表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
91/149

90 自分で形作る未来

「ディラン、俺が留守の間、『リムヘル』のことを頼む」

『かしこまりました。でも・・・あの、指揮官が俺でいいのでしょうか?』

 ディランが整列した軍のほうを見ながら言う。

 生前、英雄と呼ばれた者たちが前のほうで背筋を伸ばしていた。

『人間に地位を譲るのは悔しいですが、あちらにいる者は更地から帝国を築いた者、勇者と呼ばれた者、国同士の戦闘に終止符を打った者・・・挙げだしたらきりがないほどの英雄たちです』

「それがなんだ?」

『・・・俺なんか、魔族の流れ者ですし、もっと闇の王のそばに相応しい者がいるのではないか・・・と。俺はソラ様に救われましたので、ここで地位を落としてもなんとも思いません』

 自信なさそうに話していた。

「お前は、俺が闇の王になった後も唯一友人で居てくれた奴だ」

『え・・・? な、なんのことでしょう』

「信頼しているという意味だ。これからもよろしくな」

「?」

 マントを後ろにやって、軍の前を通っていく。

 ディランは貿易商の息子、ハンスだった。強くは無いけど、頭は切れる。


「ソラ、これからどうするの?」

 アリアが近づいてくる。

「近未来指定都市TOKYOに行ってみる? クリエイターが何か作り出す前に、潰しておいたほうがいいんじゃない?」

「いや、俺は『アラヘルム』に行く」

「『アラヘルム』・・・・」

 顔をしかめていた。

「アリアとリーランは入れないんだろ? 『リムヘル』で待っててくれ」

「ソラ様のことは私に任せて」

 モイラが急に駆け寄ってきて、腕を絡めてくる。


「ふうん、随分楽しそうね」

「いや・・・俺は・・・」

「そう見える? やっぱり、私とソラ様はパートナーとして最高なのね」

 頭を掻く。モイラを連れて行くつもりはないんだが・・・。

「私はソラ様が居てくれたらどこでも幸せなの。ね、ソラ様」

「すぐ、くっつこうとするんだから。離れてよ」

「だって、私たち結婚するんだもの。ねー」

「結婚するわけないでしょ! もう、離れてってば」

 アリアが強引に引き離すと、モイラがむっとしてにらみ合っていた。

 こいつらの相性は最悪なんだよな。城にいる間も何かと喧嘩してるし・・・。


 ありさはもう少し、控えめな性格だった気がするんだが。




 キィッ・・・


「あ、蒼空様」

 医務室のドアを開けると、ヒナが立ち上がった。

 ヴァイスはまだ、眠ったままだ。

「目が覚めないか」

「リーランが、魔力と体力は安定してきてるけど、目を覚ますにはもう少し時間が必要って言っていました」

 ヴァイスを見ながら言う。

 顔色は良くなってきていたが、内臓の損傷が激しいのだろう。枕元には呼吸を補佐する魔法陣が描かれていた。


「軍のことは・・・・」

「軍はディランに任せてある。ヒナも疲れただろうから、しばらくここにいてくれ」

「・・・・ありがとうございます」

 ヒナがゆっくりと、椅子に腰を下ろす。

「蒼空様・・・『アラヘルム』に行かれるのですか?」

「あぁ、今回は一人で行くつもりだ。モイラに追いかけまわされたけど、どうにか巻いてきたよ」

「蒼空様は人気者ですね。私も蒼空様と行きたいですが・・・」

「悪いが、ヒナは連れて行けない」

「・・・・そうですよね」

 肩を落としていた。

 ヒナを『アラヘルム』に連れて行くのは危険だ。椅子に座って足を組む。


「何か、飲み物を持ってきましょうか?」

「じゃあ、ハーブティーを頼む」

「はい」 

 ヒナはヒスイだった。


 転生したのか、転移させられたのかはわからない。俺が死んだとき、ヒスイはまだ生きていたはずだ。

 ヒナの様子を見る限り、『ユグドラシルの扉』のゲームにいたときの記憶はなさそうだが・・・。


 ヴァイスは何か知っているのだろうか。


「深優・・・とは何か話しましたか?」

「いろいろとな」

「そうですか・・・私はすれ違っただけですが、水瀬深雪にそっくりでしたね」

「あぁ、深雪のコピーだなんて、残酷だよな」

「蒼空様はすぐに水瀬深雪じゃないと気づいたのですか?」

「まぁな。深雪は配信でよく見てたし、ありがとう」

 カップを受け取る。湯気からラベンダーの香りがした。



「蒼空様、私、水瀬深雪をみていると、なんだか懐かしい気持ちになるんです」

「・・・・・・・」

「彼女の魔法をどこかで見たような気がして。自分でも不思議なんですけど、どこかで会ったことあるような・・・」

「気のせいだろう」

「そ、そうですよね。すみません」

