は知っている。

 目の前にいる八木センパイは、この生徒会長の元彼女だったということに。そして、この生徒会長が他の女の子に手を出して破局したということに。

 それでもこの生徒会長は懲りていないのか、今も他の女の子にちょっかいを出しているらしい。


「ほら、よーく見なさい」

「わっ」


 八木センパイはそう言って僕を生徒会長の真ん前に突きださせた。

 生徒会長は、覗き込むようにして僕の顔を見る。


 その吸い込まれそうな瞳は、男の僕でもドギマギしてしまうほどだった。


「見れば見るほど可愛いな。キミ、本当にこの学校の生徒か?」

「あ、えと、その……」


 僕はたまらず八木センパイの背中に回り込んでサッと顔を隠した。


「あーあ、フラれちゃったわね」


 くくく、と鼻で笑う八木センパイ。心底、楽しそうだ。


 生徒会長はなおも僕の顔を見ようとするが、僕はかたくなにそれを拒んだ。


「はあ、まあいいや。八木、今度その子紹介しろよ」

「誰があなたなんかに」


 さわやかな笑顔を見せて去っていく生徒会長。信じられないことに、最後の最後まで僕が男だと気が付かなかったらしい。


「あたしたちよりも三島くんしか目に入らないなんて。なんだか悔しい~!」


 後ろの女子二人が恨みがましい声でそう言う。僕はいたたまれなくなって「すいません」と謝った。



 その後も、僕は八木センパイたちに囲まれていろんなところに連れていかれた。

 その度に「お姫様みたい」だの「人形みたい」だの散々言われたが、誰も僕が男だと気づかなかった。


 一番ショックだったのは、クラスメートですら僕だとわからなかったことだ。

 親友の冴木までもが

「八木センパイ、そのきれいな方はどなたですか?」

と聞いてきた。


 もちろん八木センパイは面白がって教えてやらなかった。


 ただ一言。

「冴木くん、きっとあとで後悔するわよ」

と言っただけだった。

 僕はその言葉に激しく同意した。

 絶対あとでとっちめてやる。そう心に決めていた。


 僕はうっとりしながら見送る親友の冴木を睨み付けながら2年2組のクラスを素通りしていった。



「すごいわね。誰もあなたが三島くんだって気づかないなんて」


 ずっと歩いていると、八木センパイが愉快そうに笑っていた。

 でも僕はそれどころではなかった。

 学校中から注がれる好奇の視線。

 それがとてもつらくて、どうすればいいかわからなかった。


 この引き回しの刑はいつまで続くんだろう。

 そう思っていると、八木センパイが突然トンデモナイ提案をしてきた。


「そうだ! 午後からやるミスコンテスト。三島くん出てみない!?」

「え、ええっ!?」


 何を言っているんだ、この人は。


「ムリですよお!」という僕の言葉を無視して勝手に話を進めていく。


「副生徒会長の特権として、飛び入り参加させてあげるわ。その格好なら優勝間違いなしね!」

「いやいや優勝なんて……。それに僕、男ですよ?」

「そんなのわかりゃしないわよ。ただ黙ってステージに立ってるだけなんだし」


 そんなはずはない。

 2年の僕は去年も見ていたが、あれは司会者がいろいろと質問をしてきたはずだ。

 男の僕が声を出せば一発でバレるだろう。

 しかし、八木センパイは本気のようだった。

 実際、八木センパイの副生徒会長という立場を利用すれば飛び入り参加は可能だ。


 どうしよう。

 どうしよう。


 僕はどうにかして逃げる算段を考えた。

 しかし、背後にもぴったりと二人の上級生が寄り添っているので逃げることもできない。

 あーだこーだと考えていると、唐突に僕の前にあの生徒会長が姿を現した。


「お、ここにいたのか八木。探したよ」

「あら、何か用?」


 八木センパイが冷たい声で答える。

 生徒会長は少しも気にせずニコリと笑いながら言った。


「実はこれからミスター&ミスコンテストが始まるんだけど、その子にも参加してもらいたいんだ」

「は、はいっ!?」


 僕は思わず素っ頓狂な声を上げた。

 同時に八木センパイが「ぶほっ」と口に手を当てて吹き出した。


「どうかな? 事前のアンケートにはなかったけど、飛び入り参加ってことで」


 生徒会長が僕の顔を覗き込みながら尋ねる。

 どうかなと聞いておきながら、その表情は「いや」とは言わせない迫力があった。きっと、他の女の子たちも、このうっとりするような迫力に負けるのだろう。そう思った。


「実は私も同じこと思ってたの。ミスコンテストに参加させたいって」

「八木もか! なら決定だな。さっそく体育館に向かおう」


 そう言って、生徒会長は僕の返事も聞かず、手を引っ張ってコンテスト会場に向かった。

