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83 ユグドラシルの樹 ~転生者の過去⑪

 チチコの軍がプレイヤーをどんどん魔法を展開していた。

 ワルプルギスの夜が魔族に無限の魔力を与えている。

「うわあああ」

 プレイヤーの魔導士に矢が突き刺さる。


「レン!」 

「・・・・やはり、力が足りないな。ゲームオーバーだ。後は頼む」

 プレイヤーが次々に消えていった。

 巨大化した魔族が近くにいた近距離攻撃のプレイヤーをなぎ倒していく。

「リコのパーティーがやられた!」

 剣士がモニターを見ながら叫んだ。


「ものすごい戦力差だ。これが魔界・・・」

「こんなの無理ゲーだ」

「だから楽しいじゃないか。いつもの、クエストや闘技場でのバトルには飽きてたんだ」

 プレイヤーは弱かった。

 ただ、装備品を切り替えて攻撃手法を変えるのが厄介だった。魔族は陣形を変えながら着実に追い詰めていた。


「さりな! 現在怪我人に治癒魔法を」

「わかったわ」

 モニターをスクロールして、白い杖に切り替えている。

 大きな翼を持つ魔族がひゅんと飛んで、毒の雨を降らせた。

「毒だ。毒にやられた。動けない」

「解毒剤を・・・・・」 

「俺、持ってるからそっちに」

 賢者がぽんと解毒剤を投げていた。


 プレイヤー同士の連携は取れているようだ。

 戦闘慣れしているのは伝わってきた。

 立て直し方、戦い方、魔族との戦闘が初めてではないのがわかった。

 アースにあるダンジョン攻略で培ったものだろう。


 魔界にいる魔族には敵うわけないけどな。


 ― 悪魔の業火ジュドー― 


「!?!?!?!?!?!?」

 魔女が唱えると、プレイヤーたちのほとんどが焼かれて消えていった。

 ワルプルギスの夜の儀式には選ばれなかった魔女だが、今、闇の力の渦は彼女にあった。




「おっと、ここは通しませんでし」

「!?」

 逃げようとしたアースの人間の前にチチコが立っている。

「そう簡単には逃がさないでしよ。魔界に勝手に入ってきて、プレイヤーを連れてくるなんておバカにもほどがあるでし」

「この子が、指揮官・・・」

 人間に付き添っていた3人のプレイヤーが剣を構えていた。


「そうでしよ。一掃してやるでし」

 チチコがにやっとしながら角を生やした。 


 カンッ


「闇の王子、いつまでそこで傍観しているつもりだ?」

 青髪の少年が剣を持って、岩を飛び越えていた。

「リュウ!! 止めておけ!」

「俺の相手は闇の王子だ」

 仲間の制止を振り切って、真っすぐに俺に向かってくる。手をかざして、攻撃を止めた。


「なっ・・・・」

 少年が土を蹴って踏ん張っていた。

「攻撃力を最大限まで上げたのに・・・闇の王子の力はここまでなのか・・・・」

「お前ごときの攻撃が効くわけないだろう」

「・・・・!?!?」

 人差し指で剣を押す。


「あ・・・ありさ様をどこにやった!?」

 一度だけ攻撃力を最大限まで上げるアイテムを利用しているようだ。

 剣から禍々しい魔力を放っている

「ありさがどうした?」

「俺はリュウ、ありさとは長い間一緒のギルドにいた。ありさ様を返せ!」


 ガンッ


「!?」

 剣を弾く。

「くっ・・・・」

「ありさは自ら魔界に来た。人間が嫌だったからではないか?」

「・・・ありさ様がそんなこと言うはずがない。あんなに闘技場でのバトルを楽しみにしてて・・・・」

 素早く、リュウの胸に剣を突き刺した。


「な!?」

 リュウのモニターの数値がゼロに近づいていく。

「ここまでだ」

「・・・何度でも来てやる。何度ゲームオーバーしたって、絶対に、ありさ様を救ってみせ・・・・」


 ジジ・・・・


 リュウが言う前に光の粒になっていった。


 うわあああああああああ


 人間たちの悲鳴が上がる。

「魔界に来るなんて、バカな人間たちでし」

 チチコがプレイヤーを倒してから、人間たちを殺していた。虹の橋の前に、バタバタとアースの人間たちの亡骸が転がっていく。


「俺以外死んだか・・・」

「そうでしね。プレイヤーはあんなにあっさり死ぬのに、人間たちは随分うるさいでし。命が違うからでしね」

「・・・・・・・」

「あんたはプレイヤーといたって、プレイヤーにはなれないでしよ」

 すっとチチコの横に立つ。

