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93 控室

『こちらがエントリーした方々の待機室Ⅲとなっています。そちらに監視カメラがあり、違反した方は追放という形になりますのでご注意を』

「あぁ」

『あちらには回復スペースがございます。では、時間まで、ごゆっくりお過ごしください』


 バチッ


 説明が終わると、人型ロボットが消えた。

 誰もこちらを見ていないことを確認して、フードを少し上げる。

 広々とした待機室では、多くのプレイヤーたちが談笑したり、装備品の確認をしていた。


 中央には闘技場の様子を映す巨大なモニターが設置されている。

 特に混乱はないみたいだな。

 近未来指定都市TOKYOの転移者はいないのだろうか?


「・・・上手くいったみたいだな」

「はい。こちらの世界の者は皆、『アラヘルム』の住人とされていますので、確認が緩いんです。私の情報は少し操作させてもらいました」

 帽子をかぶった深優がモニターを出す。変装用のメガネをくいっと上げていた。


「トーナメント表は出ていないみたいですね。直前にランダムで決まるようです。エントリー者は100名前後でしょうか。主にプレイヤーですね」

「ゴーダン様は・・・?」

 テイアがきょろきょろと周りを見渡している。

「控室は他にもあります。別のところにいるのでしょう」

「他の控え室には行けないのですか?」

「クリエイターのメンテが入ったキャラは私たちがいる控室とは違います。動かないほうが無難でしょう」

「テイア、今は余計なことするなよ。追い出されたらゴーダンには会えないぞ」

「わ、わかってますよ。そんな馬鹿な真似はしません。テイアは必ずここで、ゴーダン様を見つけるのです」

 鉄球を握りしめながら言う。



「やぁ!」

「!」

 プレイヤーの男が話しかけてきた。色が白く華奢な体をしていて、巨大な剣を背負っていた。


「君たち、こっちの世界の人間だろ?」

「あぁ・・・」

「そこの女の子たちめちゃくちゃ可愛いね。一人はメガネっこかぁ。やっぱ、ゲームはこうじゃないと」

 テイアと深優に視線を向けていた。

「・・・・・」

 フードを深々と下ろして、テイアを引っ張る。


 深優が帽子を押さえながら、前に出た。

「何か用ですか?」

「あ、急にごめん。こっちの世界の人間と話してみたかったんだ。俺。このゲームプレイしたばかりでさ」

 男が嬉しそうに周りを見渡していた。


「こんなふうに世界に入れるなんて夢みたいだよ。アバターもかっこいいし」

「近未来指定都市TOKYOのことを何か知ってるか?」

「あ、闇の王に転移させられた仮想都市だよね?」

「・・・・そうだ・・・・」

 深優がちらっをこちらを見た。


「びっくりしたよ。でも、近未来指定都市TOKYOと一部のクリエイターが『アラヘルム』に来てくれたおかげで、よりリアルにゲームを体感できるようになったらしい。今までコントローラーで動かしてたけど、全身がリンクしてるんだもんな」