 ヒナの状況がわからない以上、今は『ユグドラシルの扉』でのことは言わないほうがいいのだろう。


「RAID学園からヒナのところにアクセスなかったか? 俺はモニターを壊したから、つかなくなったんだ」

「モニターは大丈夫ですけど、RAID学園自体が予備電源で動いてるようですね。配信プラットフォームにアクセスできなくて、SNS関連が全滅してます」

 ヒナが目の前にモニターを表示した。インターフェースが少し崩れている。


「んー、アクセスはありましたが、RAID学園じゃありません。どこなんだろう・・・」

 画面を見ながら、指を口に当てる。


「調べてもらえるか? あと、できれば俺のモニターも修復してもらえると助かる」

「わかりました。こちらの情報が漏れないようにしながら調べてみますね」

「無茶だけはするなよ」

「はい」

 大きく頷いて、ほほ笑む。



 バタン


「!!」

 急にドアが開いて、テイアが立っていた。


「やっと見つけました。この城の医務室は二重結界になってるのですね」

「蒼空様・・・」

「何しにきた?」

 深淵の杖を出す。

「このままでは死の神ヴァイスは目覚めません。ティターン神族の呪いは魔女ごときが治せるわけありませんので」

 テイアが掌に青い光を灯していた。


「治してあげます」

「なぜ・・・・」

「ティターン神族は借りを作らないのです。裏切り者であっても、仁義は通さなければなりません。これは、ポロスを弔わせてくれたお礼です」

 テイアからは殺気を感じなかった。

 ヒナを後ろにやって、杖を下げる。


「闇の王に敵わないことくらいわかっております。誇り高きティターン神族は嘘を付きません」

「わかった。お前を信じる」

 許可すると、テイアがゆっくりとヴァイスに近づいた。

 青い光を胸元に移す。


 わからない言葉で、小さく詠唱し始めた。

 光がヴァイスの体に染み込んでいく。


 シュウウウウウ


 光が無くなると、顔色が良くなっていった。呼吸が正常になっていく。

「ヴァイス!」

「っ・・・・・」

 ヴァイスがうっすらと目を開けていた。

「これで、貸し借りは無しです」

「ま・・・待て・・・・・」

 ヴァイスがゆっくりと体を起こす。テイアがピアスを揺らして振り返る。


「治したとはいえ、完全ではありません。横になっていたほうが・・・」

「神々はまだ、この世界に従うのか?」

「少なくとも、ティターン神族はそう決めております。テイアは皆に従います」

「ゴーダンが『アラヘルム』にいる」

「!?」

 テイアの表情が変わった。


「嘘です! どうして、そんなことがわかるんですか? まさか、し、死者のリストに・・・」

「死者のノートに書かれていたわけじゃない。俺にも秘密があるんだよ。詳しくは言えないけどな」

「ゴーダンって誰だ?」

「ティターン神族の巨人だ。兄弟の中でも知性派で、テイアの二番目の兄にあたる。単独行動を好む変わった奴だ」

「・・・・そんな・・・ありえません」

「嘘だと思うのは構わないが、事実だ。クリエイターと接触しに行ったんだろう」

 ヴァイスが軽く頭を押さえながら言う。


「ゴーダンが・・・?」

「思うんだ。俺たちはもう、自分の目で見て、耳で聞いて考えなければならない時が来てるんじゃないのか? 神といったって、間違えはある」

「・・・・・・・・」

「自分の道は自分で開くべきだと思うんだ。与えられた役割に縛られることなく、ね」

「テイアは誇り高きティターン神族です。死の神の言葉には惑わされません」

 強い口調で言って、背を向けた。


「・・でも、馬鹿ではありません。考えます」

 床を見つめながら、ドアを開けていた。廊下から、食事を運ぶような音がする。


「悪い、ソラ。しばらく、戦地に行けそうにない」

「いや、礼を言う。お前のおかげで、ヒナが助かった」

「あ、ありがとうございます」

 ヒナがはっとして頭を下げていた。


「寝ている間、ヒナがお前の面倒を見てたんだ」

「え? ヒナさんが?」

「はい。といっても、そこの魔法陣はリーランが描いたものなんですけどね。私は、本当に補佐的な形で・・・」

「へ、へぇ・・・いい魔法陣だと思ったんですよね。あ、えっと、寝てたから曖昧なんですけど、夢で、そう、夢で見たんですよね。なんか、いろんな夢見て、ヒナさんも夢とか見ます?」

「??」

 ヒナが首を傾げる。ため息をついて、リーランのかけた魔法陣を解いた。

 数分くらい、ヴァイスが顔を赤らめながら、早口でわけのわからないことを話していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