97 投げ銭=
「別に気にしていません。65%の確率でそのようになると思っていましたから」
「・・・・・・・」
深雪と深優が対戦することを伝えても、淡々としていた。
「深雪とのバトルなら、いろいろと調整しなければいけませんね」
「え、じゃあ、ゴーダン様は?」
「見つかったのは私だけです。ソラ様たちはわかっていないのでしょう。もし、闇の王がここに来ていると分かれば、トーナメントは中止するでしょうから」
白銀の髪を、耳にかけながら言う。
「ソラ様はミユキと会ったでしか?」
「セレナ様に似ていました?」
ペペとキキが交互に覗き込んでくる。
「いや、性格は全然違うよ。容姿は一緒だけどな」
でも、きっとセレナの残酷さも、深雪が持ち合わせていた一面なんだろうな。
「それより、なんで『パパ』って呼ぶんだ?」
「え?」
「だって、そうだろう? 血縁者でもないし、複数いるんだろ?」
深雪が『パパ』と呼ぶときの顔を思い出していた。
刷り込まれたようで、機械的な表情だった。
『パパ』という言葉がプログラミングされているような・・・。
「無償の愛情を注いでくれてるのは『パパ』というのでしょう?」
「ん・・・・・?」
「『パパ』だけが深雪に愛を注いでくれるのです。金銭面でも技術面でも、惜しみなく」
「技術的はともかく、金銭的? 投げ銭のことか?」
「はい。深雪の配信は投げ銭が多いですから、その分、みんなに愛されてるってことですね」
「・・・・・・・・」
深優にはどこか決定的に深雪と違う部分があった。何かがずれている。
言葉の裏側に見える、憎しみだろうか。
「お金だけが愛ではないのです。神々から言うと・・・」
「貴女はクリエイターの想定通りに動いていますね」
テイアが割り込んでくると、深優がぎろっと睨みつけた。
「な・・・・」
「貴女はそう、プログラミングされてるんです。神々は見えないものを愛と呼ぶようにしてあるのです。そのほうが、動かしやすいから」
「そんなことないです。テイアは心があります!」
胸に手を当てて言う。
「貴女はは気の毒です」
「テイアは愛を見たことがあるのですか? 一番わかりやすいのが、支援なんです。私は支援がなければ存在できないので、感謝を込めて、『パパ』と呼ぶのです。『パパ』は私にとって大切な人たちです」
「それは・・・」
「テイア、お前は自分の仲間を救うことに集中しろ」
「・・・・はい・・・」
テイアが口をもごもごさせながら下がった。
「わかってます。私は必ずゴーダン様を救います。ここで、深優と言い争っている暇はありませんから」
「深優もあまりむきになるな」
「・・・・すみません」
深優の考えは、深雪の考えとリンクしているのだろうか。
見えないようにモニターを出して、淡々と装備品を対光属性用に切り替えている。
「どうしますか? 深雪とは殺す気で戦ってもよろしいですか?」
「いや・・・引き延ばしてくれ。隙を見て、深雪を連れ戻す」
「・・・難しいですね。やってみますけど」
「お前はどうしたい? 望むなら、お前も一緒に連れ出すが」
「私は・・・・」
深優が黒曜石のイヤリングを装備していた。光属性を吸収するものだ。
少し悩んでから、小さく口を動かす。
ワァ・・・・
プレイヤーの声に、搔き消されていた。
「・・・わかった」
頷いて、腕を組む。
闘技場のモニターには、後半戦のトーナメントが映っていた。
『お待たせしました。ここからは後半戦、引き続きよろしくお願いします!』
えまが中央に立って手を振っていた。
『記念すべき、後半戦の初回はきくらげ VS シュタイン!!!!』
わあぁぁぁぁぁぁぁ
人気の男性プレイヤーなのか? 観客席の熱気が伝わってきた。
「私と深雪の勝負は、後ろのほうでしょうね。それまで暇です」
「ゴーダン様・・・・あれ・・・」
テイアが前のめりになって、目を細める。
「天候の神ユピテル様?」
「ん?」
シュタインと呼ばれた男が大きな杖を出していた。
身長は高く、細く儚げな青年だ。
きくらげがモニターを出しながら、防具に光属性を付与し、剣を杖に持ち替えていた。
パーン
バトルの合図とともに、シュタインが杖を回していた。
ドラゴンが召喚される。地面に爪を立てて、尻尾を振り回す。
グアアアアアアア
空に向かって咆哮を上げていた。
「レベル40で召喚できるドラゴンですね」
深雪が一瞬だけモニターを開いて閉じる。
「プレイヤーで召喚できるのは珍しいと思いますよ。こちらの幻獣はアバターとの契約を拒みますから」
「へぇそれであんなに人気があるのか」
「違いますよ。人気があるのはシュタイン・・・相手のほうです」
テイアが、相手の青年を指していた。
「シュタインじゃないです。彼は天候の神、ユピテル様です」
テイアが訴えるように言う。
「ユピテルは姿を現さないと聞いたが?」
「絶対間違えません。ユピテル様はティターン神族とも仲が良く・・・・」
「彼は出るだけで投げ銭を大量に落とされるので、後半戦の初回バトルから出されたのでしょう」
「・・・・・」
どこかで見たような容姿だった。
転生前の世界で会ったことがあったか?