「コントローラー?」

「テイア・・・」

 テイアが肩をすくめて、後ろに下がった。


「転移してきた者たちに戸惑いはないのか?」

「そりゃ、混乱してる人たちもいるみたいだけどね。でも近未来指定都市TOKYOは元々俺たちの世界と違うし、感覚がわからないな」

「・・・・・」

「俺からすると、同じなのに。ま、こっちとしてはゲームと自分たちの世界がより密接に繋がったみたいでワクワクしてるんだ。魔法も自由自在に使えるし」

 興奮気味に話していた。

 外の世界のプレイヤーはいつも同じようなことを言う。近未来指定都市TOKYOは自分たちの世界とは違う、と。


「めると! 装備品交換する約束だっただろ!」

 魔導士のプレイヤーが手を挙げて、男を呼んでいた。

「ごめん、今行きます。じゃあ、トーナメントで当たったらよろしくね」

「あぁ」

 男が軽く手を振って、他のプレイヤーの集団の中に入っていった。


「彼は弱いですね。他プレイヤーは強いみたいですけど」

 深優がぼそっと言う。

「なんか、神がこんなところにいるなんて窮屈ですね。もぞもぞします」

「苛立って、周りの物を壊すなよ」

「テイアを馬鹿にしないでください。そんなことしませんよ」

 テイアが鉄球を振り回そうとして止めていた。

 魔力がくすぶっているのがわかった。確かに巨人族にこの部屋は窮屈だろうな。



 ジジッ・・・


 控室のモニターの前に、小さな双子の少女が3Dホログラムで映し出される。


『皆さま、闘技場にお集りいただきありがとうございます』

 少女たちが深々と頭を下げる。


『私たちは審判をさせていただく、AIロボット、えまと・・・』

『りまです。よろしくお願いします』

 どこからともなく拍手が沸き起こっていた。周囲に合わせて手を叩く。


『ありがとうございます。では、ご説明させていただきます』

『自分以外の方のバトルを観戦できます。ここ、または上の観戦席で観戦してください』

『対戦相手はくじとなっています。こちらのモニターにご自身の名前が上がりましたら、このワープ用魔法陣から闘技場へ向かってください』

 えまがモニターの前にある魔法陣を指していた。


『プレイヤーの皆さま、このゲームは配信されています。投げ銭をされた場合、皆様のこちらでの通貨となります』

『勝ち抜けるように、頑張ってくださいね』

 りまがにこっとした。

 プレイヤーからはおぉっと歓声が上がっていた。


『その他、何かご質問がありましたら、私たちにお申し付けください』

「質問がある」

『あ、はい。どうぞ』

 腕を組んで、えまとりまに近づいた。


「闘技場内でプレイヤーが戦闘不能になった場合、向こうでの肉体も死ぬのか?」

「!?」

 プレイヤーがざわついていた。

『勝負の判定が付いた時点で、こちらの待機室に転移されます』

『すぐに回復スペースに入れば、問題ありません』

「間に合わないことってあるのか?」

 魔導士の男が寄ってくる。

『99,9%ありませんのでご安心を』

『私たちは皆さまに安心安全なプレイフィールドを用意していますので』

「・・・・・・・・」

 こっちの死がプレイヤーの元の肉体の死につながるというのは確かみたいだな。

 なぜ、クリエイターはそのように作ったのだろう。

 俺が転生する前の世界では、こんなルールなかったが・・・。



「トーナメントってなんだか緊張しますね」

「楽しそうだな」

「遊びじゃないですよ。あくまで、ゴーダン様を助けなきゃいけないので、仕方なくエントリーしたのですから」

 テイアが口角を緩めていた。


「・・・深雪もエントリーしていますね」

「トーナメントが出たのか?」

「いえ、配信してるんですよ」

「!?」

 深優がモニターをこちらに見せてきた。


 どこかの部屋にいる深雪が映っていた。

 後ろには闘技場があり、自分の装備品の説明をしている。

『闘技場でのバトルは久しぶりだからとっても楽しみなの。体力も魔力も全回復で調子がいいから、みんなも期待してね。属性は、武器に埋め込まれた魔法石によって変化するようになってて・・・』

「どうして深雪が・・・」


 バチン


「深優・・・」

 深優が途中でモニターを消した。

「あまり見ていると、私の正体がバレてしまうので。トーナメントで勝ち上がれば会えますよ」

「あ、あぁ・・・そうだな」

 ここにいるということは確かなのか。


「どうして、深雪はわざわざ配信しなきゃいけないんだ? 強制的にやらされてるのか?」

「そうですね・・・深雪が居ない時は私が深雪として配信していたので、理由はよくわかりますよ」

 深優が自分の掌を見つめる。


「配信しなければ生きられない・・・私たちは愛がないと生きられないんです。愛が私たちを生かしている」 

「どうゆうことだ?」

「パパからはそう聞いています。愛です。命は愛から生まれると・・・」

 深雪に似たサファイアのような瞳で、真っすぐ正面のモニターを見つめていた。



「見てください。トーナメントが表示されましたよ!」

 テイアがマントを引っ張ってきた。


『次の対戦はラルタ VS みゅー!!!!』

「ラルタ?」

「あ、いきなり私ですね。ラルタという偽名を使ったのです。ご安心ください、プレイヤーには負けませんので」

 テイアが弾むようにして、モニター前の魔法陣のほうへ走っていった。


「ラルタって・・・まさか」

「ラルタはテイアとして生まれ変わったんですよ。覚えていますか? 天界から魔界に送られてきたメイドのことを・・・」

「!?」

 深優が瞼を重くしながら言う。

 言われてみれば、ラルタに似ている気がしたが・・・。似ているというか、話し方以外は同じだな。


「知ってたのか?」

「もちろんです。ラルタと深雪は長い付き合いなので、私もラルタの記憶がありますから。ラルタは闇の王に恋してしまい、天界の者にも関わらず強引に魔界に行ったのですよ。ちゃんと思い出しました?」

「は・・・? いや、えっと・・・」

「人気者ですね。闇の王、アイン=ダアト様」

 意地悪くほほ笑んだ。

 軽く、咳ばらいをする。


「それより、ラルタは俺が死んだあと・・・・」

「ソラ様、バトルが始まりますよ。闘技場の観戦席に行きましょう」

「え・・・あぁ」

 深優が話を遮って、腕を引っ張ってきた。

 短い息を吐く。フードを深々と下げて、深優の後をついていった。

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