 頬に飛び散った血を拭っていた。


「こっちはどうだ?」

「アイン=ダアト様、こいつで最後になります」

「闇の・・・・王子か・・」

 鎧を着た40代くらいの男が息を切らしながらかろうじて立っていた。


「こ、殺すなら、早く殺せ・・・闇の者」

 腕を組んで男を見る。

「お前が今回の首謀者だな?」

「・・・・・・・」

 男の表情が変わった。

「そうなのでしか?」

 チチコが剣を降ろしてこちらを見る。


「こいつはロトのギルドマスターだ」

「・・・・あぁ、そうだ。よくわかったな」

 大剣を肩に背負っていた。 


「プレイヤーはさっきからお前から視線を逸らすように攻撃を打っていた。バリアも、魔族から離れた場所にいるお前まで届くようにかけていた。よほど死なれたら困るのだろう」

「そんなところまで見られていたか」

「さすが、アイン=ダアト様でし」

「・・・・・・・」

 チチコが甲高い声で言う。男が短い息を吐いた。


「ロトのギルドマスターが、プレイヤーに担がれてこんなところで死ぬとはな」

「はははは」

 軽く咳をしながら笑う。

「俺を殺しても、何度でもプレイヤーはお前に戦いを挑むだろう。あの、虹の橋が架かったときから・・・・いや、その前からずっと決まっていたことだ」

「・・・・・・」

「世界は変わったんだよ。プレイヤーは絶対的だ。俺はプレイヤーを積極的に受け入れたし、好かれてたからな、ここで俺を殺せばさらに闇の王子を恨む」

 剣を出して、闇の力をまとわせる。


「プレイヤーにとって魔界攻略のいい口実ができるな」

「負け惜しみか」

「そんなところだ」

「アイン=ダアト様、早く殺してワルプルギスの夜に行きたいでし」

「ちょっと待ってろって。あとでなんか奢ってやるから」

「わかりましたでし・・・・羊の肉がいいでし・・」

 チチコがつまらなそうに地面を蹴っていた。


「ギルドマスターがどうして魔界に来た? プレイヤーが来る前は、来ようともしなかっただろう?」

「そうだな・・・・ん? お前、なんか見覚えのある顔だ。どこかで会ったか?」

「人違いだろう」

「・・・・そうか・・・確かに俺は魔界に知り合いなどいないからな」

「・・・・・・」


 ロトのギルドマスターはよく知っていた。

 たまに見に行く酒場で、数回だけ話したこともあった。ギルドに依頼が来たクエストの話ばかりで、魔界のことは一度も聞いたことがなかったが・・・。


「そうか。俺は死にたかった。こいつらも・・・・」

「ふん、強がりでしか?」

「いや・・・みんな狂人になったんだ。お、毒がきたみたいだ・・・解毒剤は効かなかったのか」

「当然だ。闇の力を含む毒だ、解毒剤などない」

「そうか」

 浅く笑いながら言う。

 地上に転がった人間たちを見ていた。


「知って・・・いるだろう? ここはクリエイターの・・・作った世界な・・・んだってな」

 一言話すたびに、ひゅーひゅーと呼吸していた。


「すべての・・・生き物の脳は、クリエイター・・・・に埋め・・・込まれた人工知能によって・・・動いている・・・んだってよ」

「だからなんだ?」

「きっと・・・・どんなにダンジョンを攻略したって、クエストをこなして強くなったって、生き物・・には、大きな・・・・シナリオがあるんだ。俺も・・・こいつらも、その一部」

 ふらつきながら言う。

「・・・・・・・」

「この世界は・・・広いようで狭い。どう抗っても・・・クリエイ・・・ターやプ・・・レイヤーの居る・・・世界には敵わない・・・んだ。それなら・・・・」


 ザンッ


「っ・・・」

 男に剣を突き刺した。鼓動が消えて、地面に倒れる。


 バタン


「お前の考えなんて興味はない。生きる気が無いなら死ね」

 剣を消す。男の血が地面にしみこんでいった。


「ふぅ、これで片付けが終わりましたね。アイン=ダアト様、この辺の死体はどうしましか?」

「綺麗にしておけ」

「かしこまりました」

 チチコが軍の元に戻って、指示を出している。


 ロトのギルドマスターの死体を見下ろした。こいつは俺に怯えていたわけじゃない。

 最期の最期まで、この世界を作った者たちに怯えていた。


 プレイヤーは何度でも、魔界に来る。

 クリエイターの作ったシナリオの中では、闇の王子である俺はいつ死ぬんだろうな。

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