 八木センパイたちは、愉快そうに笑いながら手を振って僕を見送っていた。



 そのあとのことは、あまり覚えていない。

 生徒会長がステージ横の控室でテキパキと実行委員に指示を出して、いつの間にか僕は他の女子生徒に混じって体育館のステージ上に立たされていた。


 暗幕が張られた真っ暗な体育館。

 ステージ上のスポットライトだけが僕らを明るく照らしている。

 十数人の美男・美女たちが一斉に並ぶ姿に、会場中から「おお~」という歓声と拍手が巻き起こっていた。


 僕の両隣りには、話したこともないきれいな女生徒が笑顔を振りまいている。


 どうしよう。

 僕には引きつった笑みしか出ない。


 司会進行役の3年生が見事な話術で会場を沸かせていたが、内容なんてまったく入ってこなかった。

 その合間合間に、ステージに立つ美男美女軍団が司会の質問に答えていく。


 僕はただただ、それを夢のような気持ちで見つめていた。

 しかし、司会の3年生が目の前にやってくると、僕はハッと我に返った。


「さあ、みんなお待ちかね! 聞きたくてウズウズしてただろう!? このカワイ子ちゃんは誰かと! このお姫様はどこのクラスの生徒なのかと! 実際のところ、飛び入り参加でこちらにも資料が一切ない! 実はオレも知りたーい! このカワイ子ちゃんは誰なんだー!!」


 大きな拍手の音とともに「教えてー!」という声がそこらじゅうから聞こえてくる。

 あまりの反響に、僕は腰を抜かしそうになった。


「さあ、教えてくれ! 君は誰なんだ!? 君の名は!?」


 マイクを向けられる。

 僕は固まった。

 ここで声を発したら一発で男だとバレる。

 男が女子に混じってミスコンに出ていたとバレたら、どうなるか。

 きっと卒業まで女装男子と言われ続けるに違いない。

 バレてはならない、絶対に。


「う、う、ううぅ……」


 僕がいつまでたっても答えないでいると、司会の3年生がグイグイとマイクを押し付けてきた。


「さあ、さあ、さあ!!」

「………」


 どうすれば。

 どうすれば……。


「黙ってないで、なんとか言ってくれ!!」


 その一言に僕は思わず肩を震わせると、

「うるさーい!」

と叫びながら目の前の司会者の股間を思いきり蹴り上げた。


「うぐっ」


 目を白黒させながらうずくまる司会者。

 僕はそのまま脱兎のごとくその場から逃げ出した。


 思わぬ展開に、会場中が静まり返る。

 僕はステージ横の控室に入るとウィッグを取り、着ていたドレスを脱ぎ捨てた。


 そして、近くにあったティッシュでごしごしと顔をこすると、逃げ出すようにその場をあとにした。

 その後、ミスター&ミスコンテストがどうなったのか、僕は知らない。




 それから数日後、学園祭も終わりいつもの日常へと戻ったのだが、校内ではひとつの話題で持ちきりだった。


『あの美少女は誰だ』


 ミスコンテストに出場した金髪の美少女。

 その正体に、学校中が騒いでいた。

 当然、僕は素知らぬ顔で通している。


 もうあんな思いはこりごりだ。

 聞かれても絶対隠し通そう。

 そう決めていた。



 ちなみにあのミスコンテスト、僕が特別賞に選ばれていたと知ったのは後日である。




お読みいただきありがとうございました。


余談ですが、この作品を書いたのは映画「君の名は」が公開されていた時期(6年前)です。

6年ごしの投稿ということで、ちょっと感動してます(*´▽`*)


四月咲香月様から素敵なイラストをいただきました♡


女装男子、三島くんテス

挿絵(By みてみん)


女装男子、三島くんテスバストアップ

挿絵(By みてみん)


タスケテ八木えも~~ん

挿絵(By みてみん)

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[一言] 明けましておめでとうございます。 三島くんに巫女服着てもらいました。 巫女三島くん <i705560|34709> calendar巫女三島くん1月 <i705561|34709>
[一言] 【COM3D2】 rainy unbalance 【HD】 高須(茶髪、女装男子) 三島くん(金髪、女装男子) https://youtu.be/sH2gO-QZEZk <a href="h…
[一言] 初めましてこんばんわ、四月咲香月と申します。 くまの ほたりさまのところから伺いました。 面白いネタだったのでやってみました。 女装男子、三島くんテス <i685783|34709> …
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