「どうしてユピテル様がシュタインと名乗ってるのですか?」
「別名です。彼は2つの名を持ってるんです。神の中ではユピテル、人間としてはシュタイン。理由はわかりませんが、彼もリスナーから人気のあるキャラです。クリエイターが精巧なストーリーを作っているでしょう」
シュタインが杖を回すと、巨大な雲が現れた。見覚えのある・・・死者の国にかかった黒い雲に似ていた。
グオオオオオオオ
ドラゴンが炎を吐いて吹き飛ばす。
シュタインは余裕があり、時間稼ぎをしているようだった。
ちらちら、モニターを確認しながら、プレイヤーの攻撃を避けている。
配信のためか?
深優の言うように、ドローンのカメラを気にしているように見えた。
「彼は、人気が出るように作られたんです。きっと、配信していたら投げ銭も集まることでしょう。多くの愛は彼を強くしますから・・・」
「さっきからお金の話ばかりです」
テイアが深優の前に立つ。
「テイア、お前と深優は価値観が違・・・」
「テイアは悲しいです。テイアは物質じゃない、目に見えない愛を知っています」
「具体的にどうゆうものですか?」
深優がメガネの奥の目を吊り上げる。
「兄様たちがテイアにかけてくれた時間は愛そのものです。テイアの強さは兄様たちのもの、語り切れないのです」
「では、テイアが負けたら、愛は無くなりますね」
「っ・・・・・・」
「お前ら、いい加減にしろ。これ以上騒ぐなら殺すぞ」
深優とテイアを睨みつける。人差し指に闇の魔力を宿して、2人に向けていた。
「・・・・・・すみません」
「・・・・・・・・」
この話題になると、深優は冷静でいられなくなるらしいな。
ガーガー ゴーゴー
会話を遮るようにキキとペペがいびきを搔いていた。
「・・・こいつらはいいな。呑気で」
「すみません。先ほどは冷静さを欠いてしまいました。私は最近エラーを起こしやすいんです」
深優が軽く頭を下げた。
「エラー?」
「テイアは他人のことより、自分のことを心配したほうがいいですよ。トーナメントに勝ち上がってますから」
「その必要はないのです!」
自信ありげに鉄球を撫でる。
「テイアはティターン神族の末の妹です。プレイヤーに負けるわけがありませんから」
「後半戦は、紳士的なプレイヤーばかりじゃないと思っていたほうがいいですよ」
「どうゆうことですか?」
「何してくるかわからないってことです。キキペペ様のようにね」
「っ・・・」
テイアが身を固くする。
キキが一瞬だけ眉をぴくっと動かして、もう一度寝ていた。
浅く息を吐いて、指を弾く。
ジジ・・・ジジ・・・
「うわっ・・・モニターが消えた?」
「ん? 一時的に回線が悪くなっただけだろ? 俺のは何ともないし」
「あ、直った。なんだったんだ?」
「俺も一瞬、表示しなくなったよ。どこかでデバッグでも・・・・」
前にいたプレイヤーのモニターに闇魔法を流していた。
手を動かして、魔力の痕跡を消す。
大体調整は終わった。あとは、深雪と深優のバトルを待つだけだ。




